- 作者: 濱谷晃一
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2015/02/07
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 濱谷晃一
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2016/07/11
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内容(「BOOK」データベースより)
面白いアイディアが湧いてくる!制約があるほど活きてくる!お金なし、才能なし、コネなしでもスゴ腕Pに!アイディア一発・成り上がりメソッド!!テレビ東京の番組が他局から嫉妬されるワケ。
著者の濱谷晃一さんは、テレビ東京ドラマ制作部のプロデューサー。
バラエティ班時代には『ピラメキーノ』の総合演出、オリジナルドラマ『好好!キョンシーガール』のプロデューサーなどを歴任されており、最近の代表的な仕事としては、『俺のダンディズム』『ワーキングデッド』『太鼓持ちの達人』などのドラマがあります。
このタイトルを並べるだけでも、「知っている人は知っている」というか、「ちょっと変わった人なのかなあ」という感じがします。
しかしながら、この本を読んでみると、濱谷さんはけっこう「常識人」っぽい感じがするのです。
他のテレビ東京の名物プロデューサーと比べると、なんですが。
そんな濱谷さんが、なぜこんな個性的な番組をつくるようになったのか?
濱谷さんは、テレビ東京の「特徴」として、こんな話をされています。
テレビ東京には企画のアイディアをとても大切にする文化があります。
社員は皆、他局にはない斬新でテレビ東京らしい企画を考えようという気概がありますし、企画募集には毎回、とてもたくさんのユニークな企画が集まります。
それは、なぜか?
答えは簡単。テレビ東京が予算やビッグネームの出演などに関して他局にビハインドがあるからです。
とはいえ、テレビ東京もおかげさまで最近はゴールデンで豪華な大型特番も編成されるようになり、ビッグネームもけっこう出演してくれるようになりました。でも、低予算のハンディをアイディアで凌駕する”一点突破の企画”に正解を求めるDNAは色濃く残っています。
僕が入社した当時の上司が言っていた話を思い出します。
「予算○○万円と聞いて、他局のプロデューサーが『そんな予算じゃ番組は作れない!』と言ったのに対して、テレビ東京のプロデューサーは『そんなに予算があったら、使い道がわからない』と言った」
冗談半分だと思いますが、実にテレビ東京らしいエピソードだなと思いました。
お金がない、ビッグネームも出てくれない……うーん、それじゃあ、「いい番組」は作れないのでは……と、テレビ東京のスタッフは考えないのです。
むしろ、だからこそ面白いアイディアで「一点突破」することができる、というプラス思考で、この状況を逆利用してしまいます。
たしかに、なんでも「好きなだけお金を使っていいし、好きなタレントさんを出していいよ」と言われたら、案外、とっかかりがないというか、何をやろうかな、と悩んでしまいそうな気もするんですよ。
「好きなことを書いていい」という「自由な作文」が、予想外に書きにくいように。
それに、テレビ東京の場合は「成功」と判断される視聴率のハードルが他の民放よりも低めなので、よりニッチな層を攻められる、という強みもあるのです。
「万人向け」を意識すると、どうしても、無難なものになりがちですし。
最近は、テレビ東京に出演しているタレントさんが、他局より「格下」というイメージは無いんですけどね。
テレビ東京の空気感みたいなものを好んでいる芸人さんも多いのではないかと。
予算30万円で30分番組を作るのは、本当に大変です。でも、若手が独創的な番組をどんどん企画していました。
例えば、2013年の1月に放送された『テレビは○○で出来ている』という番組。野球のネクストバッターズサークルだけを専門に描く職人を取り上げたドキュメンタリー——もちろんそんな職人はいませんからフェイクドキュメンタリーなのですが、面白い作りでした。結局、『○○』には「ウソ」が入るのがオチなんですが。
あと、街中で笑っている人を見かけては、笑っている理由を聞くだけの番組、『今、何で笑ったんですか?』もやっていました。どちらも、オリジナリティ抜群でしたが、50万円という制約が、普通ではない番組作りを促したのだと思います。
