琥珀色の戯言

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【読書感想】本当は日本が大好きな中国人 ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
反日デモ、抗日ドラマ……。
こうした連日のメディアの情報は
「中国人はみんな反日だ」というイメージを私たちに植えつける。
しかし、実際は「中国人は実は日本が大好き」だった。
数々の具体例で既成概念をひっくり返す画期的中国人論!


 以前、『林檎の樹の下で 〜アップルはいかにして日本に上陸したのか〜』という本を読んだのですが、そのなかに、こんなエピソードがありました。
 「アップル2を最初に見いだした日本人」水島敏雄さんが、のちに、宴席で口にした言葉。

 「私はアップルの製品は愛しているが、アップルの人間は大嫌いだ」


参考リンク:【読書感想】林檎の樹の下で 〜アップルはいかにして日本に上陸したのか〜(琥珀色の戯言)


 この『本当は日本が大好きな中国人』を読みながら、これを思い出さずにはいられなかったのです。


 政治的には、長年うまくいっているとは言いがたい、日本と中国。
 その一方で、経済的には「切っても切れない関係」であり、来日する外国人観光客の半分くらいは中国籍なのだとか。
 尖閣諸島歴史認識についての「問題点」ばかりがニュースではクローズアップされがちなのですが、長年中国で取材し、生活してきた著者は、「それはそれとして」多くの中国人が、日本という国や文化に対して憎からず思っていることを実感しているのです。

 渋谷の東急百貨店や新宿伊勢丹では、やはり大勢の中国人客がブランドショップで買い物をしている。一流ブランド品は中国国内より確実に2〜3割は安い。それに円安が加わって、ものすごいお得感がある。何より、中国の店よりもずっと品揃えが豊富だ。百貨店には中国語が堪能なコンシェルジュが必ずおり、日本語がわからなくても困ることはない。
 中国人観光客の目当ては何も買い物だけではない。「ひと夏、北海道で過ごしたい。特に観光したいわけではないの。空気のきれいなところで、ゆっくり書き物をしたい。ビザはどうすればいいのかしら」と、知り合いの中国人作家が私に問い合わせてきた。大気汚染のひどい北京から脱出したい。逃亡先は日本がいいという。「中国国内にも大気のきれいなところはある。しかし、そういうところはなんにもない田舎や、観光施設以外なにもないリゾート地。日本のように大都市機能を持ちながら空気も水もきれいなんてところは、そうそうない」

 少なくとも、日本にやってきて「爆買い」できるような層の中国人には、日本は憧れの地、あるいは、現実的に手が届く理想に近いリゾート地のようなのです。
 2015年1月から中国人の訪日ビザの要件が緩和されたこともあり、今年(2015年)は、さらに中国人観光客が増加することが予想されています。
 僕の家の近くでも、最近、中国人観光客らしき人をよく見かけます。
 なんでこんな田舎に?と思っていたのだけれど、どうも、近所のアウトレットモールに買い物に来ているみたいなんですよ。
 コンビニで働いている中国人らしき人も、よく見かけるようになりました。


 これを読んでいて驚いたのは、僕にとっては「なぜそれに興味を持つの?」と思うような日本のものが、中国では大人気になっていることでした。

 一方、中国の南部鉄瓶ブームは2010年ごろからだろうか。2011年1月に華僑向け通信社中国新聞がこんな南部鉄瓶ブームについて報じている。
「南部鉄瓶、特に骨董品の値段が、目下中国市場で高騰して留まるところを知らず、入手が困難となっている。大勢の中国人観光客が岩手県に押し掛け、取り合うように南部鉄瓶を購入している。10万円以上もするものが、一番の売れ筋という。南部鉄瓶は日本製炊飯器に続く、中国訪日客のお目当てとなっている」

 なぜ、南部鉄瓶?
 しかも、「日本の一般客は数万円程度の鉄瓶を買うくらいなのに、中国人観光客は、みんな一つ10万円以上の鉄瓶を買う」のだそうです。
 実用品としてだけではなく、コレクションとして。
 中国のお茶は日本茶よりも高い温度のお湯を使用するため、南部鉄瓶は実用的だそうなのですが、それにしても、中国人もリッチになったものだなあ、と。
 もちろん、もともとの人口が多いので、「裕福な人の割合」は、まだまだ低いのかもしれませんが。
 ちなみに、鉄瓶をオークションに出すと高値で売れるので、投機目的、という面もあるそうです。


