Kindle版もあります。
内容紹介
昔ばなし、な・の・に、新しい!
鬼退治。桃太郎って……え、そうなの?
大きくなあれ。一寸法師が……ヤバすぎる!
ここ掘れワンワン。埋まっているのは……ええ!?
「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった皆さんご存じの
《日本昔ばなし》を、密室やアリバイ、ダイイングメッセージといった
ミステリのテーマで読み解く全く新しいミステリ!
「一寸法師の不在証明」「花咲か死者伝言」
「つるの倒叙がえし」「密室龍宮城」「絶海の鬼ヶ島」の全5編収録。
『2020年ひとり本屋大賞』3冊め。
この本、表紙がけっこう目立つので、書店で見かけて気になってはいたのですが、「おとぎ話パロディの軽い読み物なんだろうな」と、手に取ることもなく判断していました。
『本屋大賞』の候補作としてノミネートされた時点でも、『コーヒーが冷めないうちに』のような、「なぜこのクオリティでノミネートされたのか、よく分からない枠(出版社ゴリ押し枠、とかあるのか……?)」じゃないか、とも思っていたんですよ。
とりあえず、自分の好み以外の本も読んでみるために、『本屋大賞』のノミネート10作はすべて読む、というのが僕のルールなので読み始めてみたのです。
最初の『一寸法師』をモチーフにした話など、自分にとって憧れのヒーロー、というわけではないけれど、昔から多くの人に愛されてきたおとぎ話の主人公をこんな扱いにして、風評被害も甚だしいな……とか、ちょっと思ったんですよ。
もちろん、本気で怒った、というよりは、「いいのか、これ?」という感じではありましたが。
5編を読み終えて、「あのおとぎ話をどんなミステリにするのだろう?」という興味に、5編それぞれ、違う形式で答えてみせた作者の技量に驚くのと同時に、おとぎ話に付きものの「超常現象」みたいなのは、ミステリのトリック形成と相性が良いのだな、と思ったんですよ。
人の身体を大きくしたり小さくしたりできる「打ち出の小槌」とか、「枯れ木に花を咲かせるおじいさん」とか、現代社会を舞台にしたミステリでは「なんだそれ?」と言われるような小道具を、自然な形で使える、というのは、けっこう「強み」になっているのです。
今は科学捜査や監視カメラ、ネット、携帯電話のおかげで、自然な形での「密室」は作るのが難しい時代なので、「密室」をつくるために魔物に取り囲まれたり、周りが山火事になったりしなければなりません。
それはやっぱり、「ちょっと強引な感じ」になるのだけれど、この作品の場合「もとがおとぎ話」なだけに、多少の強引なアイテムの存在が気になりにくい。
『ドラえもん』で、「ひみつ道具」の存在が当たり前になっているのと同じようなものです。
次は『ドラえもんがいる世界でのミステリ』が出るのではなかろうか。
それにしても、どれもこれも、後味のあまりよろしくない話に仕上げてあって、読み終えたあとで、「上手いな」と同時に、「こんな『桃太郎』はイヤだな」という気持ちにはなります。
良い人が必ずしも幸せにはならない、優しそうに見える人にも裏の顔がある、というのは、ある意味「おとぎ話の暗黙の諒解への挑戦」でもあるんですよね。
「おとぎ話の世界観をこんなふうに殺伐としたものにしてしまうなんて!」という驚きと、ちょっとした後ろめたさ、みたいなものも含めて、なかなか面白い短篇ミステリ集だと思います。一篇の長さも50ページ弱くらいで読みやすいし。
個人的には『花さか死者伝言』がいちばん好きだったかな。飼い主想いの動物モノに弱いので(これもけっして「心地よい読後感」ではないけれど)。
『桃太郎』の話は、「そもそも、そういうことが可能なのか?」と思いました。あまり「リアル」を追求するべきミステリじゃないのは百も承知なのですが、匙加減というのは難しいですね。