Kindle版もあります。
第20回『このミステリーがすごい! 』大賞・文庫グランプリ受賞作!
「連発される密室トリックの中ではドミノの密室がイチ推し。本格ミステリ刊行ラッシュの中に割って入るだけの力はありそうだ」大森 望(翻訳家・書評家)
「密室殺人づくしの趣向が楽しい。主役の二人をはじめキャラ設定もいかにもマニアックかつ軽快」香山二三郎(コラムニスト)
「これでもかというくらい密室ネタを盛り込んで、遊び心たっぷり。探偵役となる少女も謎めいていて魅力的だ」瀧井朝世(ライター)「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」との判例により、現場が密室である限りは無罪であることが担保された日本では、密室殺人事件が激増していた。
そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が起きた。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で凶行が繰り返される。
現場はいずれも密室、死体の傍らには奇妙なトランプが残されていて――。
『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ受賞作。
「密室好き」で、昔からいろんな密室トリックを考えてきた、という著者が、雪に閉ざされた館で起こる6つの密室殺人を描いた作品です。
設定としては『かまいたちの夜』+『逆転裁判(3)』で、米澤穂信さんの『インシテミル』を思い出す、人間ドラマを極力排除して、パズルとしての推理ゲームの面白さを追求している印象を受けました。
うーむ、「本格ミステリ好き」で「密室トリックには目がない」という人にとっては、すごくそそられるのではなかろうか。
しかしながら、僕はこの作品に関しては、「登場人物は記号だし、ここに書かれている密室トリックは、あくまでも『思考実験』みたいなもので、『こんなの完璧に実行するのは無理だろ』とか言うのは無粋だよな」と何度も自分に言い聞かせずにはいられなかったのです。
ちょっとバランスが崩れれば失敗したり、現場が不自然な状況になりそう。
『逆転裁判3』の最終話の「死体移動トリック」を思い出しました。
「密室が完璧であれば、どんなに状況証拠が揃っていても無罪」という「密室無罪」の架空の日本が舞台で、館の支配人が「詩葉井(しはい)」さん、医師は「石川(いしかわ)」さんなど、登場人物の名前から「この作品はあくまでも『推理ゲーム』です。登場人物はわかりやすいように記号化しているから、謎解きを楽しんでね。リアリティがない、なんて言うのはナシ!」って感じなんですよ。動機なんて、どうでも良さそうで、いっそのこと「日常の謎」にすればよかったのかも。
そういう設定とはいえ、人が目の前で死んでいるのに、登場人物が驚いたり怖がったりするよりも、まず「推理」をはじめられると、苦笑してしまいます。
『このミス』の受賞作って、『チーム・バチスタの栄光』をはじめとして、専門職を題材にしたミステリが多いというか、ミステリとしてはちょっと弱くて、職業小説としての魅力重視、あるいはキャラクターの面白さがメインになっているものが多いのです。『元彼の遺言状』も「映像化しやすそうな作品」ですし(実際に綾瀬はるかさん主演で映像化予定)。
そんな中で、これほど「ミステリマニア向け」の作品は、かえって新鮮ではあるのです。
読み終えてみると、何のために存在していたのかよくわからない登場人物もいるのですが、むしろ、「伏線とかを完璧に回収し、全てに意味を持たせる」ことを狙っていないからこそ、読んでいて予測不能な面白さもある。
どこまでが狙ったものなのかは、よくわからないけれど。
ただ、キャラクターの名付けにも感じられるように、密室トリックにはこだわりをみせるけれど、その他については、とにかく読者にわかりやすくシンプルに描かれていることには好感を持ちました。舞台である館の構造がシンプルなのも正直助かります。トリックも基本的には説明されるとイメージしやすいものでした。
最近の「本格」を自称しているミステリって、トリックを説明されても、僕の頭では映像化できないものが結構あるんですよね。
ミステリマニア、密室好きの方にはオススメ、と言いたいところなのですが、本物のマニアは、こんな冗長なのが好きなのだろうか。これだったら、「密室トリック全集」みたいな「エッセンスのまとめ本」で良いのでは。
いやこれは「儀式」や「様式美」みたいなものなのか?
エラリー・クイーンとか、僕が中学校の図書室で読んでいたときは、「長い!字が小さい!」と終始ぶつぶつ言っていたので、「そういうもの」なのかなあ。
とりあえず「あまり感情を揺さぶられずに文章を追って、頭の体操をしたい」という人には「ちょうどいい」のではないかと思います。