琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ほかならぬ人へ ☆☆☆☆


ほかならぬ人へ

ほかならぬ人へ

内容紹介
愛するべき真の相手は、どこにいるのだろう?
「恋愛の本質」を克明に描きさらなる高みへ昇華した文芸作品。第二十二回山本周五郎賞受賞第一作! 祥伝社創立40周年記念出版。


「ほかならぬ人へ」
二十七歳の宇津木明生は、財閥の家系に生まれた大学教授を父に持ち、学究の道に進んだ二人の兄を持つ、人も羨むエリート家系出身である。しかし、彼は胸のうちで、いつもこうつぶやいていた。「俺はきっと生まれそこなったんだ」。
サッカー好きの明生は周囲の反対を押し切ってスポーツ用品メーカーに就職し、また二年前に接待のため出かけた池袋のキャバクラで美人のなずなと出会い、これまた周囲の反対を押し切って彼女と結婚した。
しかし、なずなは突然明生に対して、「過去につき合っていた真一のことが気になって夜も眠れなくなった」と打ち明ける。真一というのは夫婦でパン屋を経営している二枚目の男だ。「少しだけ時間が欲しい。その間は私のことを忘れて欲しいの」となずなはいう。
その後、今度は真一の妻から明生に連絡が入る。彼女が言うには、妻のなずなと真一の関係は結婚後もずっと続いていたのだ、と。真一との間をなずなに対して問いただしたところ、なずなは逆上して遂に家出をしてしまう。
失意の明生は一方で、個人的な相談をするうちに、職場の先輩である三十三歳の東海倫子に惹かれていく。彼女は容姿こそお世辞にも美人とはいえないものの、営業テクニックから人間性に至るまで、とにかく信頼できる人物だった。
やがて、なずなの身に衝撃的な出来事が起こり、明生は…。


「かけがえのない人へ」
グローバル電気に務めるみはるは、父を電線・ケーブル会社の社長に持ち、同じ会社に勤める東大出の同僚・水鳥聖司と婚約を控えて一見順風満帆に見えるが、一方でかつての上司・黒木ともその縁を切れずにいる。黒木はいつも夜中に突然電話を寄越し、みはるの部屋で食事を要求した後、彼女の身体を弄ぶのだ。みはるはみはるで、聖司という婚約者がいながら、何故か野卑とも言える黒木に執着している。黒木が言うには、五歳から大学に入るまでの十三年間、都内の養護施設を渡り歩いていたというが、黒木を見ていると、苦労が必ずしも人を成長させるとは限らない、とみはるは思う。
一方で、社内では業績不振も相俟って、他社との合併話が進行していたが、それを巡る社内の政争のあおりを受けて、黒木の後ろ盾である藪本常務の立場が危うくなっていた…。

第142回直木賞受賞作。
うーん、300ページ近くを一気に読んでしまったくらいですから、けっしてつまらない小説ではありません。
でも、僕はもともと恋愛小説一般が苦手なこともあり、この『ほかならぬ人』に収録されている中編2作は、どうも「しっくりこない」感じがするのです。
なんというか、この作品って、あまりに「男性目線」、もっと言ってしまえば、「オッサン目線」での「都合の良い女」が典型的に描かれているだけなんじゃない?
僕自身「恋愛体験」の乏しさが大きなコンプレックスではあり、この作品の登場人物のような「恋愛至上主義者」の気持ちが理解できない面があるのは否めないのですが、それにしても、「純粋な恋愛小説」って言うけどさ、自分の家庭に問題が起こったとき、異性の上司とサシで飲みながら「相談」なんてするかなあ?
相手が同性の上司とか友人ならわからなくもないんだけど、そういう行動そのものが僕は「異常」だと思うし、「下心丸出し」に見えるのです。
そんな無防備マンに周りの女子たちはあれこれ気を配ってくれるわけで、それってどこのトゥルーラブストーリー?とかね、言いたくなるんですよ。
ちょうど最近、辻村深月さんの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』を読んだばかりなのですが、あの作品で「同世代・同性」として辻村さんが描いた「いわゆる適齢期女子の恋愛観・結婚観・階層意識」の身も蓋も無さ(それゆえにものすごくリアルなわけですが)に比べるとねえ……

いや、「なんであんなどうしようもないヤツが、あんなにモテるんだ!」っていうシチュエーションは、現実にたくさんあるんですよ。
もちろん、僕はそれをやっかむ側ばかりなわけですが。
そして、「恋愛は理屈じゃわりきれない」し、同世代の女子は、「もう今度は違うタイプの、もっと恋人を大事にしてくれる男にする!」って言いながら、また同じような男を選んでる。

この『ほかならぬ人』って、女性はどう読むのだろうか、僕はそれが気になります。
直木賞の選考委員は概して「恋愛強者」だから、「なんだよこの家庭守秘義務違反の下心男は!」とか思わないんだろうけどさ。

あっ、でもこれ、良い小説ですよ、たぶん。こういうのが苦手な僕でも、とりあえず最後まで退屈はしませんでしたから。

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