- 作者: 本橋信宏
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: 本橋信宏
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内容紹介
ウルトラCの企画や奥の手の販売戦略の数々‼「科学」と「学習」はなぜ校内で販売されていたのか。
「平凡パンチ」で素人を脱がせていたのはどんな人か。
世間を震撼させた「ノストラダムスの大予言」の著者は今何を考えているのか……。
60年代から70年代にかけて、青少年を熱中させた雑誌や書籍には、
前代未聞の企画力や一発逆転の販売アイディアに溢れていた。
その舞台裏を当時の関係者たちから丹念に聞き出した秘話満載のノンフィクション。
1960年代から70年代によく売れて、社会現象になったり、今でも思い出話に登場してくる本や雑誌について、当時の関係者に取材したものです。
LGBTに関する杉田水脈さんの論文を掲載したことがきっかけで休刊となった『新潮45』で不定期連載されていたものの書籍化(1章分は新たに書き下ろされたもの)だそうですが、あの論文は受け入れがたいものではあるものの、こういう企画をずっと載せ続けてきた雑誌が無くなるというのは、残念なことにも思われます。
私が長年抱いていたベストセラーの謎がある。
犯罪をテーマにしたポプラ社版江戸川乱歩の探偵小説が、なぜ小学校の図書室に置かれていたのか。
極度のスランプに陥った手塚治虫が完全復活した「ブラック・ジャック」がなぜ「少年チャンピオン」で連載されたのか。
私が小学1年生になった1963(昭和38)年当時、「少年サンデー」「少年マガジン」「少年キング」といった少年漫画週刊誌でなぜ戦記物が誌面を占領していたのか。
石油ショックのときに刊行された「ノストラダムスの大予言」の著者・五島勉はいまどうしているのか。
受験生のバイブル「試験に出る英単語」と「豆単」のライバル争いは結局どうなったのか。
「8マン」「まぼろし探偵」「月光仮面」の桑田次郎(現・二郎)はいまどうしているのか。
学研の「科学」と「学習」はなぜ校内で直接生徒に販売できたのか。
「科学」「学習」を販売する「学研のおばちゃん」の正体とは。
僕にとっては、ひと世代上の人たちにとってのベストセラーの話ではあるのですが、「試験に出る英単語」は僕も使っていましたし、『ノストラダムスの大予言』の影響はずっと続いていて、子供心に「僕は30歳にもなれずに死ぬのか……」と絶望していたものです。
のちに『と学会』の本で、「『ノストラダムスの大予言』の信頼性の低さ」を知ったのは、僕が「メディアリテラシー」について考えるきっかけになりました。
『ノストラダムスの大予言』は、同世代の人たちが、オウム真理教にハマっていく下地になったり、僕とほぼ同じ年のよゐこの濱口さんが、相方の有野さんを「どうせ俺たちは30歳にもならずに死ぬんだから、好きなことをやろうぜ」とお笑いの道に誘ったり(有野さんは「別にお笑いがやりたいわけじゃなくて、料理人になりたかったのに」と苦笑していましたが)、と多くの人生に影響を与えたのです。
小学校の渡り廊下を歩き、集金袋を渡すと、「5年の科学」が手渡される。
今月号の付録はいったいどんなモノなのか、ときめきと同時に幾分かの後ろめたさを感じながら、私は渡り廊下を歩き教室にもどる。
1967(昭和42)年、埼玉県所沢市の市立小学校5年生だった私は、この年から学研が発行していた「科学」を購読するようになった。「科学」と「学習」が校内で直販されるようになったのだ。代理店が「科学」と「学習」を児童に直接手渡し、集金袋は教師が配ったような気がする。教室では両誌のどちらかを購読する児童と購読しない児童に分れた。興味が無い児童は、渡り廊下の向こうでやりとりされることにまったく関心は無いが、経済的事情で買えない児童にとっては、面白くない時間帯だっただろう。ごく平均的なサラリーマン家庭に育った小学5年生の私は、「科学」を購読する自分に若干のブルジョアジー的後味の悪さを感じながら、教室にもどってきたものだ。
