琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

GOEMON ☆☆☆☆


『GOEMON』公式サイト

ストーリー:織田信長中村橋之助)を暗殺した明智光秀が討伐され、豊臣秀吉奥田瑛二)が天下を取った時代。超人的な身体能力を武器に金持ちから金品を盗み、貧しき者に分け与える盗賊・石川五右衛門江口洋介)がすい星のごとく現れ、庶民を熱狂させる。そんな中、五右衛門は盗み出した財宝の中に重大な秘密が隠されている南蛮製の箱を見つけるが……。

5月1日のレイトショーで鑑賞。
公開初日+ゴールデンウイークの本番5連休突入前夜+映画の日で一律1000円ということで、21時過ぎからの回にもかかわらず、100人以上の観客で賑わっていました。この時期公開の他の作品に「重い」「地味」なものが多いこともあり、興行的にはかなり良いスタートを切っているのではないかと思われます。

この映画を観に行ったのは、毀誉褒貶が激しかった紀里谷和明監督の前作『CASSHERN』を僕はけっこう気に入っていたこと(「名作だ!というよりは、「ネタとして面白かった」という気に入りかたではあったものの)、そして、他に観たい映画もないけど、せっかくの金曜の夜にこのまま家に帰って寝るのももったいない、という消極的な理由もあったんですよね。
内心「トンデモ映画だったら、それはそれでネタになるしな」という「ネガティブな期待感」もありました。


……僕の予想は見事に裏切られました。
観終えて、僕は「紀里谷監督、バカにしててごめんなさい」と謝りたい気分になりましたよ。
『GOEMON』は、けっして「完成度の高い名作映画」じゃありません。
最初のほうは、「で、これ『CASSHERN』と何が違うの?」って言いたくなりましたし。
「歴史好き」からすると、「こりゃちょっと秀吉と三成の扱いが酷すぎるだろ……」とも思います。
とくに秀吉の才蔵に対しての「仕打ち」は、現在僕が置かれている状況もあり、「イヤなもの見せられたな……」と不快極まりなかったです。
しかしながら、「映画監督・脚本家」として、「悪役に徹底的に悪いことをさせるだけの覚悟」が紀里谷さんに感じられるようになったのもまた事実。
言い方は失礼なのですが、「離婚」という修羅場によって、紀里谷さんも「腹が据わった」のかもしれません。

それぞれの役者に「見せ場」がちゃんとあるのにも好感が持てました。
とくに大沢たかおさんは「いい役」で、「江口洋介、食われてるんじゃないか?」と感じてしまいましたしね。
(江口さんもしっかり「取り返す」のですが)

チェ・ホンマンとヒロインの広末涼子さんは、「ちょっと要らんなこれは……」という印象。
チェ・ホンマンが出ているシーンだけ『少林少女』みたいだったし。

2時間を越える長さのこの作品なのですが、「西洋人が描いたような、東南アジアやインドとごちゃ混ぜになった日本」を絵的に貫いていたのはとても凄いことだと思います。
「歴史的な正確さ」を意識しはじめると「なんじゃこれは!」と言いたくなってしまうのですが、「お金と技術と時間をかけて、これだけのアナザー・ワールドを築いてみせた」紀里谷監督の執念には頭が下がります。
いまの日本映画が、「人気テレビドラマのスペシャル」と「地味な家族崩壊もの」と「DVDを売るための宣伝媒体としての『映画館での上映実績』づくり」、「某テレビ局が大宣伝で客を入れようとしているイタリア観光ビデオ」ばかりのなかで、リスクを承知で、これだけの「世界」を作り出そうとしている人は、貴重な存在です。
「リアルであること」を意識しすぎずに、「CGでしかつくれない世界」にこだわっているのは、監督が「マンガ・ゲーム文化直撃世代」だからなのでしょう。
『GOEMON』は、「脚本を直接実写化した」というよりは、「脚本を一度マンガ化するというプロセスを経て、そのマンガを実写化した」のではないかと思います。少なくとも監督の頭のなかでは、そうしていたはず。

CGの多用で目が疲れるし、広末さんは大根だし(『おくりびと』の大根は計算されたものだと思いますが、この映画は「実力」っぽい……)、ストーリーは強引だし(そのシチュエーションでそんなに長々と「歓談」しないだろお前ら!『レッドクリフ』か!とかね)、セリフは説明的で説教くさい。いわゆる「映画フリーク」には叩かれまくるかもしれません。
個人的には、最初のほうのシーンで、広末さん演じる茶々が「ホタルは見れますか?」と「ら抜き言葉」を使っていたのがものすごく気になりました。これはもう「現代語」なのかもしれないけれども、「信長の姪、深窓の令嬢」という設定なら、ちょっとその言葉遣いは、くだけ過ぎなんじゃないかと。

「フィクションをフィクションとして楽しめる人」にとってはツッコミながら気分転換できる「娯楽大作」だと思いますので、興味をもたれた方は、ぜひ観に行ってあげてください。
いまの「あまりに商業主義的すぎる、あるいは商売っ気がなさすぎる日本映画」に対する数少ない抵抗勢力として、紀里谷さんみたいな「映画としてのエンターテインメントにこだわる無謀な若手監督」を僕は応援したい。

特撮ヒーローものが好きな人、江口洋介大沢たかおの両優のファン(江口さんは男の僕が見てもカッコいい! とくに大沢さんは「いい役」をもらって、「いい仕事」をされてます)、そして、なんか突き抜けちゃってるものが観たい、という人には、ぜひおすすめしたい作品です。

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