- 作者: 宮田珠己
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2018/06/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
変な生きものを見ていると
実に前向きに陰気になれる。人生の路頭に迷ったら水族館へ行こう。
くつろぎ水族館紀行
日本各地19の水族館と150種以上の海の生きものをオールカラーで紹介!
〔目次〕 無脊椎水族館のすすめ
葛西臨海水族園
新江ノ島水族館
マリンピア日本海、寺泊水族博物館
アクアマリンふくしま
横浜・八景島シーパラダイス
鳥羽水族館
海響館、うみたまご
須磨海浜水族園
越前松島水族館、名古屋港水族館
加茂水族館
アクアワールド大洗
海遊館、京都大学白浜水族館
エビとカニの水族館、串本海中公園
いおワールドかごしま水族館
あとがき
「水族館オヤジ」の一人としては、宮田珠己さんの水族館エッセイを読まないわけにはいきますまい、とか思いつつ手に取りました。
ちなみに、全国19か所の水族館が紹介されているのですが、僕が行ったことがあるのは7か所。出張などの際に、中年男ひとりで入れる観光スポットとして、水族館って本当にありがたいんですよ。夏は涼しいし、冬は温かいし、ひとりでボーッとしていても、あんまり奇異な目でみられないし。
動物園ではいろいろな動物とふれあうことができるが、水族館では一部の海洋ほ乳類をのぞき、基本そんなにふれあえない。タッチプールはあるものの、あれはふれあっているのではなく、触っているだけである。ヒトデやナマコ側にわれわれとふれあおうという気持ちがあるとは思えない。ふれてくれるな、と思ってる可能性のほうが高い気がする。
そう考えていくと、動物園のほうがわれわれに親しい世界であることがわかる。
そのせいだろうか、動物園は園内全体がにぎやかで、そこかしこで会話が飛び交っている。動物とふれあう気持ちがない人間は、そこでは居心地が悪いほどだ。動物を見るやいなや、カワイイー! と叫んでぐいぐい檻に迫っていくぐらいの人間でなければ、不適合というレッテルが貼られそうである。
一方、水族館は、もともと生き物とふれあう機会が少ない。なにしろ彼らはガラスのむこう側にいて、われわれの存在に気づいているのかどうかもはっきりしない。さらに暗い館内は黙って陰気な顔をしていても見えにくく、明るくふるまわなければならないプレッシャーとは無縁な空間になっている。
つまり陽気で社交的でなければ浮いてしまう動物園に対し、陰気で孤独であっても、ありのままになじめる空間だということ。それが、水族館の知られざるもうひとつのいい点である。
この「陰気で孤独であってもなじめる」というのは、本当にありがたい。
ひとりで飲みに行ったり、買い物に出かけるというほど活動的ではないけれど、真っ直ぐホテルに戻って過ごすのもなんだか寂しい。そんなときに「ちょっと水族館や美術館」というのは、とても便利です。美術館だと「芸術に興味がある自分」みたいなのをセルフプロデュースしたいとく欲求で肩が凝ってしまうので、僕には水族館がちょうどいい。
しかしなぜ、「無脊椎動物」(イカやタコ、クラゲ、貝などの背骨がない生き物)なんだろう?という疑問に対して、宮田さんは冒頭でこう述べています。
わたしの見る限り、水族館で何か画期的な事件が起きているとすれば、それは無脊椎動物の水槽においてである。
あの、館内順路の終わりのほうにある、薄暗い廊下に小さな水槽が並んだ驚異のゾーン。世界の秘密はそこにある。
クラゲのたゆまぬ無心な動きや、イカの突然の色の変化、ヒトデのどこか思索的な姿に、ウミウシの美しい色合い、そしてイソギンチャクの不気味なゆらめき。そういった得体の知れない生きものたちの真のいきざまこそが、水族館でもっとも見るべきものだ。
彼らに関して詳しいことは知らない。その生態を深く知ろうとは思わない。それよりもただじっと見ていたい。ただ見て、その変なカタチと動きに呆れ、驚き、そしてときどき、こうつぶやくのである。
わけがわからん。
現実とはわけがわからないもの。それで当然なのだ。わけのわかる現実など、なにほどの魅力があろうか。
正直、僕はそこまで無脊椎動物に惹かれるわけではないのです。
