琥珀色の戯言

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心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣 ☆☆☆☆


心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣

内容紹介
『心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、
常に力と結果を出せる秘訣だ。自分自身に打ち勝てない人間が、ピッチで勝てるわけがない。』
日本代表キャプテンとして、チームを勝利へ導いた男の実践的メンタルコントロール術。

長谷部誠はサッカー選手としては、特に特徴がある選手ではない。試合を決定するフリーキックが蹴れるわけではないし、突出したテクニックを持っているわけではない。だが、彼はあらゆる指揮官に重宝される日本代表の中心人物だ。それに加え、浦和レッズではタイトルを総なめにし、移籍したドイツでは、クラブチームを初優勝に導いた。そして、記憶に新しいアジアカップでのチーム優勝……。彼は一体何を持っているというのか。それは、類まれなるメンタルコントロール力にある。心はよく「鍛える」「磨く」などと表現されるが、長谷部誠は違う。心を「整える」のだ。生活のリズム、睡眠、食事、そして、練習。日々の生活から、心に有害なことをしないように、少しでも乱れたら自分で整える。そうすることによって、いかなる試合でも、いかなる場面でも揺らぐことがなく、ピッチで力が発揮できるという。実践することはいたってシンプルながら、だからこそ、慌しい現代では意識をしないと難しいもの。力を抜いて無理なく自然体で行える姿は、まさに彼の心情が姿勢として表れている証明だろう。今最注目のアスリートのビジネスでも、スポーツでも、あらゆるシーンで応用できる新メンタルコントロール術!


内容(「BOOK」データベースより)
プロサッカー選手初の自己啓発書。誰もが実践できるメンタル術!心は鍛えるものではなく、整えるもの。いかなる時も安定した心を備えることが、常に力と結果を出せる秘訣だ。

2010年サッカーW杯南アフリカ大会で、日本代表チームのゲームキャプテンを務めた長谷部選手の本。
幻冬舎の有名人本」だし、あんまり期待できないかな、と思いつつ購入したのですが、予想外に面白い本でした。


僕は自分が運動オンチなこともあり、スポーツ選手は「天性の勘」でプレーして、豪快に夜遊び、というような先入観を持っていたのですけど(そういう「夜遊び自慢」の選手もいますしね)、この本を読むと、一流スポーツ選手の多くは、非常にストイックな日常生活をおくっており、精神的・肉体的なコンディショニングを重視しているということがわかります。
ヨーロッパに移籍した8人の日本人選手が、ドイツ・デュッセルドルフに集まったときの話。

 僕はホテルを予約して、約3時間半電車に乗って向かった。
 お店では個室を用意してもらって、8人がぐるりとテーブルを囲んで座った。これだけ男が集まると、さすがにちょっとむさくるしかった(笑)。
 最初のオーダーのときから嬉しくなることがあった。ほとんどの選手が翌日はオフだったのでひとりくらいビールを頼むかと思ったら、「オレ、ウーロン茶」「オレは水」といった感じで、誰もアルコールを頼まなかったのである。もしかしたら、互いに牽制したところもあったのかもしれないけれど、結果的にこの日はひとりもアルコールを口にしなかった。これこそプロの集まりだなと、僕は密かにほくそ笑んだ。

そして、スポーツ選手のメンタルコントロール術というのは、普通の生活をしている僕にとっても、非常に役に立つのではないかと思いました。
「サッカーの試合で結果を出す」という、シンプルかつ明確な目標があるため、長谷部選手がここで書いている「やるべきこと」は、とてもわかりやすく、実行しやすいものがほとんどです。
(実際に継続してやることは、とても難しいのでしょうけど)

 南アフリカ・ワールドカップ期間中、日本代表が拠点としていたジョージのホテルには、選手のリフレッシュのために、いろいろな小道具が用意されていた。卓球、ダーツ、テレビゲーム……。また、ホテルはゴルフ場の施設内にあったので、もちろんゴルフもできる。このようなサッカーから離れた遊びが、選手たちの気分転換に一役買っていた。けれど、僕は何もやらなかった。
 それには理由があった。
 一日の最後に必ず30分間、心を鎮める時間を作りたかったのだ。

 ドイツには「生理整頓は、人生の半分である」ということわざがある。
 日頃から生理整頓を心がけていれば、それが生活や仕事に規律や秩序をもたらす。だから整理整頓は人生の半分と言えるくらい大切なんだ、という意味だ。
 このことわざに、僕も賛成だ。
 試合に負けた次の日などは、何もしたくなくなって、部屋が散らかってしまうことがある。あの場面でああすれば良かったという未練や悔しさが消えず、自分の心の中が散らかってしまっているからかもしれない。そんなときこそ、整理整頓を面倒くさがらなければ、同時に心の中も掃除されて、気分が晴れやかになる。

(中略)

 朝起きたら簡単にベッドメイキングする。本棚は乱れていたら整理する。ダイニングテーブルの上は物が散らかっていないようにする。ただ、あまり整理に対して気を遣いすぎると精神的に負担になるので、100点満点で言えば80点くらいの清潔感を保つようにしている。
 きれいになった部屋を見たら、誰だって心が落ち着く。僕は心がモヤモヤしたときこそ、身体を動かして整理整頓をしている。心の掃除もかねて。

 サッカー選手にとってアルコールは体力の回復を遅らせるし、ケガの原因にもなりうるので、飲みに行くのは休みのときだけだ。月に一度か二度くらいに抑えておいた方がいいと思う。深酒も厳禁。節度を保たなきゃいけない。
 僕はお酒の席では完全なオフモードになるので、基本的にメディアの人とは、お酒を飲まないことにしている。もし一緒に食事に行くことがあっても、そのときは絶対にアルコールを口にしない。メディアの方と飲むと、もしかしたら情がわいてしまうかもしれないからだ。選手とメディアは互いにプロフェッショナルな関係でいるべきだと思うので、もし情がわいたら、それはメディアを通じてニュースを知るサポーターへの裏切りになってしまう。

