琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

名探偵の掟 ☆☆☆☆


名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
’97年版『このミステリーがすごい!』第3位
密室トリック、首なし死体、消えた凶器……快刀乱麻の名探偵・天下一が挑む難事件。

「これぞ天下一、変幼自在の快作」
『密室宣言』を読み、手を拍(う)って以来のファンである。小林秀雄はいった、谷崎においてはマゾヒズムが(ついにもののあはれにまで到達した)と。本格推理の自虐趣味が、この『天下一シリーズ』では<をかし>の領域に行き着いた。コピーして人にも読ませたい。しかし、日本中に配るだけのコピーはとれない。それが難点だった。こうしてまとめられたのが、実に嬉しい。――北村薫

内容(「BOOK」データベースより)
完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人。フーダニットからハウダニットまで、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき「ミステリ界の謎」とは?本格推理の様々な“お約束”を破った、業界騒然・話題満載の痛快傑作ミステリ。

ドラマ化で話題になっているこの作品、あの「今をときめく東野圭吾さん」が、10年ちょっと前に書かれたものなのですが、いま読むと、「超人気作家が売れなかった時代の怨念」みたいなものも感じられた、なかなか趣深いものがあります。
この作品の「数々のミステリの『お約束』への挑戦(というか、「嘲笑」というほうが正しいかも)」を読んでいくと、「そんなに『読書家』ではなかった」ことを公言されている東野さんが、『放課後』でデビューされてから、ものすごくいろんなパターンのミステリを読み、研究されたのだということが伝わってきます。
「お約束」を理解していなければ、「ルール破り」はできないわけですから。

第一章「密室宣言」で、この連作の狂言回し、大河原警部のこんな独白を読んで、僕は苦笑を抑えきれませんでした。

 私が天下一シリーズの脇役を務めて、もう何年にもなる。
 辛いことはいくつもあるが、最近頭の痛いことの一つに密室トリックがある。これが出てくると、正直いって気が重くなる。ああ、またかという気持ちになる。
 もういいじゃないか今日び誰もこんなもの喜んだりせんぞと思うのだが、何作かに一度はこのトリックが出てくるのだ。
 閉ざされた部屋での殺人というオーソドックスなものから、無人島を舞台にしたもの、宇宙空間での事件――こんなものに出会ったことはないが――など、いろいろとバリエーションはあるが、結局は『密室』である。そのたびに名探偵が密室宣言をし、我々脇役は驚いたふりをする。
 本当は少しも驚いていない。
 同じ手品を何度も何度も何度も見せられている気分である。違うのは種明かしだけだ。そして種明かしが違っても、驚きには繋がらない。美女が空中に浮かぶという手品を、種が違うからといっていくつも見せられたって飽きるだけである。
 ところが、『密室』は性懲りもなく出てくる。
 いったいなぜなんだろうか。
 私は機会があれば読者の皆さんに伺ってみたいと思っている。あなた、本当に密室殺人なんか面白いんですかい。
 残念ながら読者の声は聞こえないが、「面白くない」といっているように思う。登場人物である我々が飽きているのだから、金を出して読んでいる人たちが満足しているはずがないのだ。
 このことに、いったい誰が気づいていないのだろうか。
 全く不思議な話である。

 僕はそんなに熱心なミステリの読者ではないのですが、これはまさに「それを言っちゃあおしめえよ」という世界。
 まあ、考えようによっては、コアなミステリ読者というのは、「密室」のような「規定」のなかで、誰がいちばんおもしろい演技をするかを比較して楽しんでいる観客なのかもしれません。
 そもそも、これだけ携帯電話が普及している現在においては、「完璧に外部と遮断された密室」なんて、運行中の飛行機か船のなか(それでも、ネットや無線も使える場合が多いわけですが)か、絶海の孤島くらいのものでしょう。
 「アリバイやトリック崩し」を中心としたミステリというのは、現在においては絶滅危惧種なわけで、それに対して「叙述トリック」とか「専門職紹介+ややミステリ」みたいな作品が「このミス」でも幅をきかせています。
 僕は最近、ミステリに関しては、「これもありきたりだなあ!」と文句を言って優越感に浸るために読んでいるのかと思うくらいです。
 でも、本当に「謎解き」のミステリとしては酷いものも多いですよね。いくら真っ暗で緊張してても、寝てる相手の女が誰か(あるいは、誰じゃないか)くらいわかるだろ!とか、そんなに簡単に爆弾とか仕掛けられるのか、とか、お前ら死んだ恋人や姉にあまりにも冷淡すぎるだろ、とか。
 「いかにどんでん返しを見せるか」が評価の中心になってしまうと、読んでいる側としては、「どうせこのままじゃ収まらないんだろ?」と疑いながら読むことになるので、多少の「意外性」では、なんとも感じなくなってしまいますし。
 それにしても、東野圭吾さんは凄いなあ。売れる前の作品もこんなに面白いんだから。多作っぷりやジャンルの多彩さ、こういう「メタミステリ」への挑戦なども考えると、僕はなんとなく西村京太郎さんを思い出してしまいます。

 ちなみに、僕が最近読んだ「密室もの」のなかでは、↓がけっこう面白かったです。「この動機はちょっと……」というのが難点ですが……

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

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