- 作者: 殿村美樹
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/01/15
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 殿村美樹
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
「うどん県」や「ひこにゃん」など数々の地方PRを成功に導いてきた“国民的ブームの仕掛け人”が、自身がこれまでに手掛けた事例を挙げ、独自のノウハウを公開。予算も実績もないブランドや商品を、社会的な「ブーム」や「文化」に導いていくプロセスを詳細に解説する。時代の読み方、消費者が共感するメッセージの発信方法、低予算で最大効果を狙う戦略など、PR業界のみならず、すべての働く人々に役立つ、具体的かつ実践的な“人を動かす”技術を明らかにする。
「うどん県」や「ひこにゃん」の仕掛け人が「PRのノウハウ」を紹介した新書です。
ただし、「うどん県」という言葉やネット上で公開されていた動画や「ひこにゃん」というキャラクターをつくったのは、著者の殿村美樹さんではありません。
なんだ、この人があれを作ったのではないのか、と僕は最初、思ったんですよ。
でも、あらためて考えてみると、これらがいかにすぐれたアイデアやキャラクターでも、殿村さんがそれをうまく世の中にアピールしなければ、「成功」しなかったんですよね。
すぐれたコンテンツをつくる才能とそれを広める能力を併せ持つ人というのは、案外、少ないのかもしれません。
そして、うまくPRできなかったがために、埋もれてしまった可能性というのも、たくさんあるのだろうな、と考えさせられました。
著者は、「PR」について、このように述べています。
「はじめに」でも述べたように、通常、PR業界では、特定の商品(モノやサービス)を広く社会の人に知ってもらうことを最終的に設定し、新聞や雑誌、テレビなどのメディアに取り上げてもらうための企画を練ったり、イベントをおこなったりします。そこまでがPR会社の仕事。商品の名前や存在を知らしめるところまでを請け負い、その効果を売り上げにどう反映されるかは、クライアント次第とされています。
しかし、私はそれでPRが完結したとは思いません。商品の存在を人に伝え、価値を理解してもらうわけではなく、結果として具体的な行動を起こしてもらう。それもできるだけ長くその行動を続けてもらうことがPR業務だと考えています。
「具体的な行動」とは、商品であるモノやサービスを購入してもらうこと、あるいは、その土地に実際に足を運んでもらい、観光してもらうことなどです。そこまで人を動かして、はじめてPRの業務が完結し、目的を達成できるのです。
著者は「PRを通じて、ひとつの文化をつくっていくのが目標」だとしているのです。
逆に、僕はこれを読んで、「PR業界って、売り上げへの効果には責任を持たないのが当たり前なのか」と驚いたのですけど。
この新書のなかで、著者は母親が家出し、学校でいじめにあっていた、という辛い時期に、近所の商店のオバチャンが声をかけてくれ、「ここにいればいいよ」と店番の手伝いをさせてくれたおかげで救われた、という経験を語っておられます。
その経験から、「自分のまわりには敵ばかりがいるわけではない」というのと、ピンチのときにも意外なところに「救いのキーマン」となりうる人がいるのだ、と考えるようになったそうです。
実際に、こんな出来事がありました。
私が「どうしても会いたい」と思うテレビ局のプロデューサーがいたのですが、まったく相手にしてもらえません。電話をしても、局に出向いても会ってもらえず、居留守を使われることもありました。こんなときこそ、社会を具体化して捉えることが求められます。私はプロデューサーを取り巻く環境、テレビ局の人間関係を「見える化」してみました。すると、キーパーソンとして受付の女性スタッフの存在が見えてきたのです。
プロデューサー自身が「大切な人」と考える来客を迎える際、テレビ局の窓口となる受付の対応は非常に重要な意味をもちます。そういった役割を担う女性たちに快適に仕事をしてもらうために、プロデューサーが日ごろから気を遣って接していることは容易に想像できました。そこで、私は彼女たちに四つ葉のクローバーをプレゼントしました。相手との親密な関係を築くための入り口となる「贈りもの」は、高価なものであってはいけません。相手が恐縮するような品物は、逆効果となることもあります。「これ、近所の公園で見つけたから」、そう言って四つ葉のクローバーを渡すと、彼女たちはとてもよろこんでくれて、それから親しく会話できるようになりました。
続いて、いつも同じ場所に座っていなければならない彼女たちの仕事を考えて「おいしい店を見つけたから、一緒にランチしましょう」と誘いました。反応は良好。これも、味はいいけれど高級店ではなく、普通のOLが行く店で、しかもワリカンにします。そうすることで、いわゆる「接待」とは違う効果、親近感が芽生えてくるのです。
さて、その結果はどうなったでしょう。まず、彼女たちからの情報で「プロデューサーに面会しやすい時間帯」を知ることができました。さらに「あの人は、あそこのアップルパイが好物だから、もっていくといい」といった個人的な好みまで教えてもらいました。そして、何よりプロデューサー自身も大切な存在と考える受付の女性たちと親密な関係を築けたことで、それまで取りつく島もなかったプロデューサーの態度が一変したのです。
ああ、こういう「攻略法」って、あるんだよなあ。
「将を射んとすれば、まず馬を射よ」という格言がありますが、こういうふうに周囲の人をうまく巻き込んでいける人って、たしかにいるのです。
受付の人とか、秘書さんとかに気配りができる人。
「本命」とは違う人だから、機嫌を取っても仕方が無い、というのではなくて、「本命」にとって、仕事をしていく上で大事な人を味方につけてしまえば、「本命」もあなたを無下にはできなくなるのです。
著者は上から「買収」したり、「接待」したりするのではなく、対等の関係のなかで、親近感を持ってもらうことを心がけているようです。
つい「歓心を買おう」としてしまう僕にとっては、考えさせられるやり方でした。
ある商品やサービスをつくった人たちというのは、思い入れが強すぎて、あるいは、専門的な知識に慣れ過ぎていて、それを消費する側と感覚が解離してしまうことがあるのです。
著者は、その一例として、こんなエピソードを紹介しています。
三重県の食用油製造会社のPRを担当した際、その会社が新商品として「技術を結集したセラミド飲料」を著者に見せて、「この小さな瓶の中に、3000マイクログラムものセラミドが入っているんですよ!しかも100パーセント純正の、トウモロコシ由来です」と誇らしげに話したそうです。
ところが、著者には、その「セラミド」というのが、ピンとこなかった。
(この新書によると、セラミドというのは脂質の一種で、人間の細胞膜を構成する貴重な物質だそうです)
私は「3000マイクログラム」という表現をやめて、「トウモロコシ10本分のセラミド」と銘打って商品を売り出すことを提案しました。セラミドを資材として購入する企業に向けてのPRであれば「3000マイクログラム」という専門的な表現でもよかったかもしれません。しかし、社名の一般的認知度を高めることが私の使命であり、そのためには平均的国民の感覚で商品をストレートに見ることが必要だったのです。
この提案でセラミドの価値を表現する言葉が決まったあと、会社の方々もその意義に気づいたようで「商品会社との取引がメインだったために業界用語を使うことに慣れてしまっていた。一般消費者に対しても、つい同じ表現で説明しようとしていた」と仰っていました。
こちら側からみれば「セラミドなんて、わからないよ」と言いたくなるのだけれど、ずっとそれを扱っている人たちには、「一般消費者にはわからないということが、わからない」のです。
こういうことって、自分が売る側になった場合には、ありがちなんですよね。
「PR」について書かれた本ではあるのですが、商品やサービスだけではなく、「自分自身をどう周囲にPRするか」について参考になるところも多い新書だと思います。