
- 作者: 辻村深月,CLAMP
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2014/08/22
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (24件) を見る
内容紹介
監督が消えた! ?
伝説の天才アニメ監督・王子千晴が、9年ぶりに挑む『運命戦線リデルライト』。
プロデューサーの有科香屋子が渾身の願いを込めて口説いた作品だ。
同じクールには、期待の新人監督・斎藤瞳と次々にヒットを飛ばすプロデューサー・行城理が組む『サウンドバック 奏の石』もオンエアされる。
ハケンをとるのは、はたしてどっち?
そこに絡むのはネットで話題のアニメーター・並澤和奈、聖地巡礼で観光の活性化を期待する公務員・宗森周平……。
ふたつの番組を巡り、誰かの熱意が、各人の思惑が、次から次へと謎を呼び新たな事件を起こす!
熱血お仕事小説。
「2015年ひとり本屋大賞」7作品め。
あ、有川浩さんっぽい……
それが、この小説を詠み終えての、僕の率直な印象でした。辻村深月さん、なんか毒気抜けちゃったんじゃなかろうか。これでは、単なる「サブカル風味のお仕事小説」じゃないか。
『anan』連載で、イラストはCLAMP、そりゃ売れるよ……
この『ハケンアニメ』は、面白いし、すごく読後感の良い小説なのです。
ただ、その一方で、「これ、マンガにしたほうが、良かったのでは……」とも思う。
悪い人は出てこないし、アニメをつくる人も、観る人も、「リア充」たちにも、全方位的に気配りがなされていて、本当によくできた「お仕事小説」なのです。
連載が『anan』ということもあって、基本的には女性向けなのでしょうけど、僕のような「アニメは嫌いじゃないけど、このタイトルではじめて『覇権アニメ』という言葉を知った中年男」でも楽しく読めました。伏線もきっちり回収されているし。
アニメ制作にはお金が莫大にかかる。
制作費にだいたい一クールで一億二千万から一億五千万。二クールになると二億近く。一話平均一千万から二千万の計算だ。それとは別にテレビ放映の際には、テレビ局に支払う波代と呼ばれるスポンサー料がかかる。よく聞く「ご覧のスポンサーの提供でお送りしまう」というあれだ。この金額が深夜枠の場合で一クール平均一千万。
近年では、莫大な費用がかかるアニメの制作は、どこか一社のみで作るということはほぼなくなり、製作委員会が編成されることが多くなった。
テレビ放送終了後のDVD、ブルーレイディスクの売上なども含めて、ようやく黒字化するというビジネスモデルになっていることなど、アニメ業界に詳しい人には「常識」でも、それ以外の読者にとっては「そんなふうになっているのか」という感じですよね。
アニメ業界の裏事情をちゃんと取材しながらも、「業界の専門的な知識を羅列しただけ」にならずに、うまく消化し、それこそ「あまりアニメに興味がなさそうな『anan』の女性読者」でも読みやすいエンターテインメントになっています。
こういう「業界小説」って、その業界の豆知識みたいなのを羅列して、小説を書いた気分になっている作品を時折みかけるのですが、辻村さんは、プロの仕事をされているなあ、と。
「もうちょっとマニアックなほうが良いなあ、これだと、あまりにも普通の『お仕事小説』じゃないか」と僕などは言いたくなってしまうのですが、作中に出てくる、こんな言葉にハッとさせられました。
「並澤さんがこの間から僕に向けて言う”リア充”という言葉は、僕のように、現実のリアルしか充実していない人間を指す言葉ですか?」
「こちら側」からみれば、「リアルさえ充実していれば、それで良いんじゃないの?」なんですよ。
でも、「リア充」と呼ばれる側からすれば、「現実にばかりとらわれて、内面が貧しい人」だと、「豊かな内的世界を持っている人々(=オタク)」に、嘲られているように感じる人もいるのかもしれないな、と。
僕は、自分の足りないところばかりを考えて、僻んで、自虐のフリをしながら、他者をバカにしていたのではなかろうか。
「ちょっとヌルいよ!」って言いたくなるんだけれど、きっとこのくらいが、アニメファンと『anan』読者が一緒に楽しめて、『本屋大賞』にノミネートされるくらいの「適温」なんだよね、たぶん。