琥珀色の戯言

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【読書感想】統一教会 何が問題なのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

鈴木エイト氏、宮崎哲弥氏、島田裕已氏ら第一線のジャーナリスト、論者がいま、教団の実態に迫る!
信者からの巨額の献金霊感商法合同結婚式、政治家との癒着など、多くの社会問題を引き起こしてきた統一教会文藝春秋は、30年あまりの間、その問題点を追及してきた。
宗教とカルトの境はどこにあるのか? 政治家と宗教の関係は? 信者家族はどのような被害を受けてきたか? この一冊ですべてがわかる!


 僕が大学に入った頃、もう30年以上前になりますが、入学する前に、周囲の大人や先輩から、「原理研」っていうサークルの人たちに気をつけろ、と言われていたのを思い出します。
 優しそうな先輩たちにみえるし、「鍋パーティにおいでよ」とか「一緒にボランティア活動をしよう」とか誘ってくるけれど、それに安易な気持ちでついていったら、大変なことになるから、と。

 いろんなところから大学に入ってきて、友達もいないなかで、やさしそうな先輩に声をかけられたら、「まあ、一緒に鍋を囲むくらいなら」と思いますよね。
 そうやって、人生が変わってしまった人が、世の中には少なからずいるはずです。

 流されやすい僕が取り込まれなかったのは、運が良かっただけなのかもしれない、とも思うのです。


 山上徹也容疑者は、母親が統一教会の信者となったことで、人生を狂わされてしまったのです。

 山上家を襲った最初に悲劇は父の自殺だ。山上は四歳だった。
 父の兄である弁護士の伯父は、山上の父についてこう語る。
「弟が死ぬ直前の一、二年はトンネルを掘るためにずっと山の中で生活するハードな日々でした。裏金の飛び交うゼネコン業界は研究者気質のあいつには耐え難かった。過労で鬱とアルコール依存症の混ざった状況でね。なくなる数カ月前、様子を見に行ったら、完全に寝たきりでした」
 東大阪のビルの屋上から身を投げたのは1984年12月。伯父は山上の母親とともに警察の事情聴取を受けたが、その際、彼女のお腹が大きくなっていたことをよく覚えている。当時の母親を知る人物が言う。
「彼女は『お腹の子も一緒に一家心中まで考えていた』と話していた。藁にもすがる思いやったんでしょう。そんな彼女の声をかけたのが、統一教会だったんです」
 年が明け、徹也の妹が生まれた。伯父は1985年4月から、父がいなくなった山上家に対し毎月5万円、生活費を支援したという。だが、山上家の生活は苦しかった。徹也の母は、夫の死の数年後には統一教会への献金を始めていたからだ。
 1991年に入会すると多額の献金を始めた。伯父が言う。
「入会とほぼ同時に2000万円、その後すぐに3000万円。さらに三年後くらいに現金で1000万円。合計で6000万円。これらの原資は弟(徹也の父)の保険金、命の代償ですよね」
 徹也の母と同じ奈良協会に所属していた60代男性はこう話す。
「当時奈良県には250人ほどの信者がいましたが、彼女の献金額はトップクラスでした。1000万円くらい献金すると女性信者が褒めそやすんです。『あの方は素晴らしい』『あの方は3000万円よ』。それで自分も頑張ろうとなるわけです」


 統一教会は、信者の家庭の経済状態も把握していて、あれこれ理由をつくって、その人(家)が可能な最大限、ときには、それ以上の献金を搾り取っていくのです。
 この本を読むと、統一教会というのは、「宗教」というより、人の弱さにつけこんでお金をむしりとる集金システムでしかないように感じます。

 山上容疑者のお母さんが、妊娠中の不安定な時期に配偶者を自殺で亡くし、精神的に追い詰められていたところに、統一教会は忍び寄ってきたのです。


 僕は正直、「とはいえ、宗教なんて、信じている本人がそれで良ければ、幸せならば、もう、他人にはどうしようもないのでは?」とも思っていたのです。
 オウム真理教のように、弁護士一家を誘拐・殺害したり、地下鉄でサリンを撒いたりしなければ、家族でもない人間が、個人の「信仰」にあれこれ言うことはできないだろう、と。

 でも、山上容疑者のお母さんのような精神的に弱り切っている人につけこんだり、太平洋戦争で「日本は朝鮮半島や中国、アジアの人たちに悪いことをした」という戦後の平和教育を受けた「日本人の罪悪感」につけ込んだりして、「教え」を広めっていったことには、読んでいて「なんだこれは!」と憤らずにはいられなかったのです。

 この本に収録されている識者の対談に出てくるのですが、統一教会の信者数はずっと減少が続き、高齢化が進んできています。
 いまの若者は、ネットなどで情報共有されていることもあって、簡単には入信しないし、親の信仰を受け継がない二世も多いのです。
 休みの日に訪問勧誘に行って、さんざん嫌がられたり、めんどうな行事に参加してお金を貢がされるよりは、VTuber投げ銭したほうがずっと楽しい、と僕なら思います。

 そうして信者数が減っていき、新たな信者の獲得が難しくなったことで、現役信者からの搾取はさらに厳しくなり、ノルマが上がっていっているそうです。
 統一教会は、太平洋戦争での日本の罪を強調しており、日本の信者からの「集金」が多額で、韓国では搾取は控えめとなっており、韓国でのイメージはそんなに悪くない、というのも紹介されていました。


 僕が大学に入るときに周囲から言われたように、市井の人々の多くは、統一教会を危険だと感じてきたのです。
 でも、日本の政治は、政治家たちは、「反共産主義という姿勢が一致していたから」とか「選挙のときに確実に投票してくれたり、選挙運動を応援してくれたりする宗教団体に恩義を感じたから」という理由で、多くの被害者を出してきた宗教団体を問題にしようとはしなかった。それどころか、関連団体に、日本の首相経験者がビデオメッセージで登場さえしていたのです。

