サムライブルーの料理人 ─ サッカー日本代表専属シェフの戦い
- 作者: 西芳照
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2011/05/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ジーコ、オシム、岡田、ザッケローニ監督のもと、世界で戦う選手たちを「食」で支えてきた専属シェフが初めて語る、W杯の秘策と感動の舞台裏。W杯の勝利のメニューとレシピ掲載!
「西さん、ありがとう。これからもサッカー日本代表の栄養と食事を追求していってもらいたい。」岡田武史
「海外での慣れない環境や食事が心配でも、西さんがいれば安心できました。」阿部勇樹選手
「西さんは兄貴のような存在。遠征先で西さんの笑顔を見るだけでうれしくなります。」田中マルクス闘莉王選手
「食事といえば西さん、というくらい自分にとって西さんの存在は大きく、信頼しています。」中澤佑二選手
「西さんのような重要な仕事をしている人のことを、多くの人に知ってほしい。」中村俊輔選手
「いつも明るい笑顔と心のこもった料理で僕たちを迎えてくれて本当にありがとうございます。これからもサッカー日本代表の食卓をよろしくお願いします。」長谷部誠選手
日本代表の活躍を支える料理の秘密
W杯ベスト16、アジア杯優勝と躍進するサッカー日本代表。選手たちを「食」で支え続ける専属シェフがいる。本書の著者、西芳照だ。西が最初に日本代表の海外遠征に帯同したのは2004年、シンガポールでのW杯ドイツ大会アジア地区予選。ジーコ監督時代から現在に至るまで、日本代表の海外遠征に西は欠かせない存在だ。本書はW杯ドイツ大会、W杯南ア大会を経て、アジア杯優勝に至るまでの舞台裏を専属シェフが初めて明かす感動のドキュメント。
環境や食習慣の異なる海外で選手たちが最大の力を発揮できるように、西は衛生面に細心の注意を払うと同時にメニューや調理法に様々な工夫を凝らす。それが選手たちの体調の良さだけでなく、チームの雰囲気づくりにもつながっている。現地ホテルの厨房で料理することには苦労も伴う。選手たちの戦いの陰に、シェフのもう一つの戦いがあった。
W杯、アジア杯ともに延長戦の末まで走り続けた選手たち。どんな料理がスタミナ源になっているのか? 試合前後に何を食べて戦っているのか? 代表選手は食事にどのような配慮をしているのか? 全ての秘密が本書に詰まっている。W杯南ア大会の全メニューを日記で紹介。巻末レシピ付! W杯メニューを再現できる。
[目次]
はじめに
第一章 サッカー日本代表専属シェフになる
第二章 はじめてのワールドカップ〜2006年ドイツ大会〜
第三章 ワールドカップ南アフリカ大会に向けて
第四章 2010年ワールドカップ南アフリカ大会 日記
終わりに
巻末付録──西流最強レシピ
「サッカー日本代表はスポーツ選手のなかでも注目度が高い『スター集団』なのだから、ワールドカップの開催中は、さぞかし豪華な食事をしているのだろうなあ」
そんなことを想像しながら、この本を読み始めました。
僕はスポットライトがあたる「主役」たちよりも、「裏方さんの仕事」に共感することが多く、その仕事ぶりを知りたくなってしまうのです。
この『サムライブルーの料理人』は、「サッカー日本代表の胃袋を支える男」による、「もうひとつのワールドカップ」を描いたものでした。
考えてみれば当たりまえのことなのですが、多くの選手たちを、より良いコンディションで試合に向かわせるためには、移動や食事、宿舎や練習場の確保など、さまざまな「支援」が必要とされます。
ピッチで闘っている選手たちだけでなく、スタッフみんながそろってはじめて、「サッカー日本代表」というミッションは機能するのです。
「実のところ、サッカー日本代表の海外遠征に帯同するまでサッカーにはほとんど興味がなかった」という西さんなのですが、2004年に最初に海外への「帯同シェフ」となってから、さまざまな工夫で、選手たちの体調管理、そして、モチベーションを高めることに貢献してこられています。
なかでも、西さんがはじめた「ライブクッキング」という食事の際に「選手の目の前でパスタやうどんをゆでたり、肉を焼いたりする」という試みは、選手たちにも大好評で、ジーコ監督は宿泊先の施設を決める際に「ライブクッキングができること」を最優先の条件としたそうです。
ホテルの朝食の際に、目の前でオムレツを作ってくれるサービスを想像していただければわかりやすいと思うのですが、それまでは、衛生上の問題などもあり、「つくりたての料理」を選手たちが口にするのは、かなり難しかったのです。
西さんをはじめとする食事担当のスタッフは、食事開始時間の前から、料理をずっと作っているわけで、それから「ライブクッキング」で、何時間も続けて料理をつくりつづけるのは、かなりの重労働なはず。
それでも西さんは、ずっと「楽しそうに仕事をしている」と選手たちに言われるのだとか。
そして、選手たちもまた、スタッフには感謝の念と敬意を持って接しているようです。
一流は一流を知る、と言えばいいのでしょうか。
少なくとも、この本に出てくる選手には、「日本代表を支えるスタッフに、大人げない態度をとる人」はいませんでした。
