琥珀色の戯言

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【読書感想】重版未定2 売れる本も編集したいと思っていますの巻 ☆☆☆☆

重版未定 2

重版未定 2


Kindle版もあります。

重版未定 2

重版未定 2

内容紹介
売れない本ばかり出していた編集者の主人公が、ついに本気を出すときが来た!(たぶん)リアル過ぎて弱小書籍出版界の涙を誘った、うわさの赤裸々出版業界漫画、まさかの続編、ついに刊行。


 あの『重版未定』の2巻め。
 
fujipon.hatenadiary.com


 前作では、弱小出版社の悲哀と矜持が描かれていました。
 この2巻も、よりいっそうパワーアップ……というより、パワーアップもダウンもしないまま、このままで良いのだろうかと逡巡しつつも、目の前の作家とゲラに立ち向かう編集者の姿が描かれています。

「100万部のために50万部捨てる商売ならしたくないですよ」


 このセリフには、こんな解説がつけられているのです。

「100万部印刷して取次に卸して書店に並べるようなタイトルは、結局、半分の50万部は断裁しているのだ……と主人公は考えている。「実売50万部のためには100万部刷らないとダメ」と置き換えることも可能」


 機会損失を少なくするには、そのくらいの廃棄ロスを覚悟しなければならないものなのでしょうね。
 ネット時代になって、僕が感じているのは、物事が流行るスピードも、消費されるスピードも、そして、飽きられるスピードも、ネット以前とは比べ物にならないくらい速くなった、ということです。
 本の売上も「とにかく初速が大事」って、言われますし。
 もちろん、例外的に、地道に売れていく本というのもあるのですが。


 僕は同人誌の即売会には参加したことがないのですが(お客として行ったこともないのです)、この本によると、代表的なイベントであるコミティアが発行している「ティアズマガジン」に掲載されているアンケートによると、回答した1017サークルのうち、もっとも多い「販売冊数」は123サークルの「1〜4冊」なのだそうです。
 そんなに売れないものなのか……
 僕はコミックマーケットですぐに完売し、儲かる(らしい)同人誌、というイメージをずっと持っていたので、大部分の同人誌はそんなに売れない、という事実を知って驚きました。
 もちろん、1冊でも売れたら、嬉しいものではあるのだろうけど。
 ちなみに、主人公の編集者は、自身が書いたもので参加するのと同時に、編集者として、著者のスカウト的なこともやっているそうです。
 同人誌やネットの文章を読んでいる編集者というのは、けっこういるのかもしれませんね。
 最近では「ネット発の書籍は売れない」と言われているようなのですけど。
 あと、同人誌即売会の話で、「作品を見たい」と思ったときには、「すみません、見せてもらっていいですか」と声をかけるのがルールだというのを読んで驚きました。
 Twitterの「フォロー外から失礼します」みたいな世界が、すでにここにあったのか……


 あと、取材のコツを尋ねた人が「今の読者は取材する側の意図が出ちゃうとすぐに冷める。そうなったら記事は読まれない……そんなところに気をつけろ」と答えている場面があって、読者はそういう「意図」を読めるようになってきていて、そのことをつくる側も認識しているということがわかります。
 

 装丁の話や、編集者による「代筆」のことにも触れられていて、出版界の現状について考えさせられます。
 最近の有名人の本では、「編集協力」というようなクレジットで、「実際に書いた人」が明かされていることも多いんですよね。
 個人的には、有名人がみんな文章上手とは限らないし、本当に自分で書いていたら、かえって「ナマの声」を世に出すことが(技術的にも)難しいこともありそうなので、編集者や取材者が介在することは、やむをえないと思います。
 その一方で、そういう方法で書かれたものであれば、それを明示してほしいとも考えているのです。
 セールス的には、「○○さんの著書!」ってやったほうが、期待値は高くなるのでしょうけど。


 そんなに躁状態ではない編集者の、静かな本音が読める、数少ない作品だと思います。
 これがバカ売れしたら、作者はどうなるのかな、なんて、ちょっと想像してしまいます。


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