琥珀色の戯言

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【読書感想】メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 ☆☆☆☆

メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)

メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
メディアが取り上げるトランプ政権の報道は表層的なものだ。新聞・テレビ・論壇誌が扱う記事や論考は、メディアが期待する妄想がそのまま反映されている。日本の政治運動、特に保守系のグラスルーツは完全にガラパゴス化しており、世界の動きから隔絶された空間に置かれている。保守派に分類される政党が大きな政府の言説を平然と主張し、増税を繰り返す理由は、日本の保守派が世界の保守派のことを全く知らないことに起因する。二次情報に頼らず、真正面から米国政治と「選挙」の視点から格闘し、手にした情報と認識が、マスコミの死角をことごとく突く。


 タイトルは「メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本」なのですが、ひらたく言うと、「日本のメディアがスルーしてきた、『共和党側』からみたアメリカの現在」を紹介した本なのです。
 読んでいると、著者の人脈自慢、日本のメディアがあまりにも「リベラル派寄り」であることへの苛立ちが伝わってきて、これはこれで「中立」な見かたではないと思うのですが、著者の立場を踏まえて読むのであれば、「アメリカの半分は、こういう考え方をしているのか」というのを知る手がかりになるのです。
 政治的なスタンスに完全な中立はありえないわけですから。

 この本のテーマは、徹底して「選挙」の観点から2020年以後の米国政治を予測することだ。その前提として、トランプ政権誕生後に実施されてきた様々な政策が「選挙」を背景としたものであることを解説した。なぜなら米国は「民主主義国」であり、その政治的意思決定は「選挙」の影響から逃れることはできないからだ。「選挙」のプロセスの中で、政治家は様々な利益集団に「借り」をつくることになり、当選後はそれらの恩に報いる形になることは洋の東西を問わないものだ。

 トランプ政権は「共和党」、そして「保守派」の政権である。2016年大統領選挙は「民主党から共和党」「共和党主流派から共和党保守派」という二重の政権交代の産物であった。
 米国は二大政党であり、左右のイデオロギーの対立軸によって「民主党=左派」「共和党=右派」という図式が成り立っている。民主党大きな政府を志向し、政府規模を拡大し、規制や補助金などを通じて社会福祉を充実させることを目指している。これに対して、共和党は小さな政府を志向し、政府規模を縮小し、規制廃止や減税政策によって自由市場を活性化させることを求めている。
 また、文化政策の観点からは、民主党同性婚や中絶容認を志向し、共和党キリスト教道徳を重んじる傾向がある。民主党オバマ政権から共和党・トランプ政権に変わったことは、国家運営の基本的な方向性が大きく切り替わったことを意味している。
 一方、共和党の中には「主流派」と「保守派」という2つの派閥が存在している。「主流派」は中道的なイデオロギーが強く、民主党とも妥協の余地を持っている人々のことを指す。「保守派」は、その存在意義を米国の建国の理念に依拠する政治集団であり、民主党側が主張するリベラルな政策にすべて反対する政治姿勢を持っている。
 トランプ以外の直近の共和党大統領というと、ブッシュ親子を思い浮かべる人が多いだろうが、この親子は「主流派」に属する人々と見なされている。2008年、2012年の教佐藤大統領候補者であったマケインやロムニーなども主流派に分類される政治家だ。保守派はレーガン大統領やギングリッジ下院議長などのスターを擁してきたが、現在では「ペンス副大統領」が同派を代表する存在となっている。


 共和党には、この「主流派」「保守派」の他にも、「伝統的な保守派の要素のうち、移民反対などの社会文化的要素を強く打ち出し、大きな政府志向もある程度受け入れる」という「ナショナリスト」という集団がいて、トランプ大統領は彼らを支持層として取り込むことに成功したそうです。
 日本でのアメリカの政治についての報道は、民主党共和党、という対立構造で説明されることが多いのですが、日本の自民党が一枚岩ではないように、共和党も内部に分派を抱えているのです。
 民主党に関しては、日本でも、その中で左寄り(社会保障重視)のサンダース候補などの存在がクローズアップされることが多いのですが、共和党についての情報が少ないというのも、日本のメディアの基本姿勢が「民主党寄り」であることを示していると言えそうです。

 いろんな党内での争いがありながらも、民主党共和党も、基本的に自分の党の候補者が選挙で勝てるように協力しあっているわけです。

 トランプ大統領は、日本の報道が情報源の僕からすると、公約はあまり守れていないし、SNSでは暴言ばかり吐いているし、それでも支持する人がいるというのはなぜなんだろう?と思うのです。
 しかしながら、「共和党側」からみると、暴言はさておき、規制緩和はすすめているし、公約もある程度実行し、良好な経済状態も続いている、という評価をされているわけです。
 著者は、アメリカの内部での評価として、「米軍は、いまの力では、一方面での戦争はできるが、二方面以上の大規模な作戦は不可能である」というのを紹介しています。
 民主党政権下で、米軍は弱体化し、「世界の警察」を勤めることは難しくなっている。日本への米軍への負担金の増額は、脅しというより、現実的な要求だったのです。
(ただ、これに関しても、「共和党側からみたら、というレポートで、軍需産業寄りの人が書いたのではないか」とも僕は想像してしまうのですが)


