- 作者: 角居勝彦
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/03/30
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 角居勝彦
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/04/06
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内容(「BOOK」データベースより)
競馬ファンが最も注目している実力派調教師が語り尽くす競馬の真髄―レースそれぞれが持つ意味や戦い方はもちろん、トライアルから未勝利戦まで、競馬に使う側の戦略とレースに向かう準備を詳細に解説。いまだから明かせる愛馬の秘話から調教の工夫、厩舎力のポイント、さらに競馬場でのパドックや返し馬の見方まで、目から鱗が落ちる理論とエピソードが満載。常勝調教師が何を考えているかを知ることで競馬の本質をわきまえた馬券検討が可能になり、より競馬が好きになる競馬通のための一冊。
G1レース23勝、ウオッカ、ヴィクトワールピサ、カネヒキリ、エピファネイア、シーザリオなど数々の名馬を送り出してきた名調教師・角居勝彦さんが『週刊ポスト』に連載している「感性の法則」をまとめたものです。
内容の半分は、中央競馬のG1レースそれぞれについての解説と、角居調教師が出走させてきた馬たちの思い出、あと、中央競馬の主要な重賞レースについてのコラムです。
あと半分くらいは、調教師として、競走馬という生き物の特性や馬はどのように成長していくのか、騎手や厩務員など、競馬サークルの人々それぞれの役割などについて書かれています。
元が週刊誌の連載だったので、角居調教師自身の半生記とか、ある特定の馬についての詳しい話、というわけではありません。
ある程度競馬への予備知識があり、冒頭に挙げた5頭の馬の名前をきいて、そのレースを思い出せるくらいの「競馬ファン」じゃないと、楽しめない内容ではあると思います。
そもそも、競馬ファン以外が手にとる本じゃないのかもしれませんけど。
これを読んで、あらためて思うのは、管理馬のことをよく理解しているはずの調教師でも(しかも、これだけG1レースを勝っている角居さんでも)、競馬では予想外のことが起こりうる、ということなんですよね。
2015年にダートのG1・チャンピオンズC(以前はジャパンカップダート)を勝ったサンビスタについて。
3、4歳時は共に5戦ずつでしたが、5、6歳時は9戦ずつ使うことができました。ダート馬は地味な存在ですが、オープンまでいくような馬は崩れにくい。地方交流だけで11戦5勝2着3回という堂々たる成績でした。クラブ(ユニオン・オーナーズ)の馬で会員さんも多かったので、喜んでもらえたと思います。
しかしさすがに牡馬と走ると分が悪い。5歳時のチャンピオンズカップでは15番人気4着と健闘したものの、6歳時の地方交流かしわ記念では9歳馬ワンダーアキュートに1.8秒も離されました。
だから引退レースとなった6歳時のチャンピオンズカップで勝てたのは、いまでも信じられません。馬はよくなっていたけれど、コパノリッキー、ホッコータルマエなどダートの猛者が勢揃いしていた。
なぜ勝てたのか、いまでも説明できません。それも競馬です。鞍上のミルコ・デムーロに神が降りたのかもしれません。
いや、いくらなんでも、まったく脈が無いレースに使うとは思えないのですが、調教師も「デムーロに神が降りたのかも」なんて言うような結果なんて、予想できるわけないよなあ、と苦笑してしまいました。
あのレースのサンビスタ、展開に恵まれての逃げ切りや無欲の追い込みがハマったとか、実力馬にアクシデントがあったというわけでもなく、本当に正攻法での快勝だったんですよね。前の年に同じレースで4着だったとはいえ、その4着が「できすぎ」だと僕は思い込んでいたのです。
競馬に絶対はない、ですよねやっぱり。
あと、「パドックでの馬の見方」についてのこんな話は参考になりました。
「見てもわからない」という人が多いようです。確かにパドックで「能力」を読み取ることはできません。
が、その日の調子が今ひとつの馬を見分けることはある程度できるはずです。つまり、勝つ馬を見つけ出すのは難しいかもしれませんが、勝てない馬を外すことはできる……。
具体的には、落ち着いて周回できない馬。これは見ていても分かります。騎手の指示にきちんと従わなくては競馬には勝てません。パドックで馬に指示をするのは引いている人間(主に厩務員)。その者の言うことに耳を貸さず興奮している馬は期待できません。
同様に、鳴いたり色気を出したりする馬も集中力を欠いている。馬っ気を出す「私が一番強い!」という主張は幼さの裏返しで、じっと我慢できない証拠です。
パドックで「良く見える」はアテにならないけれど、「これはちょっと難しいな」という馬を外すには役に立つ、ということみたいです。
とりあえず、見ることができる状況にあるのなら、見ておくにこしたことはない。お金がかかっていますしね(まあ、本当にお金がいちばん大事なら、賭けないのが得策ではありますが)。
これを読んでいて興味深かったのは、角居先生は、馬のメンタルをかなり重視している、ということなんですよね。
日本ダービーに勝ち、G1を7つも勝った名牝・ウオッカについて、こんな話をされています。
気を遣ったのは同世代のダイワスカーレットにどのタイミングでぶつけるか。
競争馬は、短期間に同じ相手に3回競り負けるとダメ。「あいつにはかなわない」と自ら順位付けをしてしまう。頭がいい馬ほどそうです。強い3歳馬なら同じレースに出ることも多く、気の弱い馬だと戦意喪失なんてことにもなりかねません。
まだキャリアの浅い馬を強い相手に格上挑戦でぶつけてみたり、ペースをコントロールすることを学ばせるために障害の練習をしてみたり。
これほどの名調教師でも、試行錯誤の連続であり、まだまだ課題だと考えていることもあるのです。
角居厩舎が、1200mのレースには、ほとんど管理馬を出走させない理由も語られています。これも、今後は変わってくるのかもしれませんが。
もともとが週刊誌に連載されていたコラムということもあり、競馬ファンにとっては「隙間時間の軽い読み物」としてちょうど良いのではないかと思います。
強い馬を生み出す調教師・厩舎には、それなりの理由がある。
しかしながら、「勝てる確率を上げること」はできても、「絶対」はないのです。