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内容紹介
『エンディングノート』の砂田麻美監督が贈る
“スタジオジブリ"の真実の物語。
≪ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル≫
砂田麻美監督作品
『夢と狂気の王国』
ジブリのドキュメンタリーと称する作品は数々あったが、
ジブリを題材に映画を作る、そう考えた人はだれもいなかった。
今回、そう目論んだのが、砂田麻美。
2011年、『エンディングノート』で一躍脚光を浴びた若き女性監督が描いた最新作。
本作品は『風立ちぬ』(宮崎駿監督)、『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)の2作品を同時に制作中だったスタジオジブリに約1年にわたり密着した“映画"として2013年11月に全国公開されました。今回が初のブルーレイディスク化となります。
スタジオジブリ、とくに宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサーを追ったドキュメンタリー。
この作品は、こんなナレーションではじまります。
彼の名前は、宮崎駿。
宮崎さんは、朝11時ぴったりにやってきて、夜9時きっかりに鉛筆を置く。
そのペースは毎日絶対に狂わない。
「世界の巨匠」として、レッテルをベタベタと貼った宮崎駿ではなく、70歳を過ぎても、頑に自分の仕事のペースを守る「職人」として、この映画の宮崎監督は登場してきます。
いやしかし、70歳を過ぎて、今の立場になったからこそ、こうして「21時に鉛筆を置く」ことができているのだ、とも考えられますね。
若い頃の仕事っぷりを想像すると、ちょっと恐ろしくなってきます。
冒頭のシーン、スタジオジブリで、話をしている宮崎監督、鈴木プロデューサーを見て、「ああ、こうして動いて、話しているのをみると、なんだかそこらへんにいる元気で頑固なおじいちゃん、って感じだよなあ」と思ってしまいました。
予備知識なしで、この映像だけ観れば、世界的な映画をつくっている人たち、というよりは、趣味のゲートボールの話をしているおじいちゃんたちでも、全然おかしくないな、って。
宮崎駿監督は、朝、ジブリにラジオ体操の音楽が流れると、ぎこちなく体を動かし、座っているときは、ずっとタバコをふかしつづけている。
ところが、そんな宮崎駿という人が、鉛筆を持ち、絵を描き始めると「魔物」になるのです。
あまりにも強く、気高く、そして、矛盾とエネルギーに満ちあふれた「魔物」に。
あのねえ、飛行機の設計家とか、機械を設計するような人は、どんなにそれが善であると思ってやっていても、やっぱり時代のなかで、機械文明そのものの手先になるから、無傷じゃないんですよ。呪われた夢なんですよ。アニメーションもそうです。
宮崎駿は、横顔しか見せずに、砂田さんにこう語ります。独語のように。
どこまでが砂田監督の狙いなのかはわからないのですが、ジブリ内のあちこちにある「NO 原発」というキャッチフレーズが目に入るたびに、僕はちょっと可笑しくなってしまうのです。
だって、ジブリと苦楽をともにしてきた日本テレビは、読売新聞社系であり、戦後の日本の原子力政策を推進してきたキーパーソンのひとりは、読売新聞の正力松太郎さんだったのだから。
もちろん、正力さんは「それが日本のため」だと思ってやっていたのだろうとは思いますが……
「原発反対」を強く訴えつづけているスタジオジブリなのに、仕事の面では、「原発のパトロンの一族郎党」と大の仲良しなわけです。
読売新聞関係は、みんな原発推進!と決めつけるのも乱暴なのかもしれませんが、新聞とテレビという同じメディア業ではありますし、この二者に関しては「まったく関係ない」とは言えないでしょう。
でも、宮崎駿は、日本テレビに「仁義」を通しつづけているのです。
「ジブリの映画は、日本テレビでしか放映しない」
ただ、「これは呪われた夢なんだ」と言いながら、「最高の呪われた夢」をつくるために一心不乱に鉛筆を動かしている宮崎駿という人は、とても魅力的なのですよね。
なんでこんなに矛盾だらけなのに、嫌いになれないのだろう。
いやむしろ、その矛盾にこそ、引きずり込まれていくような気がしてくるのです。
鈴木敏夫プロデューサーと庵野秀明監督は、宮崎駿監督のことを、こう評しています。
鈴木敏夫「(宮崎駿は)人のエネルギーを、自分のエネルギーに替える天才なのよ」
庵野「あらゆるスタッフは、みんな下駄だと思ってる」
まるで、スタッフの「やる気」や「希望」を吸い上げて、永遠の若さを保っている妖怪みたいです。
いや、その表現も、当たらずとも遠からず、なのかもしれません。
