琥珀色の戯言

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【読書感想】「山奥ニート」やってます。 ☆☆☆☆

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

  • 作者:石井 あらた
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

ひきこもりとなって大学を中退し、ネットを通じて知り合ったニート仲間と2014年から和歌山の山奥に移住。以来、駅から車で2時間の限界集落に暮らしている。月の生活費は1万8000円。収入源は紀州梅の収穫や草刈りのお駄賃など。インターネットさえあれば、買い物も娯楽も問題なし。リモートの可能性をフル活用し、「なるべく働かず、面倒くさい人間関係から離れて生きていく」を実現したニートが綴る5年間の記録。


 著者の石井あらたさんは、2014年から、和歌山県の山奥の限界集落で暮らしているそうです。

 僕が住んでいるのは、最寄り駅から車で2時間の山奥です。
 もちろん周りにお店はありません。徒歩圏内に住んでいるのは5人だけ。
 それも爺さん婆さんばかりで、平均年齢は80歳を超えます。
 そんな限界集落に、平屋建ての木造校舎があります。小学校として使われていたのはもう何十年も前のことです。
 ここに、15人の若者が暮らしています。年齢は10代から40代。女性もいます。
 僕はそのうちのひとりに過ぎません。
 全員、元はここに縁もゆかりもなかった人たちで、全国各地から別々に集まってきました。
 始まりは、ひとりの爺さんの夢です。
 過疎が進む自分の故郷に、ニートやひきこもりなど社会に居場所がない人を集めて、共同生活をさせる。
 僕はそれに共感して、その第一号になることにしました。


 「山奥での暮らし」というと、自然が豊かな環境で、自給自足に近い生活をして、電化製品に頼らずにのんびり暮らす、というイメージなのですが、著者は、そんな外部の思い込みを否定します。
 住居は昔小学校だった建物に家賃タダで住んでいるのだけれど、電気代や食費は住人1人あたり月18000円を徴収しています(どうしても払おうとしなかった人を「追放」した、という話も出てきます)。
 また、買い物は食料品などは車で街に出かけ、まとめて買うけれど、嗜好品はAmazonを利用するし、インターネットは外部への情報提供や新たな住人の募集に欠かせないツールとなっています。
 野性の動物を捕まえ、解体してその肉を食べる話や野菜をつくるエピソードも出てきますが、自給自足には程遠い生活です。
 ものすごくシンプルにいえば、「山奥に住むことによって、家賃による支出を極限まで減らして生きるのに必要な経費を少なくし、なるべくイヤなことはしないで自由に過ごせる環境を手に入れた」とも言えるのです。

 僕らの生活費は1日600円だ。
 600円のお菓子を買うことで、ニートできる期間が1日少なくなるかもしれない。そう考えると、無駄遣いできなくなる。
 結果、「別にお菓子なんか買わなくてもいいや。家に帰ったらごはん食べられるんだし」となる。
 ちなみに、アーリーリタイア先として人気があるタイのひとりあたりの家計支出の平均は1ヶ月2万4600円(Thailand Household Expenditure per Capitaより)。
 これは現地の人の生活費の平均なので、日本から移住した場合は基本的にこれより高くなるだろう。
 物価の安い海外に移住するより、日本の山奥で暮らしたほうが安い。
 英金融大手HSBCホールディングスが2019年に発表した「働きたい国ランキング」では、日本は33ヶ国中32位だった。
 日本は働くには大変な国だ。
 収入は他国と比べて多いわけじゃないのに、どんな小さな仕事にも完璧が求められる。
 でも、代わりに食べ物は安い。治安もいいし、インフラも今のところ整ってる。


 日本全体の人口が減ってきて、コンパクトシティ化を目指している自治体も多いのに、あえて「山奥に住む」というのは、インフラにかけるお金を無駄遣いしているのではないか、という批判があることも著者は述べています。
 とはいえ、効率化のために、対人ストレスをため込むような生活をするよりは、山奥でのんびり暮らしていったほうが、医療費とか生活保護などに必要なお金を考えると、、幸福で安上がりな人もけっこういるのだろうな、と、この本を読んでいると納得せざるをえないのです。
 ただし、「山奥ニート」だからなんでもあり、何もしないでゴロゴロしていればいい、というわけではなくて、当番が決められているわけではないものの、月に何度か食事の準備をすることや食後の片付け、地域の人々に協力すること、1ヶ月あたり18000円の電気代、食費などを含む共益費を支払う、というルールに従うことが求められてもいるのです。
 「働けない人」が山奥でニートとして生活している、というよりは、「都会で通勤ラッシュに耐えながら毎日職場に行く、という働き方に不向きな人」の中に、山奥でのゆるやかな共同生活には向いている人がいる、というだけのことのようにも感じました。


