琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

100回泣くこと ☆☆☆

100回泣くこと (小学館文庫)

100回泣くこと (小学館文庫)

出版社 / 著者からの内容紹介
今最注目の野間文芸新人賞作家最新恋愛小説
実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだったのだ。4年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げた。彼女は、1年間(結婚の)練習をしよう、といってくれた。愛犬も一命を取り留めた。愛犬→バイク修理→プロポーズ??。幸せの連続線」はこのままどこまでも続くんだ、と思っていた。ずっとずっと続くんだと思っていた。精緻にしてキュート、清冽で伸びやか。今、最注目の野間文芸新人賞作家が放つ恋愛長編。

(『ノルウェイの森』+『世界の中心で、愛をさけぶ』+『東京タワー』(リリーさんのほう))÷4=『100回泣くこと』。
一行で感想を書くとしたらこんな感じです。ストーリーとしては、最初の数十ページを読んだ時点で「オチ」がわかってしまう作品なんですよねコレ。ただ、作者も別にそれを隠そうとしているわけじゃなくて、「今から泣かせるから、泣きたい人はどうぞ」というスタンスで、けっこう淡々と「別れ」の光景が描かれています。あえてそうしているのでしょうが、こういうのって、もっとドロドロした場面とか、苛立ちとか葛藤とかがあるんじゃないかな、という気もしました。
それにしても、中村航さんって、ものすごく「村上春樹チルドレン」って感じがする作家です。「20歳くらいの村上春樹が日々の糧を得るために売れそうな小説をサラサラッと書いたらどんな感じだろう?」とか想像すると、この作品みたいになりそうな気がします。主人公の男の世界に対するスタンスなんて、本当に「村上春樹的」だものなあ。
もっとも、村上春樹はこんなベタベタの恋愛・難病小説は絶対に書かないだろうから、「村上春樹風のベタな純愛小説が書けるのは中村航だけ!」みたいな売り方もアリですよね。逆に、中村さんに『ねじまき鳥クロニクル』は書けないだろうけどさ。
ただ、この『100回泣くこと』って、「恋愛」以外の描写はけっこう印象的なんですよね。実家でどんどん弱っていく犬の「ブック」やバイクの修理についての薀蓄は素晴らしい。僕は中村さんって、「彼女」のことより犬やバイクやケストレルを描くほうが好きなんじゃないかな、と思えてなりません。本当に僕が「泣けた」のは犬に関するシーンだけでした。そういえば、『ぐるぐるまわるすべり台』も、仕事に関する描写のほうが僕には面白かったんだよなあ。

でもね、これ、けっして「悪い小説」「つまらない小説」ではなかったんですよ僕にとっては。
島本理生さんが「解説」の冒頭で、

もし本来の寿命は変わらずに、愛する人よりも先に死ぬか、それとも後に死ぬか、を自分で選べるとしたら、果たしてどちらを望むだろうか。
『100回泣くこと』を読み終えたとき、そんな問いかけが浮かび上がってきた。
誰かと共に生きるということは、いつか失う悲しみを背負うことであり、同時に、いつか失わせてしまう悲しみを背負うことだと。

と書かれています。
僕もこの作品を読んで、自分の愛する人を「そこにいるのがあたりまえの存在」として時を過ごしていることの「勿体なさ」を思い知らされたような気がしたんですよね、実際に。
「ベタな恋愛難病小説」なのかもしれないけれども、大事なことを気づかせてくれるという「価値」が、この小説にはあったのです。そういう意味では、「役に立つ」作品ではあるんですよ。そんなに長くなくて一気に読めるし。「文学作品としての新しさ」が無いからといって、「現実社会に生きる人にとって無意味」なわけじゃない。
ちなみに、この作品の単行本は10万部売れたそうなんですけど、もしこれが「セカチュー」くらい売れていたら、僕も「こんなありきたりな小説があんなに売れるのはおかしい!」なんていうような感想を書いていたかもしれないんですよね。「売れる」っていうのは、それはそれでいろいろと大変なことのようです。しかし、これで10万部もすごいよね、あらためて考えてみると。

以下はこの小説とはあんまり関係ない話なので隠します。


ところで、僕は「恋愛小説嫌い」「恋愛小説なんて、読んでも何の役にも立たない」と公言しているのですが、こちらで紹介されている『恋愛小説ふいんき語り』で取り上げられた20冊のうち、半数近くの9冊も既読なんですよね……
嫌い嫌いも好きのうち、というか、僕って、実はものすごく「恋愛小説好き」だったのかも……

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