- 作者: 三谷幸喜
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/04/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る
内容(「BOOK」データベースより)
愛犬が逝った冬、そして、家族が増えた夏。脚本家の日々は、激動が続く…。巻末には、「とび」との思い出を綴った特別書き下ろしエッセイを収録。
三谷幸喜さんの『ありふれた生活』の単行本も、もう12巻め。
長年のパートナーだった奥様との離婚で、「第一部の終わりと、第二部の開幕」と言われていたのが前作、11巻だったのですが、この12巻も「別離」の巻になってしまいました。
三谷さんの「大切なパートナー」である、愛犬・とび。
別れた相手が人間であれば、相手の立場もあるので、良い事も悪い事も、「どうしても書けない、書いてはいけない部分」があるのだと思います。
三谷幸喜という脚本家の美学というか「羞恥心」からすれば、なおさら。
この『ありふれた生活』では、けっこう自虐ネタを繰り出すこともある三谷さんですが、作品では、極力観客に「三谷さんのあの経験を元にしているんだな」と思わせないようにしているようにみえます。
しかしながら、とびは、三谷さんにとって、「しゃべれない犬」であるからこそ、「頼りにされるプレッシャーに耐えられるし、三谷さんにとっても、なんでも相談できる存在」だったのかな、と。
僕はとびが淋しくないように、可能な限りそばにいてやろうと思ったし、出来れば「その時」は、しっかりと抱きしめてやるつもりでいた。それは完全に我が子を見送る父親の目線だ。しかし目の前のとびを見て、僕は悟った。僕を見つめるとびの瞳には、怯えも哀しみもなかった。そこにあったのは慈愛の表情。自分がいなくなった後、こいつはちゃんと生きていけるのだろうかと、僕の将来を案ずる「親」の顔。父は、とびの方だったのだ。
不躾ながら、離婚のときでさえ、表には出そうとしなかった(あるいは、出すことができなかった)、三谷幸喜という人の「デリケートな面」が、おさえきれずに溢れ出してくる、そんな文章の数々。
僕も自分が子供の頃飼っていた犬のことを思い出してしまって、涙が出てきて止めることができなくなりました。
この巻の最後に収録されている「家族が増えました」という回の最後で、三谷さんは読者に「新しい犬、プチブラバンソンの兄弟を飼い始めたことを報告されています。
そして、最後の最後に、もうひとつの「報告」が。
そして二つ目のご報告、恥ずかしくて仕方ないおですが、読者の皆さんに最初に知って頂きたいと思い、書きます。先日、婚姻届を提出しました。相手は、以前よりお付き合いしていた丸顔の一般女性。僕に、イヌを飼うように勧めてくれたのが彼女でした。
三谷さんは、2014年6月に父親になる予定であることが伝えられています。
52歳にしての、父親デビュー。
三谷さんの、「とび」への愛情を知ると、三谷さんの奥様への信頼が、この「僕に、イヌを飼うように勧めてくれたのが彼女でした」という一文に込められているように思われます。
文楽の脚本を執筆したときの話や、舞台『おのれナポレオン』を、主演女優の天海祐希さんが急性心筋梗塞で降板することとなり、宮沢りえさんが急遽代役に立ったときのことなど、三谷さんの仕事についても、読みどころ満載です。
天海祐希さんの代役は宮沢りえさんに決まった。一緒に仕事をするのは初めて。劇場に駆けつけてくれた宮沢さんを一目見た時、写真集『サンタフェ』を思い出して、こんな非常事態だというのに、ちょっとドキドキしてしまった。
なんていうのを読むと、「ああ、三谷さんのような人気脚本家でも、宮沢りえさんの前では、一瞬、僕と同じ『人間』になってしまうのだなあ」なんて、ちょっと嬉しくなってしまうんですよね。