上映時間の半分を過ぎたあたりで、鈴木敏夫プロデューサーのこんな言葉が出てきます。
無茶を要求する人なんですよ。要するに、本物の零戦がどう飛んでいたか、じゃないのよ。
こんなふうに零戦が飛んでたらいいなあ、っていうのが、自分のなかのイメージとしてあるわけ。
これをさあ、第三者が、誰が描ける? 描けないでしょ。 そういう問題なのよ。
自分がイメージした、ある零戦。それが美しく飛ぶっていうのは、どういうことなんだろう? っていうのがあるわけよ。
そうしたら、その基準でいったら、誰が描いたって、ね、首を縦に振れないよね。
宮さんって、そういう理想主義があるんだよ。おもしろい人だよねえ。
自分で描きゃいいじゃん。
それがまたねえ、自分は、幻想があるの。
「若き日のオレだったら、描けたんじゃないか」って。
でもねえ、俺にはそれって若き日もおんなじなんじゃないかなあ、って気もしてんのよ。
とにかく、理想を求めるのあの人って。理想主義なのよ、すごいよねえ。
この期に及んでそうなのか、っていう。
ああ、「宮崎駿のもとで作品をつくる」というのは、「宮崎駿の頭のなかにある理想に近づけることを常に要求されること」なのだなあ。
そもそも、他人の頭の中なんて、わかんないじゃないですか。
しかもそれは、あの宮崎駿本人にとっても「若い頃なら自分には描けたんじゃないか」という「幻想の姿」を追いかけることなのです。
やる前から、不可能なことはわかっているはず。
宮崎駿監督本人ですら、「自分にもできないことが、お前らにできるものか」と内心思いつつ、スタッフに描かせているわけです。
なんて、残酷なんだろう。
でも、「民主的に、多数決でつくるようなアニメーション」って、たぶん、つまんないんですよね。
残念ながら、長篇アニメ映画というのは、ひとりの力でできるものではないのです。
宮崎駿という人は、それが可能であれば、「ひとりで作りたい人」なのではないか、とも思います。
でも、そうやって完成度を上げることにこだわりすぎると、高畑勲監督のように「作品がずっと完成しない人」になってしまう。
高畑勲という人は、宮崎駿にとって、「理想」「憧れ」であるのと同時に、もっとも身近な「反面教師」なんだろうな、って。
高畑勲がふたりいたら、ジブリはあっという間に倒産してしまうでしょう。
宮崎駿監督は、もっと理想を突き詰めたいのだけれども、そうすると作品は完成せず、多くの人が路頭に迷うことを知っている。
そのくらいのバランス感覚は持っている人なのです。
でも、その「バランス感覚」っていうのを、自分はもどかしくも感じている。
宮崎駿監督は、自分がやりたくてできないことを、高畑勲監督に「やってもらっている」のかもしれません。
この作品のなかには『風立ちぬ』の堀越次郎役に庵野監督が決まったときの様子も収録されているのですが、「照れてるとかじゃなくて、頭が良すぎるから、余計なことを言わなくなってしまっている、そんな感じ」という会話としばしの沈黙があって、いきなり「庵野どう?」と宮崎監督が提案するのです。
そして、鈴木プロデューサーが電話してみると、けっこうあっさりと「オーディション受けてくれるって」とのこと。
ええっ、声優としては素人なのに、こんなに簡単に「ジブリ作品の主役のオファー」とか、受けちゃっていいの?と驚いてしまいました。
同じクリエイターとして、宮崎・鈴木両氏の「嗅覚」を信頼しているのか、頼まれたら断れない大先輩なのか、どうせ落ちるだろう、と思っていたのか。
でも、オーディションで、「こんな感じでいいですか?」とか相談していたので、「本気」だったのだよなあ、やっぱり。
「天才」のあいだには、凡人にはわからない、テレパシーみたいなものがあるのではなかろうか。
これまでの「宮崎駿監督や、スタジオジブリに関するドキュメンタリー」は「ジブリのアニメの制作現場はこんなに凄い!」という技術的な面が紹介されたり、宮崎監督の「理想」を大きく採り上げたものばかりでした。
ところが、この『夢と幻想の王国』は、「宮崎駿というのは、こんなに頑固なヘビースモーカーで、矛盾に満ちあふれた暴君なのだ」ということ、そして、「でも、だからこそ、ジブリの作品は『美しい』のだ」ということを描いているのです。
観ていると、本当に「はあ〜」って溜息が出てしまいます。
確かに、アニメーションは、ジブリは「呪われている」。
だからこそ、そこには「夢」がある。
なんだか地味に劇場公開され、DVD化されてもそんなに話題になっていないようなのですが、これほど「めんどくさい人・宮崎駿」の実像に迫ったドキュメンタリーは、最初で最後かもしれませんよ。
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