琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

オー!ファーザー ☆☆☆


オー!ファーザー

オー!ファーザー

内容(「BOOK」データベースより)
みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。

この作品は、2006年に新聞小説として連載されたあと、なかなか単行本化されず「お蔵入り」となっていたのだそうです。
この本のオビには、こんな言葉が書かれています。

すべての伏線がつながるこの快感! 伊坂エンタメの技の冴えを、とくとご覧あれ。

僕は、伊坂さんの最初の頃の作品が好きで、『ゴールデンスランバー』以降の「監視社会への警鐘を鳴らす作品群」は、あまり面白いと思えないんですよね。
伊坂さんの「理念」というか「政治的なスタンス」みたいなものがあまりに強く反映されすぎている気がして。
それで、「第一期」最後の作品だという『オー!ファーザー』は、けっこう楽しみだったのです。

「あとがき」で、伊坂さんはこんなふうに書いておられます。

 当時、このお話を気に入ってはいたものの、書き上げた際に、「何かが足りなかったのではないか」という思いがありました。設定が独創的だと自分では思っていたのですが、執筆中に編集者さんから、クィネルの作品『イローナの四人の父親』にも似たような設定が用いられていると教えられましたし、思えば、映画の『スリーメン&ベビー』も同じような話です。また、物語があまりに自分の得意な要素やパターンで作り上げられているため、挑戦が足りなかったのではないか、と感じずにはいられませんでした。
 そして、その頃からちょうど僕自身の中で「別のタイプの物語を書かなくてはならない」という思いが強くなり、今までとは少し違う小説を創りはじめることを決めていました。あまり好きな表現ではないのですが、簡単に言ってしまうと、その次の、『ゴールデンスランバー』からが第二期と呼べるのかもしれません。
 果たしてそこにどういう変化があったのかうまく説明はできないのですが(傍目から見れば、どこも変わっていないのかもしれませんが)、ただ、それ以降、いくつかの本で自分なりの挑戦や試行錯誤を行うことで、ようやく、(第一期の最後の作品とも言える)『オー!ファーザー』を単行本にする気持ちになれました。
 改めて、読み返してみたところ、ずいぶん時間が空いていたせいか客観的にこのお話を楽しむことができ、これならもっと早く、出しておけば良かったな、と少しだけ後悔もしています。

この『オー!ファーザー』を読み終えての僕の率直な感想は、「やっぱり、ミュージシャンにしても作家にしても、『未公開曲』に名曲なし、だな……」でした。
本当にすばらしい作品、自信がある作品であれば、「世の中に出ていく」ものだよね。

この作品、「4人の個性的な父親を持つ、主人公・由紀夫の物語」なのですが、読んでいて、けっこうジリジリしてしまいました。
「で、肝心の『物語』は、いつ始まるの?」
「4人の父親」という設定に溺れるあまり、その状況説明ばかりでページが進んでいき、「事件」が起こるのは、もう残り100ページを切ってから。
しかも、その「事件」が、設定へのこだわりに比べて、あまりにも小さくてつまらない。
伊坂さんの「伏線」といえば、読み終えたあと、「やられた!」って言いたくなるようなどんでん返しを期待してしまうじゃないですか、『アヒルと鴨のコインロッカー』のような。
この『オー!ファーザー』にあるのは、「伏線」というより、「こじつけと偶然が目立つ、後付けの状況説明」ばかり。

登場人物の会話の魅力とか、「家族愛」というテーマとか、伊坂さんらしいところもたくさんあるんです。
「最後まで読むのもムリなほど酷い作品」ではないと思う。
しかしながら、「設定が独創的であるという自分のイメージに酔ってしまって、テクニックだけで小さくまとめてしまった作品」だと僕は感じました。
僕は『ゴールデンスランバー』以降の「あまりにも啓蒙的な伊坂幸太郎」が好きじゃない、と先ほど書きましたが、この『オー・ファーザー』の、「何が言いたいのかよくわからない、説教臭がしない無味無臭の伊坂幸太郎」って、それはそれでつまらないものなんですね……

「何かが足りなかった」という伊坂さん自身の感触は、正しかったと僕も思います。
「こんなの売り物にするなよ…」とボヤキたくなるほど酷くはありませんが、伊坂ファンじゃない人には、『アヒルと鴨』か『死神の精度』『チルドレン』あたりを文庫で先に読んだほうがいいよ、と言っておきたいなあ。
僕はこの作品、「伊坂作品をコンプリートしたい人」以外には、薦めません。

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