琥珀色の戯言

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【読書感想】ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~ ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。


 『ビブリア古書堂』シリーズの第1作、『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』が発刊されたのは、2011年3月、いまから6年前、あの震災直後にあたるんですね。
 まだ6年しか経っていなかったのか、と感じた理由には、前作『ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~』が出たのが2014年12月で、2年以上も間隔が空いてしまったから、というのもあるのでしょう。
 このシリーズの人気のおかげで、坂口三千代さんの『クラクラ日記』が再版されたり、古書店という仕事が注目されたりもしました。
『月9』の枠でテレビドラマ化された際には、作品にとっても、栞子さんを演じた剛力彩芽さんにとっても、あまり幸福とはいえない結果になってしまいましたが。
このシリーズのおかげで、「本好きが本のことを書いた本は、売れる」ということが認知されましたし、『ビブリア古書堂』フォロワーの「美(少)女安楽椅子探偵+専門職+ミステリ」という作品が雨後の筍のように乱立しました。
「柳の下のどじょう」をあからさまに狙っているようなのだけれど、それなりに成功しているように見えるシリーズもあるんですよね。
書店で、同じようなイラストが表紙の「ビブリア・チルドレン」を見つけて「今度はこの仕事か!」と苦笑するのは、僕のひそかな愉しみになっています。


 ここで6巻から、(いちおうの)シリーズ最終巻である、この7巻までに2年以上かかってしまったことだけでも、作者の三上延さんが「この物語をどう終わらせるのか」に苦心されたことが伝わってきます。
 2巻は、1巻から半年くらいで出たのに。
 いや、正直なところ、「7巻はもう出ないのではないか」とも思っていたんですよね。
 田中芳樹先生パターン。
 

 内容については、ミステリでもありますし、詳しく紹介するのは避けますが、今回はウィリアム・シェイクスピアの話です。
 シェイクスピアの名前はほとんどの人が知っていると思うのですが、内容をソラで言えるのは『ロミオとジュリエット』と、『ハムレット』の「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」という有名なセリフくらい、という人がほとんどではないでしょうか。
 僕もまあ、そんなものです。
 

 この7巻では、そのシェイクスピアに関する稀少な本、そして、当時の舞台やシェイクスピアの世界観に対する蘊蓄が語られていきます。
 栞子さんと大輔くんの関係については……まあ、ラブコメじゃないからね、と。
 むしろ、そちらの「恋愛」のほうに引きずられずに、最後まで「ビブリオミステリ」であることを優先したことが、このシリーズに爽やかな幕引きをもたらしたのだと思うのです。
 正直、そんなまわりくどい嫌がらせをする人なんて、いるのだろうか?なんて感じてしまうところもありますが、「人間関係濃すぎというか、みんなどこかで繋がりすぎ!」みたいなところはあるのですが、それでも、読み終えて、「これで良かったんじゃないかな」という気分になりました。
 オビに「日本で一番愛されるビブリオミステリ」っていう言葉があるのですけど、「評価されている」とか「驚愕のトリック」とかじゃなくて、「読者に愛されている」のだよなあ、この『ビブリオ古書堂』は。
 3分の1くらいは、越島はぐさんのイラスト力、なのかもしれないけれど。

「関係があるかどうかは分かりませんが、お祖母さまは母に一つ質問したそうです……どうして、自分の家族を捨てたのって」
 十年ぶりに現れた娘にずいぶん切り込んだ質問だが、あのきっぱりとした性格なら不思議はない。光景が目に浮かぶようだった。
「なんて答えたんですか、お母さん」
「今のわたしはわたしではないと気付いたから、だそうです」
「……なんだそれ」


 もう中年になってしまった僕は、これを読みながら、根っからの書痴である栞子さんは、いまの「大輔くんに恋をしている自分」をずっと保って生きていくことができるのだろうか、「今のわたしは、わたしではない」と気付く日だって、来るかもしれない、と思うのです。
 でも、だからこそ、この作品は、この7巻で終わるのが、いちばん良いんじゃないかな。
 この、あまりにヒットし、作者にとってもやりがいとプレッシャーを感じたであろう作品をこうして「ど真ん中」に着地させるということには、迷いもあったはず。
 「ああ、よかった」
 読み終えて、僕はホッとしたのです。


 それでも、人生という舞台は続く。
 良い事も、そうでない事もあるけれど。


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