(中略)

 ちなみに岡田武史監督も選手の冠婚葬祭などには出ないという。出席してしまったら、情がわいてきてしまうからだそうだ。

この本を読んで僕が感心したのは、長谷部選手が、「メンタルを変えることでメンタルコントロールをしようとしないこと」でした。
もっとわかりやすく言い換えると「考え方やものの見方を変えれば、すべてが良いほうに思えるはず」というありがちな「精神論」に、長谷部選手は頼っていないのです。
「考え方」の前に、まず「行動そのもの」を変えることによって、「メンタルを安定させる」。


これは、ものすごく合理的なことなのですが、スポーツ選手ならぬ「普通の社会や企業」のほうが、「精神論」を重視しがちなのですよね。
自分の「考えかた」が変わらないことにクヨクヨする時間があったら、
「身の回りを整理整頓する」
「アルコールを飲むと、疲労が抜けないから、酒を飲んで寝ない」
こういう「行動」をとるによって、ストレスはかなり軽減でき、回避できるトラブルもたくさんあるはずなのに、日常で「ちょっとしためんどくささ」に、つい負けてしまうのです。


この本に書かれているのは、基本的に「あたりまえのこと」ばかりです。
でも、世界でトッププレイヤーとして闘っている人が気をつけているのも、こういう「あたりまえのこと」であるというのは、とても大切なことだと思います。
実際、「あたりまえのこと」をあたりまえにやり続けるのは、すごく難しい。
だからこそ、みんな、目に見えない「精神論」みたいなものに、「活路」を見いだそうとして、かえって泥沼にハマってしまう。

あと、長谷部さんからみた、いろんなチームの監督の姿も、かなり興味深いものでした。
南アフリカW杯直前に、先輩の中澤選手から、「ゲームキャプテン」を引き継ぐように言われたときの長谷部選手と岡田監督のやりとり。

まだ26歳で、チーム内に年上の選手がたくさんいたこともあり、長谷部選手は、この岡田監督の指名に悩んだそうです。

「ひょっとしたら自分がキャプテンマークを返せば、逆にチームはまとまるかもしれない……」
 そう考えた僕は部屋の受話器を取った。
「監督、今から部屋にうかがってもいいですか?」
 僕は息を整えて、自分の部屋を出た。
 監督の部屋のドアをノックすると、「おう」と声がして、ドアを開けてくれた。部屋は選手の部屋よりも少し広かった。ソファがL字に置かれていて、応接のスペースがあった。監督はソファに腰を下ろし、話を切り出した。
「話って何だ。何かあったのか?」
 僕は言った。
「今、僕がゲームキャプテンをやるのは、チームに与える影響が大きすぎると思います。キャプテンを辞退させてもらえないでしょうか」
 岡田監督は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの柔和な表情に戻った。
「何だ、オマエも意外にまわりに気を遣っているんだな。分かった。この件は一旦オレに預からせてくれ」
「ありがとうございます。ただ、どんな結論になろうと監督の決定に従います」
 このあと岡田監督は(中澤)佑二さんを部屋に呼び、話し合いの場を持った。詳しい話は分からない。僕は自分の部屋に戻り、電話が鳴るのをひたすら待った。


「ハセベ、今来られるか?」
 2人の会談が終わると、岡田監督は再び僕を呼びだした、
 じっと目を見つめ、真剣な表情で監督は言った。
「やはりゲームキャプテンはオマエにやってもらう。オマエは誰とでも分け隔てなく話せるし、独特の明るさがある。何か特別なことをやろうとしなくていい。今までやっていたとおり、普通に振舞ってくれ」
 監督の決定に従うと言っていた以上、もう反論の余地はない。
「分かりました」
 僕は覚悟を決め、自分にできることをやろうと思った。のちに監督からはこうも言われた。
「オマエは声を出すことでも、プレーでもチームを前に進めることができる。自分なりのリーダーシップでみんなを引っ張ってくれ」

まもなく40歳という僕の年齢からすると、岡田監督のように「交代を命じる立場」にも、中澤選手・長谷部選手のように「交代を命じられる立場」にもなりえます。
そういうときには、こんなやりかたがあるんですね。
これが唯一の正解というわけではないけれど、僕はこのエピソードを読んでいたときに「岡田監督は、長谷部選手に『もう俺が決めたことだから、お前しかいない』と通告するのだろうな」と思っていたのです。
でも、岡田監督は、そうしなかった。
中澤選手と岡田監督がどんな話をしたのかはわかりませんが、これが岡田監督のやりかただったのだな、と感じました。


後半の「読書」の項に関しては、どうせニーチェ読むのなら、『超訳』じゃなくて、原典に忠実な訳のほうが良いのになあ、とか読書マニアとしては一言申し上げたくなったりもしたのですが、プロスポーツという僕には全く縁がない世界だからこそ、いろいろと参考になるところが多いと感じる「自己啓発書」でした。

机上の空論をふりかざし、「考え方を変えれば、幸せになれる」って言っている「自己啓発書」を100冊読むより、この長谷部選手の本(とくに前半)を読むほうが、よっぽど有益かつ効率的です。知っているスポーツ選手のエピソードっていうのは、やっぱり読んでいて面白いですし。


「スポーツ選手に、『心』の何がわかる?」と思っている人に、ぜひ読んでみていただきたい。
僕も、そういう先入観にとらわれていたから。

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