 日本は長年経済成長が停滞しており、諸外国からは「物価、とくに食べものなどの生活必需品が安い国」と認識されるようになってきています。
 そんな日本では、「流行を追う」「最新のものを求める」ことを諦めれば、生活や娯楽に使うお金を驚くほど節約できるのです。

 今この瞬間も、新しい商品が作られている。
 その捨てられるものだって、まだ使えるものが多い。
 たとえば、僕らの家では今でもニンテンドー64が現役だ。
 発売から20年以上経つけど、今遊んでも十分面白い。
 これを今の最先端のゲームだと思いこんで、遊んでみる。
 古くなったゲームは遊び人が少ないから、安く手に入る。
 コントローラーのボタンが壊れたから、ネットで譲ってくれるようお願いしたら、すぐにたくさん送ってもらえた。おまけにソフトも同梱されていた。
 最新のゲームソフトが無料で送られてくることは、まずありえない。でも、古いものだったらそれがありえる。
 時間軸をずらすことによって、対価が必要な商品から無償で受け取れる恵みに変わる。
 最新のゲームソフトはグラフィックがきれいだし、システムも進化していて面白いだろう。でも、最新のゲームを遊ぶ一番の価値は、その楽しさを共有する相手が多いことにある。
 集まって住んでいれば、昔のゲームでも楽しさを共有できる。
 広告は最新のものを買えと呼びかけてくるけれど、山奥ならそれを目にすることもない。


 たしかに、人気ゲームでも、何年か経てば、かなり値段が下がっていることが多いですよね。
 発売当時と、ゲームの内容そのものは同じはずなのに。
「時間軸をずらす」というのは、生活のコストを減らすためには、かなり有効なテクニックだと思います。


 学校の先生になろうとして教育実習に行った先での出来事や、アルバイト先での理不尽な大人たちの扱いなど、著者が対人関係に絶望したエピソードを読んでいると、僕は半世紀くらい、なんとか仕事を続けてきたけれど(でも途中1年くらい休みました)、それは運がよかっただけのような気がしてくるのです。
 かなり多くの割合の人が、ちょっとしたきっかけで、「働けなくなる」のではなかろうか。

 この山奥に集まった人たちを一言でまとめて表すのは難しい。
 福祉を受けるほど、働けないわけじゃない。
 会社員になるほど、働けない。
 自分で起業するほど、積極的じゃない。
 自分で死ぬほど、消極的じゃない。
 そんな中途半端な僕たちには、どこにも居場所がなかった。
 ニートという名前の面白いところは、それが「〇〇な人」を表しているのではなく、「〇〇じゃない人」を表しているところだ。
 Not in Education, Employment or Training.
 学生じゃなく、会社員じゃなく、職業訓練生じゃない人。
 こうしたどの集合にも含まれない人は、補足が難しい。はっきり、こういう人、と言い表すことができないからだ。
 ホームレスや重い障害を持つ人たちを支援する場所はたくさんある。まだまだ足りないけれど、そういう活動をする人たちを知っている。
 会社員に対しては国から手厚い保護がある。年金や健康保険、ありとあらゆる面でサラリーマンは有利だ。
 でも、僕らみたいな「じゃない人」は、何重にもある網目からもこぼれ落ちてしまう。
 国はニートという言葉ではなく、若年無業者という言葉を使う。
 僕らはほんの少しだけど収入があるから、無業者かと言われると違う気がする。
 でも、しんどさはあるんだ。
 できる人と、できない人の間には、できるけど疲れる人がいるんだ。
 必要があれば働くけど、ずっと働きたいわけじゃない。
 こういう中間の人は、今の社会では不利な立場だ。


 こういう「やればなんとかできるけど、ものすごく疲れる」っていうのは、僕にもあてはまると思うのです。
 でも、「なんとかできる」人に対しては、社会は「できるのになんでやらないの?」と厳しい視線を向けてくる。
 「できない」というのはつらいことだろうけど、そこにはセーフティネットが用意されていることも多いのです。

 前述したように、「山奥ニート」にも、向き不向きがあるような気がします。
 こういう人たちの存在が、そんなに大勢ではないかもしれないけれど、「向いている人たち」に知られ、繋がってほしいと僕は思っているのです。


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