Kindle版もあります。
密室トリックマシマシ!増量!
『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作、続編密室のスペシャリストの前に立ちはだかる7つの密室。
密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある――“密室殺人”に初めて無罪判決を下した元裁判官も加わり、謎を解くため奔走する!日本有数の富豪にしてミステリーマニア・大富ケ原蒼大依が開催する、孤島での『密室トリックゲーム』に招待された高校生の葛白香澄は、
変人揃いの参加者たちともに本物の密室殺人事件に巻き込まれてしまう。
そこには偶然、密室黄金時代の端緒を開いた事件の被告と、元裁判官も居合わせていた。
果たして彼らは、繰り返される不可能犯罪の謎を解き明かし、生きて島を出ることができるのか!?
『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』の続編(主要登場人物以外には、前作と内容的な関連はないのですが、できれば前作から読むことをおすすめします。主人公とヒロイン(?)の関係を知っていたほうが面白いと思うので。
僕は『このミステリーがすごい!』の上位で気になった作品は読んでみる、という程度のミーハーミステリ好き(好き、とまでは言えないかもしれない)なのですが、この本が「密室マニア」によって書かれたであろうことは想像できます。
「密室」というのはミステリの原点みたいなもので、僕が子どもの頃から、すでに「古典」としてさまざまな密室トリックがつくられていたのです。
僕は子どもの頃、ケイブンシャの『大百科』シリーズなどの「そのジャンルの作品を網羅的に紹介した本」が大好きで、「ミステリのトリック大全」みたいな本もけっこう読みました。「作品」そのものは読んだことはなくても、「有名なトリック」耳年増になっていたのです。
この『密室狂乱時代の殺人』を読んでいると、物語の流れの中に「密室」があるというわけではなくて、「特殊なやり方で密室をつくるための舞台に登場人物たちを送り込んでいる」し、「登場人物がそれぞれ感覚を持ち、自分が犠牲者になりたくない、と考えている人間であるならば、その異変には誰か気づくのではないか」と思うような、豪快でもあり、無防備なトリックも出てきます。読んでいて、筒井康隆さんの『富豪刑事』を思い出しました。あのシリーズは、あまりにも「密室愛」が強すぎるミステリ界への筒井さんからの挑戦であり、「弄り」でもあったと思うのです。
東野圭吾さんが、古今の密室ミステリのトリックを紹介していた本で読んで、「こんなの『バカミス』じゃないか」と思ったものと似たトリックも出てきました。東野さんはあまりにも人気作家になりすぎて、最近の僕は敬遠しがちなのですが、「ミステリの読み手」としてもかなりすごい人なんですよね。『容疑者Xの献身』は、小説としてもミステリとしてのトリックも凄かった。
そして、この『密室シリーズ』に関しては、著者の「密室愛」と、「密室にこだわりすぎるミステリマニアへの、半ば自虐的なくすぐり」が同居しているような感じで、これを「リアリティがない」と切り捨てるか、「ここまでやるか!」と笑って受け入れるかは、人それぞれではあるでしょう。
スマートフォン、監視カメラ、Nシステムの時代に、「密室での連続殺人」は、もはや思考実験の領域なのです。
今の日本で、日常生活で、docomoの電波が入らない場所に行く機会って、あまりないですしね。
正直なところ、それなりの長さの作品の割には、意味ありげな設定の登場人物が今ひとつ活かしきれていないように感じましたし、ヒロインの凄さをアピールしようとするためなのか、物語の途中で急に弱体化するライバルもいて、強敵が仲間になると急に弱くなる『週刊少年ジャンプ』のバトル漫画かよ!と思いました。
あと、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』の影響力って、本当にすごいなあ、と。
ただし、この作品に関しては、あまりに多くの要素を入れてしまったことで、どれも消化不良になってしまってもいるのです。
その『そして誰もいなくなった』要素、要る?
そんなところまで含めて、「そこまでして密室をつくりたいミステリマニアという存在への自嘲」を苦笑しながら読むことができれば、けっこう楽しめるのではないでしょうか。
『ダンガンロンパ』を面白がれる人には、向いていそうな作品の気がします。