琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】考えごとしたい旅 フィンランドとシナモンロール ☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
温かいコーヒーとシナモンロールを頬張りながら。時間とか、人生とか、自分について、「食べて」「歩いて」「考える」フィンランドひとり旅。


 フィンランドひとり旅、かあ……
 北欧というのは、好きな人にはたまらない場所みたいなんですよ。
 僕もノルウェーに行ったことがあるのですが、少し郊外になると、絵本のような風景が広がっていて、なんだか現実感がなかったのを思い出します。
 
 いやしかし、フィンランドって、何があるんだろう、オーロラとサンタクロースとムーミンくらいしか僕には思いつかない……
 でも、この本を読んでいると、けっこう日本人観光客が多いみたいなんですよ。
 益田さんは、2017年から、1年に1回ずつこの国を訪れているのです。
 でも、書かれているのは、ちょっとした観光と、あとはカフェでの食事と考えごと。
 冒頭に現地で撮った写真が収められているのですが、食べ物は同じようなパンとスープの写真ばかりで、「これ、何が楽しいのだろう……」と、海外旅行では、「もう二度と来ない可能性が高いから」と、やたらとハードな観光のスケジュールを立ててしまう僕は考えずにはいられませんでした。

 10代、20代の頃にした海外旅行と、中年になってからの海外旅行。違うものだと感じる。旅での経験を自分の未来に役立てたい、あるいは、旅の影響を受けたことによって未来が変わるかもしれないという期待。そういうものは、どんどん薄まっていく。今は今の楽しみかたがあるわけだが、なにかを失うのはやはり淋しいものだ。

 夜、白夜の空を見上げながら、ホテルのベッドの上で考えごと。
 なにかが起こるたびに(それはたいてい嫌なことなのだけれど)、結局、人はみんな死ぬのだしと、やり過ごしたくなる。
 わたしたちは、いずれ死ぬ。100パーセントだ。すべての死因は生まれてきたことだ、と書かれていたのは哲学者の池田晶子さんではなかったか。
 わたしを知る人間も必ず死ぬ。なにも残りはしない。
 そう思っていた頃もあったけれど、今は、少し違う。出会った人たちの中にもわたしのかけらは残り、わずかでもこの世界に反応しつづけ、原型を留めずとも消えずに伝わっていく。そんなふうに感じる。わたし自身もそういうものだと思う。読んだ本、観た映画、芝居、詩、絵画、たくさんの会話。ぼんやりと影響をうけ、混ざり合い、わたしという人間になっている。わたしは、わたしだけではできあがっていない。かけらは、さらに砕かれ小さくなりつつ、しかし、残りつづけるのではないか。


 この本、フィンランドの観光ガイド的な内容というより、フィンランドという場所で、著者の益田ミリさんが考えたこと、感じたことが多くのページを占めているのです。


 僕は読んでいて、東浩紀さんのこの本のことを思い出しました。


fujipon.hatenadiary.com


 そして、僕がまだ20代前半のとき、はじめてのひとり旅で北陸に行ったときの記憶が蘇ってきたのです。

 ひとり旅をやっていると、「自分って、こんなこともできないのか」と落ち込むこともあれば、「自分でやらなくてはならない状況なら、意外といろんなことができるのだな」と自信がつくこともあったんですよ。
 僕はふだんの生活で、見ず知らずの人といきなり会話をすることは仕事以外ではありえないのだけれど、このときは、なんだか普通に出会った人と世間話をしている自分に驚いていたのです。

 「フィンランドって、あんまり見るところはなさそうなのに、なんで3回も行ったのだろう」と最初は思っていたのですが、むしろ、「あまりあわただしく観光をする必要もない『異国』で、ひとりだからこそ、自分の内面を見つめる旅ができるのだ」ということなのでしょう。
 
 益田さんは年齢的にも僕と近いので、死生観、などに関しては、「みんな、こういうことを考えるようになる年齢なのかなあ」とも感じましたし。

 ヘルシンキのスーパーマーケットにはレジの人のための椅子があった。みな、座ってレジに向かっている。椅子はあるが、立って仕事をしている人もいた。それぞれ楽な体勢を選択できるようだった。
 そもそも座ってレジを打つことになんの問題もないのである。
 たとえば、日本に観光に来たフィンランドの団体ツアー。添乗員は、バスの中でどんな説明をするのだろうかと考える。

「はい、みなさん、飛行機の長旅おつかれさまでした。はい、今日から日本観光が始まります。いくつかね、注意点を申し上げます。日本のほとんどのトイレにはウォシュレットがついておりますが、さらに女子トイレには、流水音のボタンもあります。排泄音を聞かれないようにするためです。押していただければと思います。はい、あとは、日本のスーパーのレジには椅子はございません。それから日本では横断歩道があっても信号がなければ車はなかなか停車しませんのでくれぐれもお気をつけください」


 サービスをする側が、きつい状態を我慢するのが礼儀なのだ、というのは、あらためて考えてみればおかしな話ですよね。ラクにできるところは、ラクにしてもらったほうが、お互いにとって気分も良いはず。日本も、以前に比べたら、「根拠のない我慢の美化」は改善されてきているとは思うのですが……


 正直、益田ミリさんの大ファン、という人、あるいは、「フィンランドの美味しいシナモンロールの店を知りたい」という人にしか、クリーンヒットしない旅行エッセイのような気はしますが、読んでいると、僕もひさしぶりにひとり旅に出たくなりました。別にフィンランドじゃなくてもいいから。
 でも、フィンランドって、たしかに、考えごとをするのに向いていそうな国ではありますね。


永遠のおでかけ(毎日文庫) (毎日文庫 ま 1-1)

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今日の人生2 世界がどんなに変わっても

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