中村俊輔選手は海外遠征に出ると、滞在初日の食事のときに真っ先にやってきて「西さん、このホテルの厨房スタッフとは仲良く仕事ができている?」と聞いてくれます。「いや、まあ、いろいろありますよ」と冗談交じりに言うと、現地スタッフのところに行ってジョークを交えながら話をして気持ちをほぐしてくれたりします。現地のスタッフのなかに一人で飛び込んでいく私が、働きやすいようにしてやろうという配慮からなのです。中村選手はいつもそうやってさりげなく周囲の人たちへの気遣いをしてくれる人です。私がJヴィレッジを留守にして海外遠征に帯同することについても「西さんがいない間、Jヴィレッジは大丈夫なの?」と心配してくれました。選手やスタッフのそういった人間的なあたたかさを感じるたびに、感謝の思いと明日への活力がわき起こってきます。
こういう「中村俊輔選手の素顔」というのは、日頃、語られることがありません。
去年のワールドカップでは、「出場しなかったのが勝因」とまで言われていた中村俊輔選手ですが、こういう人柄で、試合に出なくても、日本代表を支えていたはずです。
多くの選手たちにとって、西さんをはじめとするスタッフは、まさに「運命共同体」であり、「ファミリー」なんですね。
スター選手といえば、なんかもうワガママやり放題、みたいなイメージを僕は持っていたのですが、日本代表の選手たちには、けっしてそんなことはありません。
ストイックに食事に気を配りながらも、遠い異国の地で出されたラーメンに歓喜する姿などは、「ああ、みんなおんなじなんだな」と微笑ましくすらあります。
選手たちが日頃口にしているメニューも「豪華絢爛、キャビア・フォアグラ山盛り」なんていう僕の想像とは程遠いものでした。
日本全国から注目を集めるサッカー日本代表ではありますが、海外遠征先だけでなく国内の合宿でも高価な食材を使って豪華な食事をしているわけではありません。選手が求めているのはグルメな食事ではないのです。たまに現地のシェフがその地の珍しい料理をつくって出してくれますが、好んで食べる人が多いとは言えません。遠征先では珍しいものを口にして体調を崩す不安を抱えるより、ふだんから食べ慣れているものを安心してしっかり食べて試合に備えたい、というのが彼らの本音でしょう。
私が準備する食材も、日本のスーパーマーケットで気軽に購入できるようなごく一般的なものです。ただ、米と同じように「安心して食べてもらえる」と私が自信を持って出せることを第一に考えています。家庭で安心して食べられるものを選んで料理をするように、私も選手やスタッフに安心して食べてもらいたい。そう願うのです。
この本のなかで、西さんは、一部の料理のレシピも含め、「日本代表が南アフリカ・ワールドカップで食べていたメニュー」を公開されています。
食材の調達上やむをえない、現地の魚を使った料理などを除けば、どれも「ふだんから、一般的な日本の若者が口にしているのと同じような料理」(ただし、ジャンクフードは無し)です。
しかしまあ、逆にいえば、これだけちゃんとした「普通の食事」を毎日している日本人は、そんなにいないのかもしれませんけどね。
海外での食材の調達や、選手たちの食欲を刺激するようなメニューの組み立てなど、西さんの仕事は多岐にわたっています。
選手たちも「食」がスポーツ選手としてのパフォーマンスに、そして、日々の「やる気」を維持していくためにどれだけ大切かをよく知っているのです。
おいしい食事は、人と人とのコミュニケーションを円滑にし、リラックスさせてくれます。
それがほんのひとときだけでも、他のやりかたでは不可能な「癒し」がそこにはあるのです。
遠い異国で、大きなプレッシャーにされされている人たちにとっては、なおさら。
ワールドカップ・南アフリカ大会での岡田武史監督のエピソード。
岡田監督はスイス合宿に入ってからも、食事中笑顔が見られませんでした。
ところが一回だけ、岡田監督が笑顔を見せたことがあったのです。それはスイス合宿を半分ほど消化した5月末、ライブクッキングではじめてラーメンを出したときでした。選手たちが歓声をあげてラーメンを食べているのを見ながら、ふと監督が座っているテーブルのほうを見ると、なんと監督も醤油ラーメンを食べながら笑顔を浮かべているではありませんか!
岡田監督の笑顔を見たのはいったい何カ月ぶりでしょうか!
岡田監督は冗談が好きで、気さくに話をされるあたたかい人です。話題が豊富で、実にさまざまなことについてユーモアを交えながらおもしろく話されます。ふだんの岡田監督を知っているので、代表監督になってからの険しい表情を見るたびに心配していました。代表監督とは、なんとプレッシャーのきつい仕事なのだろう、とため息をつきたくなる思いでした。
でも岡田監督のその笑顔を見たとき、心底ほっとしました。食べ物が緊張感をほぐし、気持ちを明るくすることがあるのです。私にできることは、そうやって気持ちを上向きにするようなおいしい食事をつくることだけです。少しでも岡田監督にリラックスしてもらうことに役に立てたことがわかって、内心安堵しました。
日本代表の選手たちは、ワールドカップ・南アフリカ大会のあと、西さんと同じ東北出身の今野選手の「15番」のユニフォームに全員がサインをして、プレゼントしてくれたそうです。
もちろん、スポーツでは選手たちの活躍がいちばんの「見どころ」でしょう。
でも、その陰で、こんなに面白い「裏方さんたちのワールドカップ」が開催されているのです。
自分の仕事にプライドを取り戻したい多くの人たちに、ぜひおすすめしたい一冊です。