琥珀色の戯言

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【読書感想】チャイナハラスメント: 中国にむしられる日本企業 ☆☆☆


チャイナハラスメント: 中国にむしられる日本企業 (新潮新書)

チャイナハラスメント: 中国にむしられる日本企業 (新潮新書)

内容紹介
詐欺的な契約、デタラメな規制、利用される「反日」……。「無法国家」でのビジネスに未来はない! 改革開放以来30年の変遷を見てきたスズキの元中国代表が、中国人ビジネスマンの頭の中と共産党の思考回路を徹底解説。


内容(「BOOK」データベースより)
世界シェアトップのトヨタの販売台数が、なぜ中国ではGMの三分の一なのか。そこには「チャイナハラスメント」とでも呼ぶべき巧妙な嫌がらせが関係している。反日に傾く世論を気にする共産党にとって、中国に進出した日本企業は格好の標的なのだ。改革開放以来三十年の変遷を見てきた著者が、中国人ビジネスマンの頭の中と共産党の思考回路を徹底解説。中国ビジネスに求められる「冷徹な戦略」も詳述する。

 この新書を書店で見かけたときの率直な印象は「内容に興味はあるのだけれど、こういう『嫌中・嫌韓』系のタイトルの本って、偏見に満ちあふれているような感じがするし、引きずられないように注意すべきなんだろうなあ……」だったんですよ。
 一度は手にとったあと書架に返したのですが、やっぱり気になったので、後日読んでみました。
 

 私はこれまで多くの講演会に招かれ、中国に関する話をしてきました。講演を聴かれた企業幹部と話をすると、その多くの方が「中国ビジネスを行う上での基礎的な知識を欠いていた」と吐露されました。
 本書では、こうした心情にお応えするため、日本企業が中国ビジネスを展開するに際して知っておくべきポイントを具体的に指摘してあります。事前に一言だけ申し上げるとすれば、「日本人と中国人は、あまりにも違った人たちであり、もし関わろうとするのならば相当な覚悟を持って臨むべきである」ということです。その覚悟がないのならば、中国と関わるべきではありません。中国は人口が多くて市場がありそうだとか、人件費が安そうだ、日本企業が多く進出しているから何とかなりそうだなどの単純な理由で進出するのはもってのほかです。

 この新書、中国で30年来仕事をし、自動車メーカー・スズキの元中国代表なども歴任してきた著者による、「中国で日本人が仕事をしていくことの難しさと、著者なりのノウハウについて述べたもの」なんですよね。
 中国人ビジネスマンや役人たちが「一筋縄ではいかない人達」であることが赤裸々に描かれているのですが、相手を不当に貶めているというよりは、「相手の術中にハマって泣き寝入りする羽目に陥らないための貴重なアドバイス集」です。
 あまりにも日本の商習慣とは違いすぎる中国でのエピソードを読むと、「この国で仕事をするのは大変そうだなあ」と思わずにはいられないのですけど。

 中国人ビジネスマンは二つの倫理観を持っています。一つは自分が所属する内組織のなかでの倫理で、これは「人を騙してはいけない」とか「約束を守る」といった、我々と同じ倫理です。
 もう一つは、外組織の人間に対する倫理で、この倫理が適用される相手には、約束を守らなかったり契約を反故にしたりすることも悪いことだと考えません。それも「交渉の一部」だと考えるのです。いうまでもなく、日本人ビジネスマンはすべて「外組織」の人間ですから、中国人ビジネスマンと交渉する際には「交渉の手段として相手はウソをついてくることもある」ということを片時も忘れるべきではありません。
 中国では、交渉相手に気持ちよく接して親切にする一方で、商品にとんでもなく高い値段をつけたり、客に黙って欠陥商品を売りつけたりすることは、倫理に反することにはならないのです。交渉相手や客は「外組織」の人間だからです。中国のデパートの電気製品売り場などで、客がその電気製品を実際に通電させて、機能を確認して購入する姿をよく見かけるのは、そういう事情があるからです。
 中国で生活していると、偽札が非常にたくさん出回っていることに気づきます。なぜ偽札が多く出回っているかと言えば、偽札と分かっても、中国人はそれを警察に届けずに使ってしまうからです。警察に届け出れば偽札が没収され自分が損をします。自分が騙されたのなら、誰かを騙し返すわけです。偽札を掴まされたのなら、掴まされたほうが悪いのです。
 車を購入するときも同じような光景に出くわします。あるとき、地方の販売店を訪問していたら、販売店の社員が展示台に陳列してあった車を陳列台から下していました。展示品の入れ替えをするのかなと思っていたら、なんと「この車が売れたから展示台から下している」というのです。同色で同じ仕様の車が倉庫にあるのだからそれを渡せばよいのにと思いましたが、中国ではそれが通用しないのです。お客さんは販売店を信用していないので、倉庫の車を購入すれば何かの部品を変更されるだろうと考えているのです。

