琥珀色の戯言

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【読書感想】8050問題の深層: 「限界家族」をどう救うか ☆☆☆☆

8050問題の深層: 「限界家族」をどう救うか (NHK出版新書)

8050問題の深層: 「限界家族」をどう救うか (NHK出版新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
長期・高年齢ひきこもり―「8050問題」に大きな注目が集まるいま、長く社会的孤立を研究してきた専門家が、全国規模の調査や支援現場のフィールドワークをもとに問題の本質を明らかにする。同時に、「親子共倒れ」から脱する具体的方策を提言する。すべての現代人が読むべき一冊。


 この本の「はじめに」で、2019年に起こった、2つの事件について書かれています。

 2019年5月28日朝、神奈川県川崎市多摩区登戸駅近くでスクールバスを待つ小学生らに両手に刃物を持った男(50代)が突然襲いかかった。この事件で小学校6年生の女児と、別の児童の見送りに来ていた父親が殺害され、負傷者は18人にのぼった。
 その4日後の6月1日、東京都練馬区に住む父親(70代)が、「運動会の音がうるさい」と暴れはじめた息子(40代)の胸などを包丁で刺し、息子は搬送先の病院で死亡が確認された。父親は、息子による家庭内暴力があったことを明らかにし、ひきこもり傾向にあったこの息子が川崎と同様の事件を起こすことを恐れて殺害に至ったと捜査関係者に話したという。


 著者は、「ひきこもり」状態であることが直接事件につながるわけではないし、川崎の事件のような無差別殺傷事件は、殺人のなかでも極めてまれなケースだ、とも述べています。
 あの事件のあと、ひきこもり支援に携わる団体や行政の相談窓口に、親たちからの相談が急増したそうです。

 内閣府は事件の約2か月前の2019年3月、ひきこもり状態にある40歳以上の人は全国で推計61万人を超えると発表。中高年を対象にした調査はこれが初めてで、ひきこもりの実態が一部明らかになった。


 「ひきこもり」というと、若者のイメージが強いのですが、現在では、中高年層でひきこもり状態にある人の推計数は若年層の数を超えているのです。
 

 これ(2019年3月の内閣府調査)より3年前の調査では、15歳から39歳までのいわゆる若年層ひきこもり状態の人を54.1万人と推計。この調査では、40歳以上は対象外とされているため、「中高年の事例も多いはずだ」「調査対象の年齢をひろげるべきだ」といった声が多く寄せられた。そのため内閣府では対象をひろげた調査を実施。2つの調査結果の合計から、ひきこもり状態にある人は、全国で100万人を超えた。


(中略)


 ひきこもり状態になるきっかけも多様である。いじめや不登校、受験や就職活動での失敗、何十年も会社勤めをしていた人がリストラにあう、夫の転勤で知人のいない地域に移ったことなどがきっかけとなるケースなどもある。そのスタート時期も状態が続く期間もさまざまである。
 39歳までの調査では、ひきこもり状態にある49人のうち、きっけけを「不登校」とする人が18.4%、「職場になじめなかった」が18.4%、「就職活動がうまくいかなかった」が16.3%、「人間関係がうまくいかなかった」が16.3%、「病気」が14.3%だった。


(中略)


 40歳以上の調査では、ひきこもり状態の47人のうち、きっかけを「退職したこと」とする人が36.2%、「人間関係がうまくいかなかったこと」が21.3%、「病気」が21.3%、「職場になじめなかったこと」が19.1%、「就職活動がうまくいかなかったこと」は6.4%である。


(中略)


 また、その人たちがどのくらいの期間ひきこもり状態にあったかは、39歳までの調査では、3~5年の人が28.6%おり、最も多かったのが7年以上の人で34.7%であった。40歳以上の調査では、3~5年という人が21.3%で最も多い。30年以上という人も6.4%いる一方、6か月から1年未満の人も6.4%おり、非常に多様である。


 これらのデータをみていると、人は何らかのきっかけで、年齢にかかわらず、「ひきこもり」になってしまう可能性があるし、一度ひきこもってしまっても、ずっとその状態が続くとは限らない、ということがわかります。
 「過去に広義のひきこもり状態であったと思われる人」は、39歳までの調査で5.1%、40歳以上では4.1%いて、「人生の一時期にひきこもり状態にあった人」は、けっこう大勢いるのです。

 この本のなかで、著者は「ひきこもり」の定義についても、かなり詳しく説明しています。
「ひきこもり」のなかで、「広義のひきこもり」には、「ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する」という「準ひきこもり」が含まれ、「ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」という人や「自室からは出るが、家からはほとんど出ない。または自室からほとんど出ない」というのが「狭義のひきこもり」とされています。

 「ひきこもりかどうかを見極めること自体が、それほど簡単ではない」そうなのです。
 たしかに、「趣味に関する用事のときは外出する人」というのは、傍からは「出不精なのかな」くらいの印象を持たれていることもあるのではなかろうか。
 「ひきこもりという現象だけに注目するのではなく、無職・未婚の子どもと高齢の親が抱える社会的孤立などのかたちで、実態を多角的にとらえていく必要がある」とも述べています。


 「恥ずかしい」とか「他人に迷惑をかけたくない」というような理由で、支援を受けようとしない家族も多く、相談機関に行っても「本人が来ないと始まらない」と言われて途方に暮れ、失望してしまう、という例もあるのです。
 困り果てて相談に行ったのに、相談員から、これまでの子育てを責められたり、精神論を説かれたりすることもあるのだとか。
 ただし、著者によると、「現在40歳以上の人がひきこもりはじめた時期は20年ほど前の1990年代中盤であり、相談窓口でもひきこもりに対する理解が大幅に不足していた」のです。
 支援する側も、経験を積み、対応が変わってきているのも事実なんですよね。
 それでも、一度相談してひどい目にあった人たちは、「また行ってみよう」という気分になるのは難しい。

