- 作者: 中村淳彦
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/10/13
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 中村淳彦
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/12/07
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
「風俗をやって本当によかった」彼女たちが異口同音に語る理由。大学がレジャーランドだったのは遠い昔。親は貧困に転落し、ブラックバイトも増加。人生に重い足かせをはめる奨学金の存在…。資格をとりたい、留学したいといった「向上心ある学生」ほど、身体を売らざるをえない現状をリポート。ここまできたニッポンの現実。
2010年に『ルポ 貧困大国アメリカ II』(堤未果著・岩波新書)で、学資ローンに苦しむアメリカの若者たちの話を読みました。
大学にくらい行かないと、「マックジョブ」とバカにされるような、単純労働にしか就けないから……と、学資を借りて大学に通ったものの、大学を出ても稼げるような仕事もなく、ギリギリの生活のなか、学資ローンの返済に追われ……なかには、学費を稼ぐために軍に入隊し、イラクに派遣された若者もいます。
僕はそれを読んで、「アメリカって酷いな、勉強したい学生を借金漬けにして、戦場に送り込むなんて」と憤ったのです。
そして、日本もいろいろ大変だけど、まだアメリカよりはずっとマシだな、と。
……あんまりマシじゃなかったよ。
現時点では、経済的に追い込まれて戦場に行くことはないけれど、大学の学費がどんどん上がり、世帯収入が減っていく(しかも、離婚も増えていて片親の家庭も多い)日本でも、「若者の貧困化」は進行しています。
この『女子大生風俗嬢』を読むと、日本の若者の現状に絶望せざるをえない。
そして、「良い時代に大学生だった」僕が、いまも自分の時代と同じようなものだと思いこんでいた、ということに、いたたまれなくなってしまうのです。
「若いんだから、苦労しても良いじゃないか」「最近の若者は甘えている」
少なくとも、お金に関しては、そんな精神論で語れる状況ではなくなっています。
(著者が取材した関係者の話)
「女子大生風俗嬢は昔からいたけど、特に増えたのは2008年の世界不況以降だろうね。あの時期を境にして、風俗店はお客さんが激減して、経営が本当に厳しくなった。求人サイトからは働きたいっていう女の子たちがたくさんくる。もう、明らかに供給過剰になっている。そうなるとこっちが女の子の採用を選べる立場になる。いまや風俗は誰でもできる職業じゃなくて、希望者の半分くらいは断られているかな。昔と違って風俗嬢になるために競争が起こっているから、付加価値のある有名大学の女子大生は採用されやすい。だから単価の高いAV女優とか、高級ソープとか高級デリ(デリバリーヘルス)は、有名大学の現役女子学生が本当に増えたんじゃないかな。でもね、ほとんどの風俗嬢は、そんなに稼げてないよ。収入は15年前の半分くらい。それと、今の女の子たちは昔みたいに遊ぶためじゃなくて、生活するため、学費を払うために、自分の意志でカラダを売っている」
大学や短大、高専を中途退学した人の中退理由の1位は「経済的理由」(2014年文科省調べ)だった。学費が払えないで退学する学生は、退学者全体の約2割を占める。また、東京私大教連の調査では、親元を離れて通う首都圏の私立大学生の1日あたりの生活費はじつに897円だ。900円を割ったのは調査開始以降初となった。1990年には2500円に届く金額だったのが、なんと6割以上も下落している。
大学生の経済的貧困は、データをみても明らかなのだ。
学生は勉強が本分、とはいうけれど、首都圏で生活費が1日900円以下、というのは本当に「食べていくので精一杯」というレベルですよね。
バブル期に比べると(あれはあれで異常な時代ではあったけれど)、3分の1くらいにまで下がっているのです。
不況で親からの仕送りが減り、アルバイトで稼ごうとしても、「普通のアルバイト」は時給が安く、拘束時間が長い「ブラックバイト」も蔓延している。
多くの学生が、睡眠時間を削って学費と生活費を稼ごうとしているけれども、それでも足りなかったり、身体をこわしてしまったり。
「ちゃんと学校に通ったり、勉強したりする時間」を確保するには、余裕のある家に生まれるか、効率よく稼ぐために「カラダを売る」しかない。
「いや、そんなことないはずだ、いまの若者は、モラルに欠けている」
