琥珀色の戯言

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【読書感想】僕たちのインターネット史 ☆☆☆☆

僕たちのインターネット史

僕たちのインターネット史

内容(「BOOK」データベースより)
80年代のパソコン通信の時代から、インターネットの黎明期を経て現在まで。インターネットの「現場」を知り尽くした著者が、その歴史を総ざらいする!


 僕がはじめてインターネットに触れたのは、20世紀最後の年、2000年だったと思います。
 パソコン通信というものの存在は、マイコン雑誌で知ってはいたのだけれど、いきなり知らない人と話して、何が面白いのだろう?知っている人とだって、そんなに話すことないのに……って、あんまり興味がありませんでした。

 
 僕がはじめて触れたインターネットは、「普通の人の、普通の人生を知ることができる、刺激的な世界」でした。
 パソコン通信のように、コミュニケーションに積極的にならなくても、いろんな人の日常を覗き見ることができる。
 それまでは、一部の同人誌を除いては、商業ベースに乗るものというか、ある程度お金になる「作品」しか世の中に広まっていかなかったのに、インターネットには「素人の愚痴」が大手を振って公開されていたのです。


 著者のひとり、ばるぼらさんは、冒頭で、こう仰っています。

 なんだかインターネットがおかしい。
 最近のインターネットのムードに違和感がある。
 なんでこんなふうになっちゃったんだろう?
 ここ数年のあいだにそう思ったことがある人は、この本がもっとも想定している読者だ。本書の最終地点はまさに「なぜ日本のインターネットは現在こんなふうになって(しまって)いるのか」だからだ。


 この本を手にとったとき、ばるぼらさんが以前上梓していた『教科書に載らないニッポンのインターネット史』と同じような本ではないかと思っていたんですよ。
 しかしながら、この本は、インターネットの中で起こった事象について、サイト名や事件を挙げて紹介する、という形式ではなくて、世の中で、「インターネット」というのは、どのような存在としてとらえられてきたのか、というのを時間に沿って検証していくという内容になっています。

 インターネットの前史としての80年代、インターネットが世間に広まりだした90年代、インターネットがビジネス化していった00年代、インターネットがふつうになった10年代、と話は一応進んでいくが、過去から現在へと一直線に辿る歴史教科書ではなく、現在を中心にあちこちに手を伸ばす、いま見えている風景から逆算して再構築した歴史教科書である。それは技術の歴史ではないし、ビジネスの歴史でもない。文化史とも断言できない。主観的な「僕たち」のインターネット史としか言いようがないものになった。こんな歴史観でインターネットを語った本は他にない、と思う。


 80年代のパソコン通信の時代から語り始められるのですが、僕にとっては、懐かしい話ばかりで、『テクノポリス』とか『Bug News』という雑誌名が出てくるだけで感慨深いものがありました。

さやわか:夢しか見られなかったゲームの人と黙々とチャットをやっているパソコン通信のサラリーマン。そして文芸サブカルの人とごく一部の先進的なハッカーみたいな人がごちゃまぜになっていた。これが80年代の日本の状況ですね。ネットワークゲームよりもプレイバイメールのほうが流行ってましたよね。遊演体みたいな会社が作っていた。郵便を使った手紙のやり取りでチェスとかボードゲームとかを対戦し合う。


ばるぼらあれって「ネットゲーム」と言ってましたよね。


 90年代のインターネットは、「アングラ・サブカル」の時代でした。
(と言っても、僕自身は、90年代のインターネットは、ほとんど経験していないのですが)

さやわか:インターネットのアングラカルチャーの退潮の節目というのは2000年の不正アクセス禁止法だと思います。それを境にいわゆるアングラなノリはどんどん撤退していくんですよね。


ばるぼらその前段階として1996年に日本でアダルトサイトの摘発があり、1999年には通信傍受法も成立します。1998年にネット経由で購入した青酸カリで人が自殺するという「ドクター・キリコ事件」も起こっていますし、90年代の後半にどんどん規制が厳しくなっていくんですね。ひろゆき2ちゃんねるの前にやっていた通称「交通違反のもみ消し方」というサイトも典型的に昔のアングラノリのサイトなんだけど、それ以降はこういうノリがだんだん薄まっていった。


さやわか:僕は2ちゃんねるがはじまった時に周囲からアングラだと言われていて、ちょっと違和感があったのを覚えています。当時の感覚では、あれはあんまりアングラじゃないというか……。「告発」とか「裏情報」とか、そういう意味ではアングラ的ではあるんですけど、それ以前のアングラとはちょっと違っていた。昔のアングラというのはやっぱりWarezとか合法ドラッグとかが中心で、端的に違法スレスレの、つまり『危ない1号』みたいなノリだったんですよね。