「科学」の付録は11歳の児童を夢中にさせる大いなる魅力があった。鉱物セット、天体望遠鏡、月面模型、紙製造セット……40年以上たったいまでも、忘れずにいる。
学校で売られていた本には、それを買える喜びと同時に、買えないクラスメイトがいるなかで受け渡しをされる、という後ろめたさがたしかにあったのを思い出しました。
ネットもテレビゲームもない時代の「学習雑誌」には、その付録も含めて、ものすごい魅力があったのです。
「科学」「学習」が、なぜ学校で売られていたのか、という疑問について。
発行元の学習研究社(学研)は、1946年の4月に創業されたのですが、小さな出版社だったので、取次店が相手にしてくれませんでした。雑誌や書籍の流通において、大きなハンデを背負っていたのです。
しかし、ピンチは時にチャンスに転じる。終戦直後、軍国主義に荷担していたとみなされ、公職追放された校長たちがたくさんいた。古岡秀人社長は元校長たちに目を付け、子どもの教育に役立つ本の普及に同志として力を貸して欲しいと協力を求め、彼らを「学習」の販売部長として各小学校への営業を委託したのだ。元校長の営業は絶大な威力を発揮し、「学習」は学校内で自動に直接販売する直販制度をとり、順調に売れた。
ピンチに陥った出版社と元校長たちが協力することによって、「学習」「科学」の直販制度が生まれたのです。
学校側も「元校長」の頼みとあれば、ムゲにもできないでしょうし、そういう「情による公私混同」について、現在ほど問題視される時代ではなかったのです。
江戸川乱歩の『少年探偵団』『怪人二十面相』シリーズが、ほとんどの学校図書室に置かれている理由についても書かれています。
僕も子供心に「なぜこんな犯罪を扱った本が学校の図書室のような『クリーンなはずの場所』に置かれているのだろう?」と疑問だったんですよ。
僕にとっては「数少ない、図書室で興味が持てる本」でもあったんですけどね。
「ポプラ社飛躍で一番大きかったのは乱歩さんですね」と女性編集者が証言するほど、よく売れた。興味深い発言がつづく。
「(ポプラ社では)昭和20年代後半から学校の図書室に入るような学習物も出しはじめたんです。社会科的なもの理科的なもの、それをもって書店さんも一軒一軒廻ったし、学校も一校ずつ廻ったことが、ポプラ社が日本一の営業と言われる基礎になったんです。なかでも田中はいろいろな学校を廻っていました。これからは学校だって言って、昭和28年から書店さんと一緒に日本中の学校を廻った。田中は大変だった。九州まで本をつんで車で3、4日かけて行って営業をしてきたんです」
乱歩の少年物が小学校の図書室にそろっていた理由がわかった。もともと乱歩の少年物は子ども心をとらえて放さないおもしろさがあったが、それに加えて田中治夫をはじめとしたポプラ社営業部員たちの、全国津々浦々の学校への地道な営業活動の成果だったのだ。そして現在、少年探偵シリーズの総発行部数は1720万部にも及ぶ。
子どもたちが興味を持って読んでくれる、という「内容」はもちろんなのですが、ポプラ社の営業力が、江戸川乱歩作品を全国の小学校に浸透させたのです。当時の日本は、今よりもずっと「人間関係の影響」が大きくて、「せっかくここまで本を持ってきてくれたのだから」と相手に思わせることが有効な社会でもありました。
そのおかげで、『少年探偵団』や『怪人二十面相シリーズ』を読むことができた僕は、ポプラ社の営業努力に感謝すべきなのでしょうね。
懐かしい本や雑誌の話であるのとともに、本や雑誌をつくって売る人たちが、もっとも元気があった時代の話でもあります。
いま還暦くらいの人たちにとっては、すごく「刺さる」エピソード満載の新書です。
- 作者: 江戸川乱歩
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江戸川乱歩・少年探偵シリーズ(1) 怪人二十面相(ポプラ文庫クラシック)
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([る]1-3)8・1・3の謎 怪盗ルパン全集シリーズ(3) (ポプラ文庫クラシック)
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