そう思う人は、ぜひ、この新書を読んでみていただきたい。
山田さん(仮名)が通う明治学院大学のキャンパスは横浜市戸塚区にある。実家は同じ神奈川県内にあり、電車通学をした。高校の卒業式が終わってすぐ、近隣の飲食店でアルバイトを始めた。奨学金が月々10万円、その他に5万〜8万円くらいをアルバイトで稼げば、学生生活の4年間はなんとかなるだろうという計算だった。
「地元の蕎麦屋さんでアルバイトをしました。時給900円くらいだったかな。学校が終わった後、夕方からシフトに入れてもらうんです。大学1、2年生ってかなり授業が詰まっていて忙しい。家に帰れるのは毎日19時くらいだから、そこから店に行ってバイトしても、1日3〜4時間くらいしか働けない。全然お金にならなくて、結局月に3万円くらいしか稼げませんでした。
大学には同じ高校の子もいたし、それなりに友達はできたけれど、1年生のときは全然友達と遊んでません。まずお金がないし、授業とバイトの繰り返しで時間もない。明学大の女の子たちって裕福な家の子供が多くて、優雅です。横浜でランチとか夕ご飯とか、飲みに行くとかいろいろあるけど、終電があるとか適当なことを言ってほとんど行かなかった。学費を貯めなきゃならないから、お金は全然使えなくて、今日は財布に2000円くらいあるってときに『スタバかマックだったらいいよ』って。だから、たまにファーストフードに行くくらい。お金持ちばかりの女の子たちの中で、奨学金で借金しながらアルバイトをして、いつもお金がギリギリみたいなのは惨めでした」
(中略)
「はじめの頃は(デリヘルに)出勤すれば3万円と、プラス何千円かをもらった。3万円全部貯金にまわして、残りの数千円が自分の遊ぶお金、飲み代みたいな意識でいた。毎日毎日3万円だからお金はどんどん貯まって、1か月くらいで当初の目的だった30万円は超えました。私費留学の夢はかないました。だけど、全然風俗を辞める気が起こらなかったんです。
大学の友達と飲みに行ったり、ご飯食べに行くにも、オシャレなカフェに行くにも、実家が遠いので交通費がかかります。横浜までは定期で出られても、東京まで行くのには余計にかかるので、風俗で稼げるのはありがたかった。海外留学にこそ行くことができたけど、その後またお金がない生活に戻ったら、友達との付き合いもできなくなるし、風俗を始めてからやっと普通の学生みたいになれたんです。仕事も苦痛どころか、それなりに楽しいし、だから、辞める気がまったく起きなかったんです」
昔から中高年層を中心に、風俗で働く女性を”かわいそうな人”として同情や蔑視をする人は多い。そこには根深い思い込みがある。風俗で働く女性には深い理由や事情があり、お金のために唇を噛みしめながら性的サービスをしているのだろうと思っている節がある。しかし、現実は異なる。
(中略)
「高校卒業してから親には1円も出してもらってないので……やっぱり、わざわざ月3万円しか稼げない蕎麦屋のバイトに戻る理由はないですよね?」
性病への感染のリスクがあるとか、知らない異性の前で裸になるという行為そのものが、安全とは言いがたいとか、金銭感覚が狂うとか、ずっと続けられる仕事じゃないとか、「やめたほうがいい理由」をいくつか思い浮かべることはできます。
この新書のなかに出てくる女性のなかにも、ストレスからホストクラブ通いをしたり、買い物依存症になったり、手に職をつけないまま年を重ねてしまって40歳を超えて行き詰まってしまったりと、さまざまな「反動」が出ている人がいるのです。
いまの日本の社会では、風俗で働いていた経験がある、というのは、色眼鏡でみられがちでしょうし。
もしかしたら、皇室にでも入ろうとしないかぎり、誰も気にしないというか、そんなの当たり前の世の中になってしまっているのかもしれませんが。
「目の前の貧困」から、風俗で働くことによって逃れることができた山田さんの選択を、間違っていたとは言いがたい。大学に行かずに働く、という選択もあるのだろうけど、彼女は、勉強したかった。
家から通っていて、しかも、明治学院という名門大学の学生でさえ、こんな状況なのか……
こんな学生ばかりじゃないだろ、これは特別な例だろ、と思われるかもしれませんが、1日の生活費900円以下って、しかもそれが「平均」っていうのは、こういうギリギリのところにいる学生が大勢いるってことなんですよね。
ブラックバイトで学費と生活費を稼ぐ代わりに、大学に通えなくなったり、勉強することができなくなったりするのと、風俗で効率的に稼いで、それ以外の時間はキャンパスライフ(ほとんど死語)を謳歌するのと、どちらが良いのか?
「もともと家が裕福」でなければ、そのいずれかを選ばなければならないとしたら?