僕自身は”若手”と呼びづらい年齢だったので、企画を出すのを遠慮しましたが、「『みんな透明人間!』というドラマなら出演者ゼロだし50万円でも作れるかな?」とか、「『パラパラ漫画GP』なら紙芝居の持ち込みだから作れるかな?」など想像を膨らませていました。制約があれば、それに見合ったアイディアの引き出しが生まれるので、良い刺激になります。
「真面目で面白みがないヤツ」というような扱いを受けていた、と仰る濱谷さんなのですが、この本を読んでいると、テレビ局に入るような人って、やっぱり、アイディアの引き出しが多いなあ、と感心してしまうのです。
「○○がないからダメ」って考えがちなのだけれど、その○○がないというのを逆手にとるのが、テレビ東京流。
『YOUは何しに日本へ?』を、著者は「海外に行かないことで差別化している番組だ」と述べています。
スタッフやタレントが海外に行って「日本人のいいところを教えてください」というようなロケは、他局でも死ぬほどやっていますが、『YOUは……』は成田空港で「なんで日本に来たんですか?」と聞いているわけです。つまり、海外への渡航費用も一切要らない逆転の発想から生まれています。
タレントとクルーを連れて海外に1ヶ月行く予算と、成田空港でスタッフが外国人を捕まえてインタビューする予算では、もう天と地くらいの差があります。でも、それが面白いと思ってもらえるなんて、本当にアイディア次第だなとあらためて思いました。これも逆転の発想の一点突破です。
『モヤモヤさまぁ〜ず2』も、さまぁ〜ずさんと狩野恵理アナウンサーが街を歩くだけの番組です。深夜放送時は僕と同期入社の大江麻理子が担当していました。ゲストを呼ばないという潔さが驚きでした。
ゴールデンタイムに昇格する時に、僕も含めてみんな、さすがにゲストを数人迎えるスタイルになるだろうと思っていました。しかし、フタを開けたら深夜とまったく変わらない3人だけ。見せたいのは、さまぁ〜ずさんが商店街を歩いて、素人をイジッているところだから、ゲストは要らないという明確なスタンスの表れでした。仕掛けがないことが面白いという、まさに制約を逆手に取った企画です。
そぎ落としにそぎ落として、ナレーションですら機械の音声ですから(笑)。100万円当たりの視聴率でいったら、全テレビ番組中1位なのではないでしょうか。
僕はもうあのスタイルに慣れてしまったので、あんまり違和感がないのですが、数多ある「街歩き番組」って、ほぼ、レギュラー出演者+ゲスト、というスタイルですよね。制作側も、いつも同じメンバーだとマンネリ化するのではないか、と危惧しているのでしょう。
ところが『モヤモヤさまぁ〜ず2』は、何年かごとにテレビ東京の女性アナウンサーが交代するだけで、ずっと同じメンバーです。
ずっと観ていると、真面目な女子アナの意外な一面が見えたり、3人の絆みたいなものが深まっていくのが垣間見えたりするんですよね。
これはもちろん、さまぁ〜ずのお二人の「芸」でもあるのですけど。
ファンが多かった大江麻理子さんから、狩野恵理さんに代わったときには、「これでつまらなくなるんだろうな」と思っていたのですが、今となっては、狩野さんがいなくなってしまうのが寂しくてたまりません。
タレントさん、ではなくて、素顔をあまり見ることができないアナウンサーがさまぁ〜ずと絡むからこその「面白さ」みたいなものがあるのだよなあ。
お金がない、豪華ゲストも呼べない。
もちろん、そういう制約のすべてがプラスに働くわけではないのでしょうが、それがテレビ東京を他局と差別化する特徴になっているのも事実なのです。
この新書の後半には、テレビ東京のクリエイターたちと著者との対談が掲載されています。
そのなかで、五箇公貴プロデューサーのこんな話が出てくるのです。
——企画の発想の仕方ってありますか?
五箇:「自分の興味のあるもの」と「世の中になくて見たいもの」を掛け合わせることかな。
あとは、自分の本棚を見返す浮かびます。本棚に残している物って、自分の中でどうしても引っかかっている物だから。そういう物に今の自分のフィルターを通していくと企画になりやすいです。あと、人に勧められた本を積極的に読むようにしています。
僕は最近、使えるスペースの制約もあって、電子書籍を選びがちなのですが、こういうのは「紙の本と、本棚」がないとできませんよね。
そうか、こういう「一覧性」は、紙の本のメリットなのだよなあ。
「あれもない、これもない」と、つい、「できない理由」ばかり考えがちの人には、けっこう役に立つのではないかと思います。
発想を転換すれば、「いろんなものが無いことは、武器にもなりうる」のです。