琥珀色の戯言

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【読書感想】中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

中国の都市部の世帯は、持ち家を平均1.5軒持っており、北京市の平均世帯資産は1億3392万円に上る。なぜ、彼らは「お金持ち」になったのか? 本書では急激に豊かになった(たとえば上海市の大卒初任給は30年前の190倍)中国人の資産の増やし方や消費傾向を紹介し、彼らのライフスタイルや価値観の変化を浮き彫りにする。
・「Z世代」といわれる若者は従来の中国人とは異なり、商品の箱の中身を確かめないでモノを買う
・若者が憧れるKOL(キー・オピニオン・リーダー)――「ライブ・コマース」で商品を巧みに紹介する人たち
・ホワイトカラーよりブルーカラーのほうが可処分所得が多い
・農村住民や都市の非就労者が加入する年金の受給額は、月平均125元(約1875円)
・介護に関しては在宅介護が全体の9割を占めており、「子どもが老親の介護を負担するのは当たり前」という従来の考え方は今でも根強い
・コロナ禍の武漢での食生活は……


 いまの中国って、なんだか、日本とあまり変わらない国になってきているのだなあ、と思いながら読みました。
 共産党一党独裁で、言論の自由がなく、人々は貧しくて賄賂が横行している国、というのは、もはや昔の話なのです。
 もちろん、中国でも上海や北京のような大都市と地方、辺境の格差は大きいのでしょうけど、少なくとも中国の都市で生活している人たちのライフスタイルや考え方は、現在の日本の都市生活者たちと、そんなに変わらないのではないかと思います。
 日本と中国に限らず、世界のほとんどの国の都市で暮らしている、それなりに豊かな人たちというのは、似たようなライフスタイルや価値観を持つようになっているのかもしれません。
 むしろ、同じ国のなかでの富裕層と貧困層、大都市と地方のほうが「格差」は大きいのではなかろうか。

 とはいえ、それぞれの国の特性みたいなものもあって、著者は、中国ではこの数十年で不動産が大きく値上がりしていて、人々が不動産投資を重視していることを紹介しています。

 たいていの日本人にとって、不動産は「一生に一度か二度の最も大きな買い物」だ。
 だが、中国人にとっての不動産はそうとは限らない。
 財産や「住居」であるのと同時に「投資」の対象であり、自分の財産をさらに大きく増やしてくれる財テクの「道具」、人生のステップアップに欠かせない「踏み台」といった存在なのだ。
 だから、多くの中国人は不動産の購入に目の色を変えて夢中になるし、自分が住む不動産を購入しても安住せず、また別の不動産を手に入れようとする。
 一般的な日本人は考えてみたこともない発想だと思うが、彼らにとっては、不動産には自分の住居という以上の大きな意味があるため、「不動産を1軒以上持っている」という人が少なくない。
 2020年5月、中国人民銀行が発表した、都市部住民世帯を対象として行った資産状況に関する調査報告によると、都市部住民世帯の住宅保有率はなんと96%に上っていた。
 そのうち1軒の住宅を保有する割合は58.4%、2軒を保有する割合は31%、3軒を保有する割合は10.5%、1世帯平均で1.5軒を保有していることがわかった。
 自分の不動産が値上がりしたら、タイミングを見計らって転売するためだ。そのようにして得た利息によって、中国人の懐は驚くべきスピードで豊かになっていった。
 
 本章のタイトルである「中国人が『お金持ち』になった理由」を二つ挙げるとすれば、その一つ目は、不動産の転売である。

 驚くような額で転売することを可能にした背景には、2000年代、中国が年率10%以上の経済成長を果たし、その後も比較的高い経済成長率を維持してきたこと、そして、不動産価格も、一時期を除いてほぼ右肩上がりで上昇し続けてきたことがある。
 日本は1989年から2019年までの30年間でGDPが1.3倍にしか増えていないが、中国は約30倍に増えた。
 中国国家統計局のデータによると、住宅の販売価格は2000年から2019年までの19年間で、5倍近くに膨れ上がっている。
 上海在住の30代の男性の友人がこんなことを漏らしていた。
「一般的な中国人なら、もし毎月3000元(約4万5000円)くらいでも余裕があるならば、そのまま放ってはおかない。もしすでに1軒不動産を持っている人なら、きっと2軒目を買うことを検討しているはずです」
 近年は「不動産を買わない」という選択をしている若者も増えてきているが、もう少し上の世代なら、そう思うはずだという。
 それはまさしく、彼らの多くが「不動産さえ持っていれば、その価格が上昇し、それが所得を増やすことにつながるはずだ」という「不動産神話」を今も信じているからに他ならない。


 僕の知人の中国から日本に来ている人も、収入は僕とそんなに変わらないはずなのに、不動産を何軒か持っていて、賃貸などで運用していたんですよね。僕はいまの日本は人口が減ってきているし、空き家問題やメンテナンスの費用なども考えると、少なくとも日本で不動産投資をやる気にはならないのですが、この本を読んで、「そういう感覚で、日本でも不動産を買っているのか」と理解できたような気がしたのです。


fujipon.hatenadiary.com
 この本を読むと、いまの日本での不動産投資は、得策ではないと思うのですが、中国の不動産価格の高騰ぶりをみてきていると、日本の不動産はまだまだ安い、買える!という思うみたいです。