ちなみに、女性に比べれば少数ですが「性を売って」大学に通っている男子学生もいるそうです。
また、沖縄の貧困の現実についても採りあげられています。
沖縄の「Fランク私立大学3年」の女子学生は、こう語っています。
「高校は県の給付型の奨学金で行きました。中学のときは成績よくて、母子家庭が条件の試験に受かって奨学金をもらっていました。大学は学費が年間80万円くらいで、基本的に毎月の奨学金です。月8万円を借りています。それ以外はバイトで稼いで、どうしても足りないときは親から借りたりしています。親が一切払ってくれないわけじゃないけど、できるだけ自分で払いたいって思っています。親に負担をかけたくないし、大学に行かせてもらって、お金がかかりすぎて家計が圧迫されたり、親が使うお金が制限されたら申し訳ないから」
(中略)
奨学金8万円にアルバイトで5万円、月13万円の収入をやりくりして年間90万円の学費を支払っている。
「みんなどこかに遊びに行っても、なにも買わないし、食べないし、飲まない。だって、お金が払えないから。洋服とかも全部おさがりで、自分の洋服を買ったことはないです。そこにお金をかけられないので。この靴もバッグも全部、近所の人とか友達からまわしてもらっています。学校でもお金は使えません。お弁当を作れなかったら、一日なにも食べないですね。一日なにも食べなくて、水だけ飲んで家に帰って夕ご飯を食べます。
一切、消費をしないことで学生生活を過ごしている。最近、なにかにお金を使ったのは120円のボールペンだけ。そこまで徹底しても教科書や交通費、ボランティア活動などにお金がかかるのでギリギリだという。
学生たちにとって「経済的な負担を減らす」と思いこんでいた「奨学金」の現実にも、僕は打ちのめされました。
ところで、東京と神奈川、そして沖縄で現役女子学生や女子大生風俗嬢の取材をして、話に必ずといっていいほどでてきたのが日本学生支援機構の”奨学金”という制度だった。
筆者は今回の取材で大学生を取材するまで、”奨学金”とは親の世帯収入が低いという経済的事情を抱えた成績優秀な学生への給付と思っていたが、実態はまったく違うようだ。
2004年、日本育英会が整理・統合されて独立行政法人。日本学生支援機構が誕生している。そこから”奨学金”は変貌した。学費の高騰と同じく、文部科学省や財務省が深くかかわる国の政策である。公的機関であるはずの日本学生支援機構は民間からの資金を導入し、奨学金制度を金融事業として展開した。年利は上限3%、奨学金とは名ばかりで、利子で利益をあげる金融ビジネスとなった。
年利上限3%ともなれば、銀行の株式会社への融資と変わらない。多くの大学生たちと連帯保証人となる親は、金融業者の顧客なのだ。まだ何者でもない高校卒業したばかりの未成年に、多額の負債を負わせるという常識を逸脱した制度が、大学進学率の上昇の波に乗って全国に浸透していたのだ。
将来、なんの職業に就くかわからない高校卒業したばかりの未成年に有利子のお金を貸しつけるのは、どう考えても無謀だ。返済の一時猶予や返済期間延長の仕組みこそあるが、実質上、救済制度はほとんどない。大学卒業後から始まる月々の返済には容赦がなく、3か月延滞をしたら一般の金融業者と同じく、ブラックリストと呼ばれる個人信用情報機関に登録される。そして、債権回収の専門会社からの取り立てが始まる。クレジットカードやサラ金と同じなのだ。
アメリカの「学資ローンが払えなくて借金地獄」という話は、他人事ではないのです。
というか、ひどいなこれ。
それでも、「いわゆるFラン大学」に行くメリットって、本当にあるのだろうか?
みんなが行っていたら、自分だって行きたくはなるよね、それもわかるのだけど。
著者は、「なるべく地元の大学を選択するしかない」と仰っています。
「東京で楽しいキャンパスライフ」というのは、もう、昔の話になってしまったのです。
まさに、都市伝説。
地元志向の、いわゆる「マイルドヤンキー」たちは、むしろ、合理的な選択をしているとも言えます。
イラクへ行くか、風俗で働くか。
実際に働いている人たちの話を読むと、イラクよりはずっと良さそうなのですが(風俗で働くのは楽しい、という人もいますし)、アメリカが「貧困大陸」なら、日本は「貧困列島」みたいです。
著者は「若者はこんなに厳しい状況なのに、いまの年寄りは恵まれている」と述べていますが、そんなこともないみたいですよ。
参考リンク:【読書感想】老後破産:長寿という悪夢(琥珀色の戯言)
若者も高齢者も、みんなが苦しんでいるこの国の、どこに幸せな人がいるのだろうか?
- 作者: NHKスペシャル取材班
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