琥珀色の戯言

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【読書感想】朝が来る ☆☆☆☆


朝が来る

朝が来る


Kindle版もあります。

朝が来る (文春e-book)

朝が来る (文春e-book)

内容紹介
出産を巡る女性の実状を描く社会派ミステリー


親子3人で平和に暮らす栗原家に突然かかってきた一本の電話。電話口の女の声は、「子どもを返してほしい」と告げた――。


 女性として生きることの難しさ、か……
 子どもが欲しくてもできない夫婦がいる一方で、望まない妊娠をしてしまう女性もいる。
 この小説では、「子どもが欲しくてもできなかった女性」と「ただ好きな相手と性行為をしていただけのつもりが、子どもができてしまった女性」が、それぞれの立場から描かれているのです。
 僕自身は男で、ふたりの男の子の父親であり、結婚後、そんなにあわてて子どもはつくらなくてもいいかな、と思っていたときに一人目、もう一人っ子になるんだろうな、と感じていた時期に二人目、でした。
 正直、何か特別なことをしたわけでもなく、自然にふたりの子どもに恵まれたわけで、それはとても幸運なことだったのではないか、と今になって思うのです。
 でも、人間って、自分にとっての「あたりまえ」は、他のみんなにとっても「あたりまえ」だと考えてしまいがち、なんですよね。
 現在は「お子さんは?」という質問は「ハラスメント」と見なされることも多く、若い世代では気をつけている人が多いと思われますが、いま還暦くらいの人は、時候の挨拶という感覚も残っているようです。
 まあ、自分が年を重ねてみると、若い世代との会話のとっかかりってけっこう難しくて、そういう「切り口」を不用意に選んでしまう気持ちも、わからなくはないんですが……


 この小説、「社会派ミステリー」なんて紹介をされていますが、ミステリーというよりは、「子どもをめぐる女性たちの物語」であり、「不妊」と「望まない妊娠」に対して、いま、社会でどのような取り組みが行なわれていて、当事者たちはどんなことに悩み、苦しんでいるのかを紹介するという、ある意味「教養小説」的な感じです。

 特別養子縁組は、民間団体の他にも、自治体によっては児童相談所で熱心に力を入れて取り組んでいるところもあるのだという。
 浅見からは、続いて、赤ちゃんを特別養子に迎えたいと思う夫婦に知っておいてほしいという心得が説明された。
「まず、よく説明会にいらっしゃるご夫婦に聞くと、こう仰る方がいるんですね。『”普通”の子がほしい』と。――ですが、よく考えてください。 ”普通”の子は、”普通”の家にいるんです。うちの団体を頼ってくるということは、何か事情があるということです。養親になる際には、実親さんの妊娠経過や家庭環境にどんな事情があっても問わない、という覚悟をしていただくよう、お願いしています」
 同じく、通常の自分の子どもの出産の時と同じように、性別を問わないこと。
 産まれてきた赤ちゃんにたとえ重度の疾患や障がいがあった場合でも、その子の親となる覚悟をすること、などが説明される。

「意外。ひかりちゃんって、普通の子だと思ってたのに」
 普通の子、という言葉を、どう受け止めるのが正しいのかわからなかった。
 しかし、不思議とその言葉自体に怒りはそこまで湧いてこなかった。自分はもう「普通」じゃないのか、と打ちひしがれるわけではまるでなく、この時、ひかりは「そうだよ」と一人、心の中で密かにこの言葉を肯定した。


 こうして生きていると、なんだか、自分の周りには「普通の人」ばかりがいるのではないか、という気がしてきます。
 でも、実際には、みんなそれぞれ「普通」から、多かれ少なかれズレている。
 それを他人には見えないようにしながら、生きているのです。


 ……とか書きながら、これを読んでいる僕は、結局のところ、「子どもができない苦しみ」を味わうことがなく過ごしてきたので、わかったようなことを言う資格があるのだろうか、とも思う。
 著者の辻村深月さんだって、わからないから、こんな「綺麗事」にもみえる作品になっているのではないか、とも考えてしまうのです。
 ただ、小説というのは、「外側」から見ているからこそ、書ける面もあるのですよね。
 読む側も「フィクション」だから、受け入れやすいところもある。
 医療関係のドラマを観ていると、「現場では、そこまでできないだろ……」と感じることが多々あるのだけれど、そういう過剰さが、人の心を打つのも事実なわけで。
 毎日の「普通の」診療風景なんて、面白くもなんともない。
 

 この小説、個人的には、中高生の男子に読んでもらいたい。
 世の中って「若者の性欲」を「しょうがないよね」って肯定したがる人が多いけれど、漠然とした性欲と、実際に相手がいる性行為とでは、生じる「責任」が全然違うということを、考えてみてほしいのです。
 

うちの子になりなよ (ある漫画家の里親入門)

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