 アメリカの大統領選挙では、多くの州は、共和党が勝つ可能性が極めて高い「レッド・ステート」と、民主党が優位の「ブルー・ステート」のどちらかで、勝敗を決するのは、候補者や社会情勢によってどちらに転ぶかわからない「接戦州」でどちらが勝つか、なのです。
 2016年にトランプ大統領を生んだのは、アメリカ合衆国の中西部地域と大西洋岸中部地域にわたる「ラストベルト:Rust Belt)」と呼ばれる地域での勝利でした。
 ところが、民主党の「左傾化」が進むことにより、もともと労働組合の力が強く、民主党有利とされていたこの地域に変化が起こっているのです。

 大統領選挙の結果を左右する極めて重要な政策はグリーン・ニューディールであろう。グリーン・ニューディールとは、温室効果ガスの削減を目指すために、既存のエネルギー産業を太陽光・風力などのグリーン・エネルギー産業にリプレイスすることを義務付ける政策である。民主党の急進左派であるNY州出身のオカシオ・コルテス下院議員らが主導し、いまや民主党の主要候補者全てが何らかの形でコミットせざるを得ない状況となっている。
 接戦州の産業には化石燃料を扱うエネルギー産業が多く存在しており、オバマ政権下での厳しい規制に対する反発がトランプ大統領を誕生させる接戦州での勝因の一つとなった。トランプ大統領は政権発足以来、エネルギー規制を積極的に廃止し、これらの産業は息を吹き返すに至っている。
 その上、トランプ政権が実行したエネルギー規制廃止は安価な電力料金を必要とする製造業にも多大な恩恵をもたらしている。雇用を守りたいラストベルトの労働組合民主党最大の支持地盤)は環境規制を強化し、エネルギーコスト増に繋がるグリーン・ニューディールに猛反発しており、民衆党候補者らの政策態度に不信感を持っている。つまり、グリーン・ニューディールを積極的に掲げる左派系民主党候補者は接戦州で勝利を掴む上で選挙戦略上の致命的な欠陥を抱えているのだ。


 第三者的にみると、「グリーン・ニューディール」は将来のためには正しい方向のように思えるのですが、自分の今の仕事がなくなるとか、経済が悪化し、その影響を直に受ける、となれば話は別でしょう。今、トランプ大統領のもとで、それなりにうまくいっているのなら、なおさらです。
 でも、民主党の候補としては、環境問題に配慮しないと党内での候補者指名選挙に勝てないし……
 その一方で、共和党も、ヒスパニック系の人口増加で、これまでは楽勝だった南部の諸州で、急速に民主党に追い上げられているのです。
 トランプ大統領は、白人有権者を徹底的に固めることで総投票数では下回ったものの大統領選挙に勝ちました。
 しかしながら、アメリカの人口の推移を考えると、増加していくヒスパニック系から圧倒的に支持されている民主党が、今後優勢になってくると予想されているのです。

 日本人の多くは米国の主要メディアであるCNN、『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』などを情報源として参照することが多い。
 この背景には、日米のメディアの協力関係なども影響しているように思う。トランプ政権以前の民主党大統領の動向については、それらの大手リベラルメディアによる政権解釈を垂れ流すだけでもある程度成り立っていたが、それらと鋭く対立しているトランプ政権を論評するための情報源としては不適切なことは自明だろう。人間は自分が理解したくないものについて「予測不能」(≒合理的でない)と評価したがるものだからだ。
 また、既存の我が国エリート層である識者層の米国評も情報源として必ずしも適切とは言い難い。なぜなら、トランプ政権はエスタブリッシュメント(既得権層)との対立の文脈で生まれた政権だからである。我が国エリート層(大学研究者・政治家・官僚らの米国赴任組など)は米国の大学・外交系シンクタンクで経験を積むことが多い。これらの機関は実はどのほとんどがリベラル系エスタブリッシュメントの牙城である。したがって、これらのグループに属する人々は米国側のカウンターパートを意識して、トランプ大統領への評価にバイアスがかかることになる。
 たとえば、既存の日本エリート組と繋がりがある著名な米国人の大学研究者にトランプ政権の評価を聞いたとする。一見すると妥当な取材のように見えるが、それは日本で安倍政権の評価を社会民主党の人に質問するのに等しいケースがある、と思う。結果として、それらの人々の視点から見た偏った評価がなされることは火を見るよりも明らかだろう。


 「日本で安倍政権の評価を社会民主党の人に質問するのに等しい」とまで言われると、「それはたしかに、偏っているよな……」と考えざるをえないのです。
 著者の主張を鵜呑みにする必要はないけれど、「こういう考え方がある、いや、アメリカの半分くらいは、こんな感じなのだ」ということは、知っておいて損はないと思います。


fujipon.hatenadiary.com

ルポ トランプ王国2 ラストベルト再訪 (岩波新書)

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