琥珀色の戯言

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【読書感想】さらば白人国家アメリカ ☆☆☆☆

さらば白人国家アメリカ

さらば白人国家アメリカ


Kindle版もあります。

内容紹介
「二大政党の将来がどうなるかはわからない。ただ言えるのは、アメリカが白い肌に青い目で英語を話す人々の国だった時代は、確実に終わるということだ」――トランプ対ヒラリー、史上最悪の大統領選が暴いた大国の黄昏。在米の人気コラムニスト町山智浩氏が、党大会、演説集会をはじめ各地の「現場」で体感したサイレント・マジョリティの叫び!


 町山智浩さんのアメリカからの現地レポート、僕もずっと楽しみに読んでいます。
 現在は、アメリカ大統領選挙直前であり、「アメリカの選択」が世界から、あらためて注目されているのです。
 ドナルド・トランプ候補、投票が近くなって、セクハラ報道が相次ぐなど、逆風が吹き荒れ、出馬元の共和党の実力者たちからも見捨てられ……という状況で、さすがに「炎上商法」も限界か、と思われていました。
 ところが、2016年11月8日に予定されている大統領選挙の寸前になって、民主党ヒラリー・クリントン候補の私用メール問題が再燃するなど、まだ選挙の行方は混沌としています。
 なんのかんの言っても、トランプ候補って、根強い人気があるし、多くの人に支持されているんですよね。
 「有識者」たちが、「あんな無茶苦茶なことばかり言っている人がアメリカの大統領になったら大変だ」と言っても、「トランプ旋風」は、なかなか止まないのです。
 

 トランプが2015年の7月に大統領選に出馬した時、共和党は、単に売名が目的の泡沫候補と高をくくっていた。案の定、トランプは討論会や演説で、政治家として致命的な発言を繰り返した。
「メキシコからの不法移民たちが強姦魔と麻薬の売人ばかりだ」
「大統領になったら1100万人の不法移民をすべて国外退去させる」
「メキシコとの国境に万里の長城のようなゴージャスな壁を築く!」
 トランプの人種差別的な暴言は、リベラル側以上に激しく共和党内で叩かれた。下院議員ポール・ライアンをはじめとする共和党主流派や、右派の論客までがトランプを「憲法違反」「差別主義者」と攻撃した。
 共和党系のケーブル・テレビ局「FOXニュース・チャンネル」は、候補者のディベート(討論会)で、トランプをPC(ポリティカル・コレクトネス」政治的に正しいこと)ではないと批判したが、トランプは「アメリカはPCを気にしすぎだ。そんなものを気にしてたら中国に勝てない」と開き直った。


 2016年の3月にイギリスの「エコノミスト」誌とリサーチ会社ユーガヴが2000人を対象に行なったトランプ支持者への「彼の人気の理由は何だと思いますか?」という質問へのもっとも多かった答えは、「PC(ポリティカル・コレクトネス)でないこと」(39%)だったそうです。

 誰がトランプを支持しているのか。
 出馬表明のすぐ後、2015年8月にユーガヴ社が行なった調査によれば、まず、トランプ支持者の9割は白人。半分は45歳から65歳で、65歳以上も34%。つまり8割以上が中高年だという。大卒率はわずが19%。また、3割以上が一人当たりの年収5万ドル以下。年収10万ドル以上の高所得者は1割だった。
 だが、トランプ支持者は貧しいわけではない。2016年5月の調査では、トランプ支持者の世帯年収の平均は7万2000ドルだった。全米平均では5万6000ドルだから中の上だ。ちなみに民主党の2人の候補ヒラリー・クリントンバーニー・サンダースの支持者の世帯年収の平均は6万1000ドル。民主党支持者には、都市部のリベラルなインテリも多いが、独身の若者や学生、黒人、メキシコ系の貧しい人々も多いからだ。
 まとめると、トランプ支持者の平均像は、夫婦で年収7万ドル台の中流、中高年の高卒の白人ということになる。


 「学歴は高くなくても、地道に働いてそれなりの生活ができるようになった中高年の白人」がトランプ支持層なのです。
 「すべてをぶっこわせ!とやけになっている『持たざる人々』」ではないのですね……


 この本を読んでいると、ドナルド・トランプという人は、ネタになるというか、とにかく「面白い」んですよね。
 トランプ候補は大富豪という触れ込みなのですが、今回の選挙に関しては、あまりお金を使っていないそうです。
 なぜなら、メディアのほうから、トランプ候補の一挙手一投足を「報道」してくれるので、自分たちでお金を出して広告を出す必要がないから。


