琥珀色の戯言

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【読書感想】県庁おもてなし課 ☆☆☆☆


県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
地方には、光がある―物語が元気にする、町、人、恋。とある県庁に突如生まれた新部署“おもてなし課”。観光立県を目指すべく、若手職員の掛水は、振興企画の一環として、地元出身の人気作家に観光特使就任を打診するが…。「バカか、あんたらは」。いきなり浴びせかけられる言葉に掛水は思い悩む―いったい何がダメなんだ!?掛水とおもてなし課の、地方活性化にかける苦しくも輝かしい日々が始まった。

 有川浩さんの作品、なんとなく飽きてきた感があって避けてきたのですが、久々に読むとけっこう楽しめました。
 どうせハッピーエンドになるんだろうけど、ええい、なんかまだるっこしいなあ!さっさと付き合っちゃえばいいのに!
 「ハッピーエンドが約束されている」と、気楽に読めますしね。


 でもまあ、この作品に関しては、エンターテインメントとしてよくできている、と感心するところもあれば、「お役所」「公務員」=悪、という作者の気持ちが伝わってきて、ちょっと不快でもあったんですよね。
 僕が公立病院に勤めていた際に、日曜日にいきなりやってきて、健康診断的な検査をしてくれと言ってきた中年男性に、症状もないみたいだし、専門の医者もいないので緊急では無理です、と説明したところ「だから公務員は……うちは民間企業だから、休みなしでお客さんにサービスしているのに!」と怒り出したのを思い出しました。
 この人は、ある会社のそこそこ偉い人だったみたいなのですが、こういう人の下で働かされるのは、たまんないだろうなあ。
 「公務員」を目の敵にすることによって、自らの「ブラック企業のやりかた」を正当化している偉い人って、けっこう多いように感じるのです。
 僕たちだって、公立病院に勤めることはあっても、ちゃんといた「公務員」として扱われないことがほとんどだし、いろんなところに転勤ばかりでろくに退職金も出ないから、「公務員うらやましいなあ」と思うこともありますけどね。


 働き方としては「キツイほう、休日も返上して働くほう」を基準にしても、大部分の労働者は幸せにはならないはず。
 どうもね、これを読んでいると、人気作家吉門=有川浩、に見えてしまうのです。
 もちろん、それは作者も意識しているはず。
 売れっ子作家とはいっても、保証のないフリーランスではあるでしょうし、「お役所仕事」的なものに不快感を持っていても、おかしくはない。
 とはいえ、この「人気作家である私が、ガツンと言ってやった」感は何なのか……

「トイレの偏差値って何ですか」
「観光地の偏差値とも言えるな。俺も取材であちこち回るけど観光地として成熟しているところはトイレに困らない。公衆便所の底値が高いところは観光に対する意識が高いね。水洗で清潔、和式洋式バリアフリーと取り揃えて、紙も切らさないのが標準仕様。女性のほうが採点厳しいのは確かだけど、男だって汚いトイレで嬉しいわけじゃないだろ」
「それはまあ、キレイならキレイなほうが」
「佐和の言ったとおり、客商売で一番の肝は水回りだよ。宿なんかもそうだけど、部屋がボロでも『うらぶれた風情』とかで押し通せる。でもこれでトイレや風呂が汚かったらアウト。逆に水回りさえ清潔だったら人間大抵のことは許せるもんだよ」

 いや、この小説、面白いんですよ、本当に。
 面白くて、「地域振興の現状」みたいなものが、ちょっとわかったような気分にもなれる。
 単なるラブコメじゃなくて、こういう「ちょっとタメになるような感じ」が、有川浩さんの人気の秘密なんだと思いますし、ラブコメにしても、「お前ら、お互いの気持ちなんてわかりきっているくせに、もったいぶりたがって、じれったいなあもう!」っていうくらいの慎重さは、かえって「珍しい」感じもするんですよね。村上春樹だったら、君たちは5行目くらいで「寝て」いるぞ。
 

 ただ、「観光推進について、この本のなかで採り上げられている情報」については、そんなに目新しいものじゃなくて、本当に集客に悩んでいるところからすれば、「そのくらいのことは、どこでもやっている」程度のものじゃないかな、という感じではあるんですよね……
 で、最近はむしろ、どこへ行っても「星野リゾート的な宿」ばかりになってしまっているのです。


 巻末の対談のなかで、有川さんは、「観光」について、こう仰っておられます。

 観光って、「来て、見て、帰る」では、もうダメな時代になってると思うんですよね。物語が欲しいんですよ。その土地に行ったことによる物語を、お土産に持って帰りたいんです。例えば、馬路村に簡単に行けたら、物語にならないんですよ。アクセスの不便さこそが、物語になる。観光客は、物語を体験しに来てるんですね。

 これは確かにそうだろうなあ、と。
 ファーストクラスや豪華客船で世界一周、という金にあかせた観光を除けば、いわゆる「中流の日本人」ならば、世界中のほとんどの場所に「本気で行こうと思えば行ける」のが現在です。
 だからこそ、「みんなが行かないところ」「アクセスが不便なところ」に価値を見出す人もいる。


 「最大公約数の人が楽しめるエンターテインメント小説+ちょっと賢くなった感じ」という、最強コンボ。
「公務員叩き嫌い」でなければ、けっこう楽しめる小説だと思います。
 

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