琥珀色の戯言

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【読書感想】アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
得点したら喜び、失点したらだんまり。試合に勝てばすべて良しで、負けが込んだら監督交代…そんな「サッカーの見方」では、現代サッカーに取り残される!?プロの監督から一ファンまで、「戦術的」な試合分析が大流行する昨今。SNSで精力的に活動する「戦術クラスタ」の最古参である著者が、新しくて面白いサッカーの「分析眼」の習得法を提示する。アジアカップで準優勝に終わり、コパ・アメリカを控える日本代表の未来も見据える一冊。


 ワールドカップの日本代表戦は必ずテレビで観戦するけれど、それ以外の代表戦と地元のチームの試合は、気が向いたら観る、という僕は、「この本を読んだら、サッカーの『戦術』にもう少し詳しくなって、楽しく試合観戦できるようになるかもしれない」と期待していたのです。

 選手の「配置」は一般的に「システム」と呼ばれることが多いのですが、「システム」という言葉は多義的です。例えば、その試合の狙い、チームがどのようにプレーするかを示した設計図を「システム」と呼ぶこともできます。よって本書では、「システム」ではなく、「配置」という言葉をメインで使用します。「フォーメーション」という言葉をイメージしていただければ良いかと思いますし、本書でも「配置」と同義として使用します。完全に余談ですが、昔『スーパーフォーメーションサッカー』というゲームがあったことを覚えている人とは、仲良くなれそうな気がします。
 さて、配置において大事なのは、お互いのチームの配置を作戦ボードなどに図示して、どのように相手の配置と噛み合っているかをチェックすることです。「噛み合わせ」によって発生する数的不利、数的同数、数的優位を試合前に理解しておくことはとても重要です。試合分析においては、噛み合わせによって発生する長所や短所を、お互いのチームがどのようにニュートラルな状況にするのか、それとも放ったらかしにするのかを把握することが大事です。よって配置は、ゲームが始まった時に最初にチェックするポイントでもあります。噛み合わせによって何が起こりそうかを事前に予測しておくことで分析がしやすくなりますので、注目してみてください。

 
 正直なところ、読みながら感じていたのは、サッカーの選手の動きや戦術を絵と文章だけで説明されても、僕にはちょっとついていけないな、ということだったんですよ。
 この本を読んでいると、サッカーというのは、人間対人間のスポーツで、最良の作戦というのがあるのではなくて、自分たちのチームの特徴や相手に応じて臨機応変にやっていかなくてはならないのだな、ということがよくわかるのです。
 自分たちが良いプレーをする、というだけではなく、「相手に良いプレーをさせない」というのもまた「戦術」なんですね。

 ボールを取ったとられたで一喜一憂し、「なんでそんなところにパスするんだよ、そんなシュートも決められないのかへたくそ!」などとテレビ画面に罵声を浴びせてしまう僕にとっては、「目からうろこが落ちる」ような話ばかりでした。

 その一方で、この本は「初心者がいきなりサッカー通になる」ということを目的にしているわけではなくて、それなりに試合を観てきたサッカーファンが、「結果論」でチームを語るレベルから、もう1ランク、2ランク上の観戦者になるための「試合の観かた」が詰め込まれている、とも感じたのです。

 要するに、僕のような「にわかレベルのサッカーファンには、少し敷居が高い本」だということです。
 これ、同じ内容を、実際の試合での動画をみながら著者が説明してくれれば、もっとわかりやすいのだろうけど。

 
 僕はサッカーを学校の授業でやったことがあるくらいで、とりあえず味方にパスをして、敵がボールを持っていたら、みんなでそれを取りにいく、というレベルの試合しかやったことがないのです。
 レベルが上がっていくと、ひとつひとつの選手たちのプレーには意味があり、戦術的な目的に従っているのです。
 プロは、意味や意図のないプレーはしない、と言い換えても良いでしょう。

 いよいよキックオフを迎えます。何気ないキックオフも、そのチームの戦略を知る重要な手がかりとなります。例えば、この試合でボールを繋いでいくよ! というチームは、キックオフからその姿勢を全面に押し出し、ボールを回します。ボールを繋がないよ、ロングボールだよ! そこから相手にプレッシングをするんだ! というチームは、キックオフ直後に相手の陣地にボールを蹴っ飛ばすでしょう。このようにキックオフからの流れから、その試合におけるボール保持局面でチームがどのように展開していくかが透けて見えてきます。
 ちなみに、キックオフと似たような性質、つまり、チームのスタイルが見え隠れする場面は他にもあります。ゴールキックと、GKCB(ゴールキーパー)がボールを保持した時です。ボールを繋ぐチームは、ゴールキックでもCB(センターバック)にボールをパスします。相手が、繋がせないよ! という配置を見せていたとしても、CBとGKのパス交換でゴールキックを始めたり、前線ではなくSB(サイドバック)にロングボールを蹴ったりします。
 GKがどんどんロングボールを蹴る場合は、ボールを保持する局面を重視していない傾向が強いです。その場合の注目点は、「どのエリアにロングボールを蹴っているか」です。一回一回違うエリアに蹴るケースはまれで、基本的にGKからのロングボールは、蹴った先の味方と相手の選手との空中戦の確率を考慮して行われます。その勝率、ロングボールがマイボールになる確率には、注目してみる価値があると思います。


 キックオフの直後の数十秒だけでも、しっかり分析していけば、そのチームの戦術がかなりわかる、ということなのです。
 著者は、2019年2月1日のアジアカップ決勝、日本対カタールの試合のスタートを、こんなふうに分析しています。

 日本のキックオフは、バックパスからのロングボール、という形で始まりました。しかし、相手のプレッシングの速さとCB吉田麻也の準備不足によって、ロングボールの精度が落とされてしまい、相手にボールを届けてしまう形となりました。
「集中してプレーしていない」ということの定義を、「普段は当たり前にできることができない」状態だとすると、吉田の準備不足は、日本の立ち上がりの不安感を象徴する、まさに集中していないがゆえのプレーでした。また、すぐにロングボールを蹴ったこともあって、どうしても繋いでいきます! という姿勢では、日本はこの試合に臨まないことがよくわかったシーンでした。


 ああ、なんか吉田のロングボール、失敗しちゃったな。まあ、試合ははじまったばっかりだし。
 僕がそんなことを思いながらボーっと試合を眺めている一方で、著者はこれだけの情報を得て、考えているのです。

 サッカーって、本当に奥が深い。
 勝ち負けやスター選手のスーパーゴールを堪能するだけでも楽しめるのだろうけれど、それだけでは、勿体ないのかもしれませんね。
 
 サッカーを観るのが好きなんだけれど、ただ贔屓のチームを応援するだけでは、ちょっと物足りなくなった人たちにとっての格好の入門書だと思います。


fujipon.hatenadiary.com

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