 田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』が中国で大人気だという話も出てきます。
 日本の『銀英伝』ファンのひとりとしては、なんだかちょっと嬉しい。

 私が上海に留学していた1998年当時、『銀英伝』アニメの海賊版がすでに流入、原作を読む前にアニメで好きになった人も少なくない。『銀英伝』に影響を受けた中国若手SF作家もたくさんおり、というか、宇宙を舞台にした中国SFで『銀英伝』の影響を受けていない作品はない、とまでいわれている。武侠(武術・任侠をテーマとした中国の大衆小説のジャンル)ファンタジー『誅仙』の著者の蕭鼎なども、『銀英伝』崇拝者のひとりである。
 海賊版で中国にすでに広まっていたのだが、2006年に正規版が出版されるとブームは再燃。ネットやメディアでも取り上げられる話題となった。一番喜んだのは、もう海賊版で物語を読み尽くしたはずの『銀英伝』ファンだった。私も、懐かしくなって中国語版を買ってしまった。宝塚歌劇かと思うような過剰にして華麗な修飾語がいっぱいのセリフは中国語にうまく翻訳されていたのだが、一つだけ不満は、主役級登場人物のひとり、「ヤン・ウェンリーの名を楊威利(ヤン・ウェイリー)に変えていたこと。ウェンリー(文利)だと、軍人として弱々しい印象だからダメなのか。

 僕も、キャラクターとしては「文利」だと思うのですが。
 まあ、そういう『配慮」が実際にあったかどうかは、わからないんですけどね。


 著者は、中国での『銀英伝』人気の理由について、こんな考察をしています。

 中国では現実の歴史や政治思想をもとに、考察したり論評したりする自由が制限されているので、架空の小説に現実の政治を反映させたり思想を盛り込む手法が発達してきた。『銀英伝』は、そういう意味で、非常に中国的な小説でもあるのだ。これが人気の本当の秘密だと思う。
 この小説は、賢君による専制が、衆愚に陥った民主より優れている部分を描きながらも、数世紀に一度ぐらいしかない賢君の登場に自らの運命を委ねるより、欠点を抱えながらも人びとが自らの運命を選び取ってゆく民主政治の優位性という本質を説く。
 毛沢東訒小平という苛烈ながら魅力もあった強人による専制政治を経験したあと、凡庸な為政者により腐敗が限界までに拡大した一党独裁の中国としては、いずれの道に進むべきか、などと若者が考えるためのヒントには十分になるわけだ。


 そういう意味では、『銀英伝』というのは、すごく「中国的」な小説だと言えるのかもしれません。
 作者の田中芳樹さんの他の作品からも「中国好き」が伝わってきますし。
 こうして、同じ小説を読んでいる人たちだと思うと、「近い国ではあるし、似たようなものなのかもしれないな」という気がしてきます。
 中国の若者たちは、共産党に思想を植えつけられて、難しい議論ばかりしている、というわけでもなく、日本発のものも含めて、僕と同じようなエンターテインメントを楽しみながら、人生を過ごしているのです。

 『ドラえもん』が多くの人びとに愛されていたり、映画『おくりびと』が、中国の葬儀に携わる人びとに大きな影響を与えたり。
 政治的な諍いはなかなか尽きないけれど、「エンターテインメント」や「文化」の面では、たしかに、「中国人は、日本(文化)が大好き」なんですよね。


 これを読むと、中国の「普通の人たち」に、けっこう親近感がわいてきます。
 ただ、それが「日本人への感情」に結びつくかどうかは、微妙なところもあって。


「私は日本の文化は愛しているが、日本の人間は大嫌いだ」
 そう思っている人も、少なからずいるのではないかなあ。


 必ずしも、「良い人が、良い作品をつくる」わけではない。
 それは、世界共通だとは思うのですけどね。
 

林檎の樹の下で ~アップルはいかにして日本に上陸したのか~

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