琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】クスノキの番人 ☆☆☆

恩人の命令は、思いがけないものだった。
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と......。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。


 僕はそれなりに東野圭吾さんの作品を読んでいるのですが、東野さんの作品って、大きく分けて2つの系統があると思っています。
 ひとつは『ガリレオ』や『加賀恭一郎シリーズ』のような、ミステリ作家としての東野さんが、科学知識やトリックを駆使した作品。
 そしてもうひとつは、『秘密』や『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のような、超能力とか超常現象を題材にした、ファンタジー系の作品群。

 僕は前者の東野さんの作品は大好きなのですが、後者はどうもピンとこないというか、「荒唐無稽な内容を東野さんの作家としてのテクニックと知名度とお涙頂戴で売っているやっつけ仕事」ではないか、と、考えてしまうのです。

 この『クスノキの番人』を読みながら、「これ、文庫本で480ページ以上あるけど、全体的に冗長で、東野さんが本気なら、半分くらいの分量で書けるのでは……」と思っていました。
 登場人物の行動も、うまく説明されているようではあるけれど、そんな回りくどいことしなくても(クスノキを使わなくても)他の方法がありそうだし(とくに現代では)、読者を感動させるためのエピソードを逆算してつくっているような感じがするんですよね。

 「遺志」とか「蘇り」みたいな作品は、すごく御都合主義な気がして僕は好きじゃない、というのもあるんですけど。
 
 「都市伝説的な話」や「登場人物の生きざまを、綺麗すぎず、不快にもならない程度に、丁寧に、リアルに描く技術」は本当にすごい。
 村上春樹さんの短編とかも、「偶然誰かから聞いた、本当なんだかウソなんだかわからない打ち明け話」みたいなのをうまく「文章化」しています。
 コンスタントに作品を発表していくには、そういうテクニックは重要なのかもしれません。

 でも、「どうせこういう話を書いたら、お前ら『感動』するんだろ、ほれほれ」みたいな「見透かされている感」もある。

 東野さんの作品はあまりにも「上手すぎる」ゆえに、「上手さだけで書いて、それがベストセラーになってしまう」事例が少なからずみられます。
 それでも、「読みやすくて、それなりに面白くて続きが気になる文庫本を1冊読み切った」というのは、けっこう人を満足させるものだし、僕も子どもたちが東野圭吾さんから「読書」に入っていくのは素晴らしいことだと思っています。
 
 僕が若かりし頃に、人気作家すぎて、かえって反発していた赤川次郎さんの役割を、いまは東野圭吾さんが引き受けているのかもしれませんね。小中学生の頃のほうが、いっぱしの「自称・読書家」だった35~40年くらい前の僕は、赤川さんを読む女子を「コバルター(コバルト文庫に赤川さんの作品は多く収録されていたから)」などと小馬鹿にしていたものです。
 赤川さん、ミステリとして面白い作品はたくさんあるんですよね。女子に大人気なのを僕が勝手に嫉妬していただけで。
 こういう「生命とか遺志を題材にした小説」はたくさんあって、きわめてベタではあるのですが、なんのかんの言いつつも最後まで読めるクオリティで書ける人は、たぶん、そんなにいません。

 やっぱり東野圭吾はすごい、のだと思う。
 でもやっぱり、「やっつけ仕事」っぽいというか、「感動スイッチ」を押すだけのお仕事というか、みんな、本当にこれで満足しているのだろうか。
 僕は、もうちょっと意地悪な東野さんが好きです。

fujipon.hatenadiary.com
fujipon.hatenablog.com

アクセスカウンター