 40代、50代の未婚の親同居者は、単身世帯に比べて経済的に苦しい人が多い。2015年に公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構がおこなった2083人を対象にした調査によると、年収100万円未満の人は男性25.4%、女性38.5%だという。
 非正規雇用者は男性19.6%、女性34.7%である。無職は男性18.7%、女性20.3%にのぼる。このように、親と子が同居しているとはいえ、子ども世代は経済的に弱い立場に置かれているので、親が衰えたり病気になったりすれば共倒れしかねない。
 このような子ども世代の苦境が大きく表れる層の1つが、現在の40代だ。バブル崩壊の初期に大卒で就職を経験した若者は、そろそろ50歳に手が届く(1991年度に大卒で新卒採用になった人は、2019年にほぼ50歳になっている)。それ以降、2003年ごろまでに就職活動の時期を迎えた世代を「就職氷河期世代」と呼び、およそ現在の30代後半から40代に重なる。この数年間、8050問題やひきこもりの高齢化が問題化してきたのは、こうした世代の動向が大きく影響していると考えられる。


 超高齢になった親を高齢の子どもが介護する「老々介護」というのが珍しくない時代なのですが、「ひきこもっている子どもたち」も次第に高齢化してきているのが実情です。
 そして、「家にひきこもっている子どもがいるから」と、その親が、家に外部から介護者を入れるのを拒む、という事例もみられてきています。

 そんなの「恥ずかしい」なんて思う必要ないのに、と言われても、本人たちは受け入れられない。

 2014年4月、ある老親の死が、娘の逮捕という結果に至った。愛知県名古屋市で母親(76歳)と暮らしていた娘・C(43歳)が、母親が意識不明となったことを誰にも連絡できず、保護責任者遺棄致死罪に問われたのである。母親は脳内出血で意識を失ったが、Cは外部に助けを求めることができなかった。母親は死亡し、Cは逮捕された。
 Cは小学校6年生のとき、周囲に容姿をからかわれて不登校になった。以降30年以上自宅にひきこもり、外出したのは10代後半に病院に行った一度きりだったという。事件の12年前に父親が亡くなってからは、母親と二人暮らしだった。母親の年金や貯金を取り崩して生活してきた。
 しかし事件のあった年の春、認知症が悪化した母親は自宅で転んで骨折し、外出できなくなった。Cは介護や買い物の必要性に迫られ、恐る恐る外に出はじめたという。
 
<32年間のブランク。何も分からん。何もできん>
<行けた、〇〇(スーパーの名前)>
<レジで質問されて答えられなかった。話しかけられると緊張する>


 当時の日記にはこうした言葉がつづられ、緊張しながら社会との接点をもとうとする姿勢がうかがわれた。そして事件が起きたのは、Cが外出を始めて1か月たったころだった。
 裁判で、検察官から母親が意識を失った際の心境を聞かれ、「母は助けてほしかったと思う。でも、人と会う怖さが勝った」と語っている。Cは6日たってから市内に住む親族の女性に「母親が息をしていない」と連絡し、事件が警察に伝わることになった。
 判決は、事件までCが母親の世話をしていたこともふまえ、懲役3年保護観察付き執行猶予5年となった。Cは裁判で、「ひきこもりから立ち直れず母につらい思いをさせ、申し訳ない気持ちでいっぱい」と話したという。


 これを読むと、「もう少し、お母さんが病気を発症する時期が後で、Cさんが他者とのコミュニケーションに慣れていれば……」と思いますし、この状態にある人に罪を問うのは妥当なのか、と考えずにはいられません(だからこそ、執行猶予になったのでしょうけど)。
 むしろ、お母さんがひとり暮らしで、お母さんが定期的にデイケアに行ったり、近所の人が様子を気にかけていたりすれば、もっと早く見つかっていた可能性もあります。
「家族」で暮らしているからこそ、周りからは介入しずらくなり、孤立が深まってしまう、ということもあるのです。
 
 親は、なるべく子どもをサポートしたい、社会に「迷惑」をかけたくない、と思っている。
 でも、多くの場合、先に寿命が尽きてしまう親にできることには、限界があるのです。
 そもそも、「家庭」の機能不全が珍しくないのに、この問題を家庭単位で解決するのは、あまりにも酷な話でしょう。

 ひきこもり問題が若年層特有の課題としてとらえられてきた時代もあった。しかし、先に述べたような複合的な理由から引きこもり問題は明らかに長期化・高齢化しているため、問題はより複雑化し、社会から孤立する人に支援のアプローチを試みることは容易ではない。
「どこまでが親の役割なのでしょう」
「老親介護のために仕事を辞めた人はどうやって社会復帰したらいいのですか」
「親子関係に不安をもちながら、長い老後をどう生きていけばよいのでしょうか」
 親子共倒れのニュースが報じられるたびに、人々の声を代弁した質問が記者の方から投げかけられるようになった。現代の日本において、社会的孤立はすぐ隣にある。そのことを実感している。


 まさに、他人事ではない「8050問題」。
 ひきこもりのきっかけになる、失職や親の介護での離職や離婚なんて、誰にでも起こりうることでしょう。
 しかも、これからの人口動態を考えると、こういう「家族」は、しばらく増え続けていくのです。


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