- 作者: 中村竜太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/09/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ (文春e-book)
- 作者: 中村竜太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/10/07
- メディア: Kindle版
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内容紹介
「シャブ&飛鳥スクープの舞台裏」「高倉健に養女がいた」「殺人事件の目撃者を探せ!」「歌姫・宇多田ヒカルの素顔」……衝撃のスクープはこうして生まれた!端緒の情報、極秘取材、当事者直撃、徹夜の原稿執筆――。「週刊文春」のエース記者として20年間最前線で活躍してきた著者が、その舞台裏を赤裸々に明かした。これがリアルな週刊誌の現場だ!
「シャブ&飛鳥」!
あらためて、ひどい見出しだなあ、とは思うのですが、インパクトは抜群ですよね。
それにしても、みんなの前で覚せい剤を使っているわけでもないのに、どうやってこんなことを調べて、記事にしているのか……
良くも悪くも、いまの週刊誌界を牽引している『週刊文春』のエース記者が、その内実をこの本のなかで公開しています。
週刊誌の記事には、憶測で書かれたり、「ある関係者」って、誰だよ……みたいなものもあるのですが、この本を読んだかぎりでは、著者の中村竜太郎さんは、綿密かつ地道な取材を重ねて、スクープをものにしているのだな、ということが伝わってきます。
情報提供者には、裏社会の人や内部告発者などもいて、けっして「きれいごと」だけでやっていける世界ではないし、大スクープをものにしても、ものすごい報酬があるわけではない。
ときには、社会的に大きな批判を浴びながらも、『週刊文春』は、スクープを生み出し続けているのです。
編集部は編集長を頭に数人のデスクがいて、記者を含めた部員の総数はおよそ60人。カメラマンをたばねヴィジュアル面を担当する「グラビア班」、小説やコラムなどの連載記事を担当する「セクション班」、そして政治、経済、社会、スポーツ、芸能、皇室などニュース全般を扱う「特集班」があり、私は、そこで約40人が配属されている「特集班」にいた。
正面突き当たりの一番奥に陣取る編集長席を取り囲むように、デスクの机が横一列。その各々に部員の机が縦一列に並ぶ島がある。手前には大人が寝られるほど広い面積の、通称・大テーブルがあり、その日の各社の朝刊・夕刊が無造作に広げられている。その前面には常時つけっぱなしの大画面テレビと、全局の番組を映す小型テレビ十数台。部員はそこで弁当を食べたり、ニュースをネタに雑談に興じている。飲みかけの缶コーヒーや資料が雑多に放置されていて、けしてきれいとは言いがたいが、最も落ち着ける場所だ。
編集長の座る長机の背後、隣接したビルの合間から外光がブラインドを通して差し込んでくる。しかし24時間室内を照らしているのは青白い蛍光灯だ。壁のあちこちに、派手な赤の見出しが踊る中吊り広告がベタベタと貼られていて、なかには完売御礼の告知も、名前を羅列したホワイトボードはそれぞれの行き先が太いマジックで乱暴に書かれ、ほとんどがNR(ノーリターン)。全員が全員、取材現場をせわしなく回っている——。
ある意味、かなり「ブラック」な職場にみえるんですよね。
恨まれることも少なくない。
それでも、この仕事は「面白い」と著者は仰っています。
『シャブ&飛鳥』のスクープに至るまでの経緯が、この本の最初に書かれているのですが、こんなに地道に取材しているのか、と驚かされます。
ASKAさんの薬物についての噂を耳にし、コンサートが急に中止になったことに疑念を抱いた著者は、まず、個人的に他の取材の合間を縫っての下調べをしていきます。
「ASKA? ああ、クスリの話は聞いたことはないけど、ヤクザとはズブズブだっていうよね」
クリーンでスキャンダルとは無縁のASKA。が、調べてみると、”暴力団との親密交際”が浮かび上がった。私はあらゆる人脈をあたって、ASKAの情報を集めた。こちらが期待するような話は聞けず、100人以上空振りが続いたが、収穫は冒頭のような証言だった。
「札幌に拠点を置く福島連合の山本(仮名、以下略)だよ」
ある飲食店経営者が耳打ちしたのは山本という暴力団構成員の名前だった。私は思わず身を乗り出した。
「札幌!? なぜ札幌なんですか?」
「ASKAは福岡出身なんだけれども、自衛官だった父親の転勤で、中学1年から4年間北海道の千歳に住んでいたことがあるそうだ。その時の同級生が山本で、後に札幌で偶然再会して仲良くなったんだ」
「100人以上空振り」って、この取材だけやっているのならともかく、すごい執念ですよね。
そして、こういう「関係者の話」だけで記事にできるわけではなくて、実際に薬物を使用していたときに撮影された(と思われる)ビデオを入手したり、本人、事務所にあたって、事実関係を確認したりするなど、かなり入念なチェックをしてから、記事を世に出しているのです。
こんなに丁寧に裏取りをしているのか、と、正直、意外でした。
「面白ければ、多少やりすぎてもいい」というわけではないんですね。
もちろん、人による、媒体によるのかもしれないけれど、『週刊文春』のスクープが話題になるのは、「しっかり取材していて、信憑性が高いから」でもあるんですね。
この本を読んでいて、「何それ?」と思ったのは、NHKのプロデューサーの横領事件のスクープについての話でした。
NHKといえば、信頼できるメディアだというイメージを僕は持っていたのですが、著者の取材は、NHKの隠蔽体質をえぐり出していきます。
事件発覚後NHKでは、徹底的な内部調査ではなく、本末転倒の犯人捜しが行なわれていた。私たちが接触を試みたNHK職員・関係者は疑いをかけられ、濡れ衣にもかかわらず事情聴取を受けた人も多かった。海老沢会長派の幹部が「今後、組織を守るための最重要課題は、密告者の洗い出しだ」と号令し、犯人捜しは全国規模に及んだ。I氏を知る人間は一人ずつ個室に呼び出され、「しゃべったのは誰だ? この話は前から知っていたのか」などと執拗に尋問され、週刊文春の記事に出ていた匿名のコメントを指さし、「『局員A』は誰だ? じゃあ『B』は? 『C』や『D』に心当たりはあるか? お前じゃないのか」と詰問される人もいた。なかにはノイローゼになる職員もいたという。
内部の不正を告発すると、その告発した「犯人さがし」が行なわれ、組織の和を乱したものとして、報復人事が行なわれていたNHK。
そんなところで、まともな「報道」なんて、できるわけがありません。
そういう「自浄作用」が失われたところに斬り込むのも『週刊文春』の役割なのです。
「センテンススプリング!」とかの芸能スクープのインパクトが強い『文春』なのですが、数少ない「権力者に挑戦するメディア」でもあるんですよね。