琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

本へのとびら ☆☆☆☆


本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

内容紹介
「生まれてきてよかったんだ、と子どもにエールを送るのが児童文学」。自らの読書体験、挿絵の素晴らしさ、アニメと本との関わり、そして震災後の世界について──。アニメーション映画界のトップランナーとしてつねに発言を注目される著者が、お薦め岩波少年文庫50冊の紹介とともに、本への、子どもへの熱い思いを語る一冊。(カラー版)


あの宮崎駿監督が、「岩波少年文庫」から思い出に残っている作品を紹介するという新書です。
ひとつひとつの本につけられたコメントは短いのですが、紹介されている本の表紙や挿絵を見ているだけでも、けっこう楽しい気分になってきます。
ここで紹介されている本のなかで、僕が実際に読んだことがあるのはごくごく一部だけなのですが、児童書っていうのは、どうしてこう眺めているだけで、ちょっと幸せな気分になれるのでしょうか。
この中だったら、息子にどれを読ませたいかな、なんて、つい考えてしまいます。
たぶん、息子は『きかんしゃトーマス』とか『アンパンマン』のほうが好きなんじゃないかと思われますが。


それぞれの本につけられている宮崎駿監督のコメントのなかには、けっこう強烈なものも含まれています。

デフォーの『ロビンソン・クルーソー』には、

 とてもおもしろい、ワクワクする本です。
でも……ぼくは大人になってから、この本のトゲに気がつきました。主人公が銃を持っていなかったら、どうだったでしょう。おそらく、ずい分みじめなくらしになったと思うのです。この本を読んで白人達はかならず銃を持って、他の島や国にいって宝物をとりあげたり、人を撃ちころしたりして世界中を荒らしまわりました。


トールキンの『ホビットの冒険』には、

 旅と冒険、秘宝と魔法、勇気と戦いの書です。ところが今ではなんだか色あせて感じられます。
 この本をヒントに、あまりにすごい数のロールプレイングゲームが作られ、魔物を一匹、二匹とやっつけて数えたりしすぎたのでしょう。それにもっと刺激的で細工をこらしたファンタジーが大量生産され、消費されたからだと思います。この本は喰い尽くされてしまったのです。

 こういう「児童書」に対しても、「大人の視点」「歴史的な観点」が、ところどころに顔を出してしまうのが、宮崎駿監督らしいところなのかもしれません。
 これほど否定的なものはさすがに多くはないのですが、いずれも「自分も子供のふりをして、褒めちぎる」のではなく、「大人として、いまの宮崎駿として解説している」のです。
 この新書を企画した岩波新書の人は、こんな「子供向けのブックガイドとは思えないような本」になってしまったことを、どう思っているのかと気になってしまうくらいです。


さらに、

 50冊の少年文庫を推薦する文章を書いて、僕は楽しかったです。ただこれを読んで、子どもが本を読むかなあって思うと、そう簡単じゃないと思います(笑)。これは、かつて本を読んだ人たちが読む本です。
 でもきっかけは何でもいい。この順番に読もうなんていう、百名山みたいな発想も捨てればいい。何の気なしに読んでみたらとても面白かったということがあるはずですから、何かのきっかけになればいいなと思います。
 選ぶのはけっこう大変だったんです。はじめは50冊ぐらいを選ぶのは軽いと思っていたんですが、内容も覚えていたものを挙げてみたら、10冊ぐらいで終わりになってしまいました。面白かったということは覚えているんだけれども、どう面白かったかということは覚えていない。それから、全然読んでいない出版時期のものが、かたまりであったこともあって、当惑しました。
 結局この50冊のなかには、読めなかった、という本もある。推薦文に、「何回読みかけても、この本を最後まで読めません」って書いてありますから(笑)。僕は読んでないけど、読んだ人がみんないいって言うから、これははずすわけにはいかないな、という本があるわけです。すると、「だけど読んでないんです」って書くしかないじゃないですか。

 監督、正直すぎます!
 本当にこれでいいのか?と思うところもあるのですが、紹介されている「宮崎駿の心に残った挿絵」を見ると、なんだか、天才の感性の一端に触れられたような嬉しさもあるので、たぶん、これでいいんですよね。


 宮崎監督は、「子どもたちへのエール」という項のなかで、こんなふうに書いておられます。

 こういう状況においても、本を読むことを必要とすると思います。本は必要です。
 石井桃子さんたちは、敗戦後の困難を乗り越えようとして、少年文庫をつくった。
「児童文学はやり直しがきく話である」ということです。
 正確に言うと、もう今では、「やり直しがきかない」という児童文学もずいぶん生まれているんです。しかし少なくとも戦後岩波少年文庫がスタートしたことは、「人生は再生が可能だ」というのが児童書のいちばん大きな特長だったと思うんです。

 息子の絵本(『スイミー』とか『しょうぼうじどうしゃ じぷた』とか)を読んでいると、なんだか僕のほうが感動してしまっていることがあるんですよね。
 いまだからこそ、大人にも、いや、大人にこそ、児童文学が必要なんじゃないかな、と僕も感じました。
 とりあえず、手もとに置いておきたくなる一冊です。

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