 FOXニュースの看板女性キャスター、メギン・ケリーさんとのこんなやりとりを町山さんは紹介されています。

 メギン・ケリーは執拗にトランプに食いつく。トランプがかつて「デブとブスとノロマな女は大嫌いだ」と女性差別的な発言をしたことを突いた。トランプは「それはロジー・オドネルのことさ」と笑った。オドネルはレズビアンの権利を訴える運動家でもある女性コメディアンだ。共和党員からは嫌われている。
 ケリーは冷たい表情のまま、こう食いついた。
「あなたは『アプレンティス』の女性参加者について『彼女をひざまづかせてみたいねえ』と言ったことがありますね。そんな人が大統領になるんですか?」
 差別的な言動は政治家にとって命とりだ。あわてて謝罪するのが普通。ところがトランプは謝罪するどころか、開き直ってみせた。
「みんなPC(ポリティカル・コレクトネス。政治的正しさ)を気にしすぎだな」と肩をすくめてから、こう言い返した。「アメリカはそんなことにかまっている場合じゃないだろう。そんなことを気にしていたら、中国に負けてしまう。メキシコにも負けてしまうぞ」
 聴衆はやんやの大喝采。こんな候補者、初めてだ。
 候補者の一人、ランド・ポールもトランプに噛みついた。
「トランプは今まで多額の寄付で政治家たちを買収してきたんですよ」
 すると、トランプ、にやりと笑ってこう一言。
「ああ、ポールくん、君にもいっぱい献金したよね」
 実際、眼科医であるランド・ポールが主宰する貧しい子供に無料で眼の手術を提供する基金に、トランプは大口の寄付をしていた。
「ヒラリーは私の(2回目の)結婚式にも来てくれたぞ。彼女には選択の余地がなかった。私がたくさん献金していたからな!」
 札束で人の頬を叩くのをまったく恥じていない豪快さ。でも、「4回も破産して負債を踏み倒してますよね」と突っ込まれると、「破産法という法律があるんだから4回利用させてもらっただけだ。何も違法ではない。債権者もただの被害者じゃない。あいつらはプロだよ」。


 こういうふうに、日頃、多くの人をやりこめているコメンテーターに反撃する痛快さや、献金を批判する「政治家」に対して、相手も同じようなことをやっているということを証明し、開き直ってしまう剛胆さ。
 キレイなふりをして、裏でいろいろやっている連中より、こういう「タフで率直な人」のほうが、自分たちの味方になってくれるんじゃないか、という期待感。
 「表面上のPCにばかりこだわって綺麗事ばかり言っているけれど、裏ではウォール街富裕層とつながっている政治家たちをやっつけてくれるだけでもいいや、どうせ俺たちには関係のない世界なんだし」というような「既成の政治の枠組みへの絶望感」というのが、トランプ候補を支えているのです。
 そうなると、良識派たちが「政治的な正しさ」でトランプ候補を批判すればするほど、支持者たちは、「既成の勢力からの圧力」にさらに反発していく。そもそも、あの綺麗事ばかり言っている連中はみんな大企業とつながっている大金持ちじゃないか、って。
 まあ、トランプ候補も大富豪なんですけどね。


 アメリカでは人口に占めるヒスパニック系などの移民や移民の割合がどんどん増加してきており、民主党・共和党の二大政党も、彼らの支持を得ることを重視せざるをえない時代になってきています。
 これまでの「白人、カトリックの支持者が多い共和党」の党勢は、今後衰退すると予想されているのです。
 トランプ旋風というのは、ある意味「多数派から転落していく白人たちの最後の抵抗運動」なのかもしれません。
 傍からみれば、せっかくアメリカという国に生まれたのだから、国内の人種間で諍いを起こさずに、うまくやっていければ良いのだけどなあ、と思うんですけどね。


 共和党の大統領候補予備選挙に出馬したベン・カーソン候補はアフリカ系の天才小児神経外科医でした。
 南部の貧しい境遇から勉学に励んで奨学金でイェール大学に進み、若くしてアメリカで最もすぐれた外科医のひとりとして有名になったカーソンさんの半生は書籍化され、テレビドラマにもなったそうです。
 そのカーソンさんの思想信条について。

 カーソンの極端な発言は宗教的信念によるものだった。彼の父はセブンスデー・アドベンティスト(安息日再臨派)という聖書原理主義キリスト教の牧師だった。10%の一律課税も旧約聖書に出てくる概念だ。カーソンはさらに進化論もビッグバンも地球温暖化も信じないと言っている。科学者として矛盾は感じないのだろうか。
 医療費を自己責任にし、福祉を批判するのは、カーソンの母親が生活保護に頼らなかったからだという。カーソンは、2012年に共和党の予備選に出馬したハーマン・ケインとよく似ている。ケインも貧しい黒人家庭に生まれ、苦学してピザ宅配の会社で成功した。彼は雇用者の負担になるオバマケアに反対し、富豪が損をする累進課税に反対し、福祉に頼る黒人たちを批判した。最高裁判事のクラレンス・トーマスもそうだが、共和党を支持する黒人には、苦労して成功した人物が多い。彼らは自己責任論をふりかざす。カーソンは、福祉は「アメリカン・ウェイではない」と言う。アメリカの国是は「自由と平等」だが、彼らにとっては自由競争だけがアメリカなのだ。


 彼らは「弱者の気持ちがわからない連中」だと断罪するのは簡単です。
「自分にできたんだから、自分以外のみんなにもできるはず」という人は「これは自分だけができる」と思っている人よりずっと迷惑なことが多い。
 しかしながら、こういう人が、いろんなところで「世の中を牽引している」のも事実なのかもしれないな、と「牽引される側」の僕は考えてもいるのです。
 彼ら自身は、努力して成功をつかんだ「偉い人」であることも間違いありません。
 とはいえ、こういう人に「政治」は向いていないと思う、いや、思いたい。

 
 果たして、アメリカの国民が選ぶのは、ヒラリーか、トランプか。
 あのイギリスのEU離脱が決められた国民投票を目の当たりにしたあとでは、「トランプ大統領」も、けっしてありえない話ではないような気がしています。
 世論調査でも、かなりの接戦になっているようですし。
 そもそも、今回ヒラリー・クリントン候補が勝ったとしても、アメリカ人の約半分がトランプ候補を支持したということなんですよね。
 トランプ候補のような人が大統領に「なってしまう」可能性は、これからもずっとあるのです。
 ただ、僕自身も「トランプ大統領」をちょっと見てみたい、という「興味」は、無いとは言えないというか、けっこうあるんですよね……「もしもボックス」があったら、一度はやってみたい……

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