ばるぼらそうそう。


さやわか:カルトブックマーク」でもリンクのエリアがいくつか分かれていたんですが、「薬の情報」「Warez」「ハック」「クラック」。あとなんか「宇宙人が云々」みたいなオカルトとかでした(笑)。


ばるぼらUFOの話とかね(笑)。


さやわか:もちろん、2ちゃんねるの中にもそういうジャンルはあったんですけど、2ちゃんねるはもっとコミュニケーションが優位なんですよね。それを肴にして何をしゃべるかっていうことがむしろ重要になっていて。


 僕の感覚では、『2ちゃんねる』というのは「ネットのアングラサイトの代名詞」なんですよね。
 世間一般でも、そう思っている人が多いのではなかろうか。
 でも、ずっとネットをみてきた人にとっては、『2ちゃんねる』は、アングラ情報というよりは、コミュニケーション優位のサイトで、そんなにアングラではなかった、ということのようです。
 もちろん、『2ちゃんねる』にも、いろんなスレッドがあったのでしょうけど。
 そういえば、いわゆる「メンヘラ」系の、病んでいる人のサイトって、昔のインターネットにはもっと(割合的に)たくさんあったような気がするのですが、それは、僕の観測範囲の問題なのか、それとも、不健康なものが棲みづらい世界になったのか。
 逆に、いまのインターネットって、「健全でなければならないという圧力」が強くなりすぎているような気もするんだよなあ。
 でも、2000年、あるいは2010年代以降にネットに触れるようになった人にとっては、そういう「きれいなインターネット」が、「普通」なわけです。

さやわか:さっきも言いましたけど、インターネットは、みんなと同じものを見ている、という感覚になってしまえるメディアなんです。Twitterが日本語版サービスをはじめたのは2008年ですけど、Twitterが出てきた時に僕が思ったのは、「これはインターネットの中にインターネットを作っているみたいなものだな」ということです。そもそもインターネット自体、自分で検索したものを選んで見ているわけですよね。それをTwitterというサービスの中でもう一度作り直している。それで、あたかもプッシュ型で向こう側から勝手に流れてきているように見せかけているんですよね。


ばるぼら自分でスクリーニングしているにも拘わらず、あまりにも自然に流れてくるから、「これが世間なのかな?」って感じがしてしまう。たしかにそれは右も左も変わらないかもしれないですね。なんというか、いまのネットはすごい狭いところに投げている「機関紙」をみんなが読んでいる、みたいな状況ですよね、どんどんさびしいメディアになってきてしまいました。


 そして、2010年代は、思想や文化が薄れたインターネットの時代になっているのです。
 そういえば「ネットの理想」みたいなのを語っている人って、あのスノーデンさんくらいじゃないのかな、最近は。

さやわか:いまのネットカルチャーというのは、基本的にはどうやったら人を扇動できるのか、ということに尽きてしまっているんですよね。『動員の革命』のサブタイトルは「ソーシャルメディアは何を変えたのか」ですが、これは言い換えると「ソーシャルメディアは何を変えたのか=動員を革命したんだ」というだけ、になるんです。社会をどういう風によりよくしていくのか、というよりも、動員を革命すれば社会を変えられるという話なので、変えていく社会の中身の話にはなっていかないんですよね。とりあえず動員だけが重要になってくる。


ばるぼら結局、どう人を動かすかの方法だけが重要になっていき、論理よりも扇情が有効だ、というのが近年の流れ。


さやわか:90年代には、たとえ「サイバースペース」という間違った比喩に基づくものだったとしても、みんなネットの恩恵で訪れる理想の社会や表現の姿について話していました。そしてゼロ年代の前半にはネットワーク社会における「倫理」のあり方が議論されました。でも、いまはそうではなくて、政治について語っている人も、経済について語っている人も、カルチャーについて語っている人も、みんな「炎上」的な……とまでは言いませんが、どうやったら人を集められるのかという話ばかりするようになってしまいました。


ばるぼらいつのまにかそうなっちゃいましたね。


 昔のインターネットについて知っている人には懐かしく、知らない人には新鮮な「歴史書」だと思います。
 インターネットも、いつのまにか、こんなに歴史を積み重ね、変容していったのだな……と、本当に感慨深いものがありますね。


教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書

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僕たちのゲーム史 (星海社新書)

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