 日本では「展示車」といえば、少し値引きされるのが通例だと思います(すごく品薄の車であれば別かもしれませんが)。いろんな人が触ってきているから、と。
 ところが、中国人は、「目の前にあるものしか、信じられない」
 実際のところ、それは民族性というより、共産党一党支配のもと、さまざまな不正行為がまかり通ってきた歴史を経ての人々の生活の知恵、みたいなものだとは思うのですが、「騙されるほうが悪い」という相手との交渉は、「性善説」的な商取引を理想とする日本人にとっては、かなりストレスがかかるのです。

 中国のある地方の会社を訪問したときの事です。我々の一行6名がソファーに座り、その会社の幹部と商談をしていると、女性が飲み物を運んで来てくれました。彼女が、お盆に乗せた飲み物のコップの一つを渡そうと腰をかがめた時、お盆の上に載っていた他のコップが滑り落ちてしまいました。それらのコップは、正面に座っていた我々訪問団の団長の太腿の上に落ち、ズボンがびしょ濡れになりました。
 そのとき、彼女は何と言ったと思いますか?
 当然、「すみません」とは言いませんでした。「すみません」の代わりに「私が悪いのではありません。足元の絨毯が少しずれて高くなっていました。それに足がかかりつまづいて、コップがずれでこぼれたのです。床を掃除する係が悪いのです」と、スラスラと言い訳をしたのです。
 中国では、彼女の対応が正しいのです。日本人であれば開口一番「すみません」と言ったことでしょうが、中国人の「すみません」は「責任を取ります」と同義語ですから簡単には口に出せないのです。


 この新書を読んでいると、中国人のビジネスの世界での「とにかく自分の側が良ければいい」という考え方に、うんざりしてくるのです。
 本を読んでいるだけの僕でさえそうなのですから、現場でやっている日本人ビジネスマンは、たまらないだろうなあ、と。
 ただ、彼らが悪人というわけではなくて、いまの中国の制度上、結果を出さないと、すぐに引きずりおろされてしまうので、なりふり構ってはいられない、という面もあるのです。
 みんながエゴイスティックに自分の利益を追求しているなかで、それに逆らうのは難しい。
 単に「できない人」と見なされてしまうだけだから。


 著者は、「中国人ビジネスマンとの交渉術二十箇条」をこの本の第六章で紹介しています。
 そのなかには、こんなものもあるのです。

第十四条 サインするときには文章を確認すること
 中国側が最も得意とする、文章の改竄や挿入、付け足しが起こっているかもしれませんので、必ずサインをする前に確認してください。読み合わせの確認を怠って、泣き寝入りした企業は数えきれません。一旦サインしてしまえば、訂正はききませんので念には念を入れて文章を確かめてください。2〜3か所の改竄や挿入、付け足しは普通にあるものです。


 「普通にあるものです」って……
 なんだかもう、これを読んでいるだけで、うんざりしてきます。
 

 そもそも、日本企業にとっては、反日デモ共産党との関係など、中国で仕事をすることのリスクが大きく、中国の経済成長に伴って賃金などのコストも上がってきているので、生産拠点を置くことのメリットは少なくなってきています。
 日本企業にとっては、「これから中国で新しく何かをはじめる」時代ではなくなってきているのです。
 とはいえ、いくら政治的にはギクシャクしているとはいえ、経済的には切っても切れない関係ではあるんですよね。
 日本の、とくに九州の観光業にとっては、中国からの観光客というのは、大きな割合を占めてもいます。


 正直、この新書を読んでいると、「生半可な気持ちで、中国で日本企業がやっていくのは難しいよなあ、というか、そこまでして、中国に行く必要は無いのでは……」と思えてくるのです。
 これから中国で働くかもしれない人は、一度目を通しておいたほうが良い新書じゃないかな。
 「実際はこんなにひどくない」のなら、それに越したことはないのだから。

 

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