大水槽の端っこのほうを泳いでいる魚とか、熱帯を再現した水槽のピラルクとかを眺めたり、ウツボを見ながら、「濱口さん、よくこんな生きものを食べる気になるなあ」と感心したりすることが多いんですよね。
最近の水族館では、クラゲを幻想的に見せる水槽が多いのだけれど、僕は「どこも似たり寄ったりで、もう飽きてきたな……」と。
この本、徹底的に、「水族館の脊椎動物」をスルーしている、というのが「セールスポイント」でもあるのです。
いつもチラッと一目見て通り過ぎていくような水槽にいる、なんでこんなカタチをした生きものがいるのかわからなくなる、異形の無脊椎動物たちについて、写真やイラストとともに語られています。
ただ、写真に関しては、玉石混合というか、著者が自ら撮影したものであり、綺麗だなあ、面白いなあ、と感じるものもあれば、「この写真のどこにその生きものが写ってるの?」というものもありました。
水槽の中の生きものの写真って、難しい。
ウミシダは一見海藻のようだが、無脊椎動物である。水槽内で主役を張るには少々物足りない見た目であるが、こう見えて泳ぐというから驚きだ。わたしはそれを知って以来、水族館でウミシダに出会ったら、不意に泳ぎださないかどうか常に監視している。
だって、こんな植物みたいなものが泳ぐなんて信じられないではないか。
いったいこんな姿でどうやって泳ぐのかというと、腕を上下にひらめかせて泳ぐのである。
枝を上下にふって、ダンスをするように泳ぐわけだが、それぞれの枝が個別に動くために、実に気持ち悪い。こんな不気味に泳ぐ生きものが他にいるだろうか。まるでかつらが空を飛んでいるかのようだ。といってもかつらが空を飛んでいるのを見たことはないけれど、こんな生きものが地上にいて歩いていたらどう思うだろうか。散歩中の犬も逃げ出すのではないか。
見た目と動きが乖離している生きもの選手権があれば上位入賞は間違いないだろう。
予備知識なしで、いきなりこれが動いているのを海中で見たら、「えっ?」って思いますよね。
宮田さんによると、「海でシュノーケリングしていてもそこらじゅうで見られ、全然珍しくない生きものなのに、泳ぐ姿は一度も見たことがない」そうです。
海の生きものって、陸生生物より、「なんでこんな形をしているんだろう?」と考え込んでしまうものが多い気がします。マンボウの「やりかけ」感あふれる姿をみるたびに、『機動戦士ガンダム』のジオングを思い出すのです。
海の無脊椎動物となると、さらに、わからなくなるものばかり。
順路の最初は、地元の魚の展示から始まった。
日本海なので食卓系の魚が多く、わたしには退屈であったが、そこは想定内である。どんな水族館にも地元の魚の展示はあるものだ。
たまに、こういう魚を見て旨そうという人があるけれど、本当にそんなことを思うのだろうか。あれは実に謎なことだ。
漁師ならいざ知らず、刺身にもなっていない水族館の魚を見て旨そうだと感じるには相当な野生の感覚が必要に思われる。たとえばわたしは牛ステーキも豚カツも焼き鳥も大好きだが、牛や豚や鶏を見ても、全然旨そうに見えないのである。
うちの近所にある牧場では牛がムシャムシャ草を食っているが、それを見ても、この牛本体が食べものだというふうには思わない。同じように、魚ならアジやシャケやノドグロが好きだけれども、ノドグロが泳いでいても、それが食べものだと思えない。それはわたしの野性味の足りなさかもしれないけれども、みんなはどうなのか。本当にノドグロを見て旨そうと思うのか。それは本当にそう思っているわけではなく、ある種の、食い意地がはってる自分という自虐ギャグなのではないか。
とどうでもいいことを考えていると、食卓系の魚が終わり、ミズダコやヒトデが現れたので集中した。
僕もこの宮田さんの意見に賛成というか、なんとなく擬人化してしまうところがあって、目の前にいる人間に「おいしそう」とか言われたら魚もイヤだろうなあ、とかつい考えてしまうのです。
でも、けっこう多いですよね、水槽の魚をみて「おいしそう」って言う人。これを読んで、僕も彼らが本当にそう思っているのかどうか、疑問になってきました。
この本がストライクゾーンにハマる人は、そんなに多くはなさそうです。
僕も「嫌いじゃないけど、わざわざ買って読むほどでもないかな(買ったけど)」という印象でした。
好きな人にとっては、たまらない「水族館本」だとは思うけれども。
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