中国では、住宅の「実質的な私有」が認められるようになってから40年くらいなのですが、劇的な経済成長を遂げてきた中国では、その期間、不動産価格もずっと右肩上がりだったんですね。バブル崩壊前に株を買っていた日本人のように、「下がることなど想像もしていない」のです。

中国では、投資対象として、都会の不動産は値上がりを続けているのです。
その一方で、「都市戸籍」と「農村戸籍」があり、「農村戸籍」の人は年で不動産を買うのが難しかったり、あまりにも価格が高騰しすぎて、若者は「持ち家」を買うのを諦めたりしている、という弊害も出てきているそうです。

中国もこれからは「一人っ子政策」の影響もあり、人口が激減していくことが予想されており、「不動産神話」も、そんなに遠くない時期に崩壊していくのではないかと思います。

 持ち家神話が崩れ、「家を買うよりも、賃貸で暮らして、自由に使えるお金を増やしたい」という人が増えていく、というのは、まさに日本が辿ってきた道ですよね。

 日本人の多くが「理解不能(困難)」だと思い込んでいた中国は、ものすごいスピードで日本人の経済力、経済観念に追いついてきて、そして、日本に起こった高度経済成長やバブルを経験しているのです。日本よりも、ずっと短い期間で。そして、これからは、それなりに豊かな停滞と、高齢化社会への対応を求められることになるのでしょう。
 成長のスピードが速かっただけに、日本のような社会保障制度が整備される期間が無かったことは、不安要素ではあります。


 著者は、インターネットの影響と経済成長によって、中国の若者たちの「お金の使い方」と同時に「人との接し方」が大きく変わったことを指摘しています。

 『中国トレンドExpress』の森下智史編集長は、中国のZ世代(1995年以降生まれの「生まれたときからインターネットがあった」世代の変化について著者とこんなやりとりをしています。

 森下氏が驚いたのは「中身を見ないで購入するという、これまでの中国人には決して見られなかった傾向がこの世代にはあること」だ。
 その一つが「盲盒(マンフー)」を買うこと。「盲盒」とは中国語で、ブラインドボックスと訳されることが多い。日本では「箱入りのガチャガチャのようなもの」を説明するとわかりやすいだろう。中に何が入っているかわからない「お楽しみ箱」で、価格は20元(約300円)~100元(約1500円)くらい。購入して箱を開けなければ中身はわからない。
 箱に入っているのは特定キャラクターに複数のデザインの商品があるシリーズ物が多く、どんなデザインかはわからない。自分が好きなデザインではなかったり、持っているものと重複する可能性もあるが、それでも彼らは購入することをためらわないそうだ。
 そのため、転売することもあるが、そもそも、自分の求めるものと異なるかもしれないオモチャを躊躇なく買う、という行動に、私も驚かされた。
 なぜ驚いたのかというと、かつての中国人ならば、自分がバカを見るかもしれない(騙されるかもしれない)商品は決して買わないし、そのような行動は絶対に取らないからだ。

 思い出したのは、わずか5年前のこと。「爆買い」ブームといわれた2015年、東京・秋葉原の家電量販店の店内で、箱に入った新品の電気炊飯器を前にして、大勢の中国人が何か大声でしゃべっているところに偶然通りかかった。
「この炊飯器にちょっと水とコメを入れて炊いてみてくれ。不良品かどうか確かめたいんだ。確かめてからでなければ、いくら日本製でも買わないよ」
「おお、そうだ。そうしてくれ」
 炊飯器売り場には箱に入った新品の電気炊飯器が何個も積み上げられていたが、中国人観光客は、封がしてある箱を一つひとつ開けて、このように叫んでいた。
 箱のなかに”ホンモノ”の炊飯器がちゃんと入っているか、それが実際に使い物になるのかどうか、買う前に確かめたいと訴えていたのだ。
 日本人の店員は困り果て、通訳に「大丈夫ですから」「これは商品です。この場でおコメを炊くことはできません」と一生懸命説明していた。
 しかし、中国人にとっては、たとえ店先だろうが、どこだろうが、そうした行動を取るのは「当たり前」のことだった。
 中国国内でも同じようにして商品を自分の目で確かめてきたからだ。そうでなければ、中国では店員に騙されてしまう可能性が十分あるし、ニセモノが売られているかもしれない。買った炊飯器が1日で壊れてしまったら大変だ。


 お互いをなかなか信用できない、自分の身は自分で守るしかない、という社会だった中国は、インターネットの発展・普及によって、劇的に変化していったのです。
 相手の「信用」は、ネット上でスコアとして可視化されるようになり、買い物でのトラブルは、「アリペイ」などの電子決済サービスを利用することによって激減しました。何か問題が生じれば、相手と直接交渉することなく、アリペイに訴えればいいのです。
 日本や欧米からは「監視社会」として危険視されがちな中国なのですが、この本を読むと、中国人の多くは「相互監視システムのおかげで、相手が信じられるかどうか考えるコストとリスクが劇的に少なくなった」と感じているようです。巨大ネット企業やSNSのおかげで、中国人は、他人を信用するハードルを下げることができたのです。

 この本を読むと、中国という国は、そこで暮らす人たちにとっては、本当に豊かで成長を実感できる国になったのだな、と思いますし、これからの世代では、日本と中国の人たちの壁みたいなものは、自然になくなっていくのではないか、という気がします。


さいはての中国(小学館新書)

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