- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12/22
- メディア: 文庫
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今年読んだ本のなかでNo.1!って、まだ今年になって1週間しか経っていないわけですけど。
でも、本当に素晴らしい作品だと思います。「ファンタジー」って何なんだ結局?って考えてしまうのですが、逆に、この物語って「ファンタジー」不在だと、ちょっと安っぽい「お涙頂戴モノ」になってしまいそうなんですよね。そのあたりのセンスというのが、絲山秋子さんの凄さなのでしょう。人と人との「善意のすれ違い」みたいなものが、スッと心に入ってくるように描かれている傑作です。いままでの著作や経歴からすると、たぶん、絲山秋子さんは片桐に自分を反映されているのだろうけれど、いちばん容赦なく描かれているのが片桐なんだよなあ。
以下ネタバレ感想なので、ご注意ください。
本当に素晴らしい作品なのですが、最後の河野が失明してしまうという設定は、僕はあまり好ましく思えませんでした。それはちょっと「やりすぎ」なんじゃないかと思うし、微妙なところで成り立っていたリアリティが、そのせいでかなり「お涙頂戴方面」に傾いてしまったような気がします。
あと、ラストはハッピーエンド風なのですが、じゃあ、これで目が見えなくなった河野と片桐が一緒にうまくやっていけるかというと、絶対そうはならないんですよね。だって、片桐は、独りで自分の世界を生きる河野が好きだったのだから、もし2人が一緒に暮らすようになって、彼女が河野を庇護下に置くようになれば、「そんなカッツォはなんだか違う」と感じるのではないかなあ、と。「自分のことを好きになってくれるような、安っぽい男は好きになれない」みたいな、そんなどうしようもない袋小路。
ところで、この話って、河野に宝くじが当たって大金持ちになっていなければ、絶対に成り立たないですよね。もし彼が生活のために働かなければならない人間であれば、もっと人生というのは生臭くならざるをえない。要するに、「金がなきゃ仙人にもなれない」ってことだよなあ。