 2009年のコンプライアンス宣言以降、霊感商法は一件もない。過度な献金も、正体を隠した伝道もしていない」
 統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の教会改革推進本部長に就任した勅使河原秀行氏は、2022年9月22日の会見でそう主張した。
「では一体、統一教会の何が悪いのか?」という声を依然として聞く。「政治家はなぜ統一教会を支援してはいけないのか」という疑問も多い。そこで判例を基に、統一教会の違法性と反社会性を再確認する。
 全国霊感商法対策弁護士連絡会全国弁連)の事務局長を務める河合康雄弁護士が言う。
統一教会は、宗教団体として中核の行為である三点について、すべて違法だとする判決が確定しています。すなわち伝道と教化の方法、献金と物品購入の強制、合同結婚式への勧誘です」


 この三点の詳細は、本書にあたっていただければと思うのですが、正体を隠して相手の悩みや弱みを把握し、不安や恐怖を煽って「勧誘」「伝道」するのは違法だという判例がすでに出ているのです。


 安倍晋三元首相の白昼の暗殺事件に対して、僕は正直、「犯人の統一教会への憎しみは理解できるけれど、あんなふうに安倍さんを撃ったのは、お門違いというか、政治家なんて、みんなに『いい顔』をするのが仕事だろうに」とも思ったんですよ。統一教会の関係者を襲えばよかったのに、とも言いづらいところではありますが。
 
 でも、この新書で、統一教会とその教祖や幹部が日本でやってきたことと、それに対する日本を代表し、国民の利益と安全を守るはずの政治家たちの姿勢を知ると、犯人がやったことは「絶対に正しくはない」のだけれど、犯人が置かれた状況を思うと、これ以上効果的なやり方はあったのだろうか、とも考えずにはいられなかったのです。


『宗教問題』編集長の小川寛大さんは、この本に収録されている対談のなかで、安倍首相暗殺事件について、こう仰っています。

 山上徹也容疑者の「特定の宗教団体に恨みを持っていた」との供述の第一報に触れ、おそらく統一教会だろうと予想がつきました。なぜなら日本の数ある宗教のなかでも、統一教会の高額献金霊感商法の悪質さは群を抜いているからです。もはや宗教ではなく、宗教の皮をかぶった集金マシーンと言ったほうがよい。今回のような事件が起きうる土壌は以前からありました。
 一方、安倍元首相は祖父の岸信介から三代にわたって、統一教会と親しい間柄にありました。被害者団体や弁護士が「付き合いを考え直してくれ」と申し入れても耳を貸さなかった。もちろん、だからといって殺人が正当化されるわけではなく、事件そのものは本当に痛ましい悲劇です。ただ正直、脇が甘かったのは否めません。


 この本のなかには、こう書かれてもいます。

 第一次政権までの安倍は統一教会と距離を置いていた、と複数の議員関係者は証言していた。にもかかわらず、民主党政権で下野して以降、安倍は急速に統一教会と近づくことになった。それはなぜだったのか。
 安倍の講演会関係者は、やはり政権奪回、票のためだと見ている。
「(安倍)慎太郎(安倍晋三元首相の父)さんは三回目の選挙で落選していて、晋三さんはその苦労を知っている。選挙で負けたらただの人以下、だから勝たないといけないというのが晋三さんのポリシーでした。民主党政権のときに、とにかく政権を取るために統一教会を使った。ビデオメッセージは彼らの協力への感謝の表明であると思います」
 だが、そもそも安倍はどこまで統一教会の教義やその実態について知っていたのか。
 教義によれば、世界にはアダム国家とエバ国家があり、韓国はアダム国家、日本はエバ国家。姦淫の原罪により、日本は韓国に尽くさねばならないという教えがその根幹にある。北大の櫻井は、統一教会の基本的な考え方は「コリア民族主義」だと指摘する。
「日本語版には載っていませんが、『原理講論』の韓国語版には、植民地統治時代にいかに日本人が韓国人を虐待したかが書いてある。基本的にコリア民族主義の団体で、韓国ではエセ宗教と認識されています。
 2018年7月、岡山県で開催された「孝情文化ピースフェスティバル」では、韓鶴子(現在の統一教会の主宰者)が寄せた「み言(ことば」が代読されている。
「日本は過去に誤ったことを認めなくてはならない。人間的に考えれば赦すことのできない民族です」
 端的に言えば、反日の思想。安倍には受け入れがたい主張だろう。


 いまでも、日本から韓国に渡る献金は、元幹部によると「年間550億から600億円前後」だそうで、ワシントン・ポスト紙は「献金の7割は日本からのもの」だと報じています。
 そんなに隆盛だとは思えないのに、どこからこんなにお金がわいてくるのか……

「自分や自分の党派が当選するためなら、異なる思想を持っていても、反社会的な組織であっても、利用できるものは利用する。とにかく、当選しなければ意味がない」

 より多くの有権者が投票するようになれば、「絶対に投票する宗教関係の人たち」の影響力は、無くなりはしなくても薄まるはずです。
 とはいえ、それが理想論だという実感も、僕にはあります。

 安倍さんは「脇が甘かった」という言葉に頷かざるをえません。殺されるのはあんまりだ、とは思うけれど。
 同時に、「とにかく選挙に勝つことが最優先」になってしまった代議員制の民主主義は、本当に「今の社会にとってはいちばんマシ」と言えるのだろうか?と疑問になってくるのです。


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