
- 作者: 中島国章
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/03/19
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。

- 作者: 中島国章
- 出版社/メーカー: 講談社
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内容紹介
なぜヤクルトの外国人選手は「アタリ」が多いのか?
「成功する選手」と「ダメ外国人」を分ける18の判断基準とは?
ホーナー、ラミレス、ペタジーニなどを日本に連れてきた
敏腕国際スカウトが明かす「驚異の人材発掘力」の秘密
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実はバースはヤクルトに入団する予定だった?
あのチームはどうして「ポンコツ」ばかり?
エルドレッド、バレンティン、マートン、ゴメス、
呉昇桓、サファテといった今季期待の選手から
バース、カブレラ、ローズ、マルカーノ、バッキー、
スタンカなど往年の名選手までを分析・解説!
あなたにとって「最高の外国人選手」といえば?
この新書のタイトルを見たときは、「ああ、野球ファンが、『自分の考える最強外国人助っ人』について熱く語っている本なんだな」と思っていました。
でも、実際の内容は、「ヤクルト、巨人の国際スカウトとして、ラミレスやペタジーニなどの選手を獲得してきたプロのスカウトによる外国人選手論」なんですよね。
ちょっと、タイトルで損しているかもしれません。
のちに、ペタジーニやラミレス、テリー・ブロスなど、さまざまな「優良助っ人外国人」を獲得し、敏腕国際スカウトとして鳴らした著者も、その「外国人選手担当デビュー」は、散々なものでした。
1973年、ヤクルトに、ジョー・ペピトーンという選手がシーズン途中から加入します。
彼はそれまで3度、メジャーリーグでゴールドグラブ賞に輝き、ヤクルト入団直前までアトランタ・ブレーブスで活躍していたという「現役バリバリ」のメジャーリーガー。メジャー通算で219本塁打を放っており、球団もファンも大きな期待を寄せていたのですが……
しかしジョー・ペピトーンはその期待を裏切り、たった14試合しか出場せずに帰国。日本プロ野球史上「最悪の外国人選手」という汚名を残してしまった。彼は決して実力がなかったわけではない。性格に問題があったのだ。
ペピトーンは事あるごとに「メジャーリーグではこんなことはやらない」と言って待遇の改善を要求。「日本は違う」と説明すると、悪態をつきまくった。それでも野球に真面目に取り組んでくれればいいのだが、こちらも手抜きし放題だった。球団がペピトーンを売り出そうと「ペピトーン・デー」と名付けダブルヘッダーを行ったところ、なんと二試合目への出場を拒否。そのまま、夫人との離婚調停のために一時帰国してしまった。ようやく戻ってきたと思ったら、今度はアキレス腱を断裂。「米国に戻って治療を受けたい」と主張した。さすがに球団も「約束が違う。日本で治療しろ」と帰国と許さず、ペピトーンも渋々これを了承した。ところが、ケガで休養中のはずのペピトーンは、あろうことか夜な夜な六本木で夜遊びに励む始末。挙句の果てに、無断帰国してしまった。
その後もペピトーンに関するトラブルは続いた。勝手に帰国しておきながら「来シーズンの給料を前借りさせてくれ」と言ってきたり、婚約者がデパートで購入した商品の高額な請求書を球団に送りつけてきたり、非常識な要求はあとを絶たなかった。
そんなトラブルメーカーをどうしてヤクルトは獲得したのか。それは「見ず買い」の選手だったからだ。選手のプレーを視察せず、売り込みのビデオや数字だけを見て判断して獲得することを、我々スカウトは「見ず買い」と呼んでいる。ペピトーンは、その「見ず買い」で獲得した選手だったのだ。
ちなみにこのペピトーン選手、トラブルメーカーとしてアメリカでも広く知られていたそうです。
この選手の通訳が、著者の「外国人担当のスタート」だったのですから、すごい苦労だっただろうな、と。
まあ、「最悪」からはじめれば、もう、それ以下はない、という考え方もできるのかもしれませんが。
ヤクルト、巨人で敏腕国際スカウトとして活躍した著者は「見ず買い」を強く戒めていたそうです。
どんな選手でも、何年か前に見て、良い印象を受けた選手でも、契約を考える場合には、必ずその「現在の状態」を自分の目で確認し、実際に話をして人柄を知ることが大切だと繰り返し述べています。
こういうのって、外国人選手獲得のときだけの話ではないですよね。
その一方で、巨人のようなリッチな球団だと、他のスカウトや球団首脳部の意向との兼ね合いで、「不本意、あるいは満足とはいえない選択」を余儀なくされる場合もあるようです。
ヤクルトや広島といった、けっして「金満」ではない球団が、優良外国人選手を獲得しているように見え、お金持ちの球団が連れてきた実績十分のはずのメジャーリーガーのなかにトラブルメーカーが多いのは、外国人選手の見極めや交渉が、ある種の「職人芸」であり、組織が大きすぎると、かえってしがらみや「見ず買い」が多くなってしまうこともあるのかもしれません。
もっとも、「一人のスカウトの能力」に頼り切ってしまうというのは、それはそれでリスクが大きいのも確かではありますが。
ちなみに、著者はこう仰っています。
断言しよう。女性関係でモメて活躍した選手はいない。それが40年近くに及んだ私の通訳とスカウトの経験から得た結論だ。
通訳というのも大変な仕事で、選手本人のみならず、異国で生活しなければならない家族のサポートも必要不可欠なのです。
どんなすごい選手でも、家に帰るたびに妻の不満をぶつけられたら精神的に参ってしまうし、子供が元気を無くしていれば不安になります。家庭がうまくいっていなければ良い仕事をするのが難しいのは、世界共通。どんなに日本で好成績を残していても、「アメリカに帰りたい」ということになってしまうのです。
外国人選手の獲得において、著者は「そのチームに欠けているピースを埋めること」を常に意識していたそうです。
そして、「良い選手でも、チーム状況によっては『いまは獲得できない』という場合もあるが、その選手が必要になったときに声をかけられるように、つねに気にとめておく」とも。
外国人選手に求められるのは、ピッチャーでいえば、「豪速球で押せること」、バッターでいえば「体格が良く、長打力で相手のピッチャーを萎縮させられること」。
おそらく、メジャーリーグでも超一流の選手であれば、日本の野球にも順応できる(ペピトーン選手のようなトラブルメーカーでなければ)のですが、メジャーで年俸10億円もらっているような選手を日本に連れてくることは難しい。
だからといって、向こうで箸にも棒にもかからないような選手では、日本の野球のレベルに適応できるはずもない。
そのなかで、「日本のプロ野球に向いている選手」を探すことが、スカウトの腕の見せどころなのです。
メジャーリーグには「ウォーニング・トラック・フライ」(Warning track fly)という言葉がある。外野のフェンス直前で失速するフライのことだ。フェンス際まで飛ばす力はあるが、なかなかフェンスは越えないバッターのことを「ウォーニング・トラック・フライ・ボール・ヒッター」、または「ウォーニング・トラック・パワー」と呼んでいる。
私がこの言葉を初めて知ったのは、メジャーリーグの中継をテレビで観たときのことだ。米国滞在中は、球場に足を運ぶだけが仕事ではない。宿泊先のホテルでも時間さえあればテレビで野球中継を観戦するのだが、あるとき、テレビの解説者が「この選手はウォーニング・トラック・フライ・ボール・ヒッター。どこの球場でも外野フェンスの前でボールが失速してしまう。ウォーニング・トラック・パワーしかない選手だ」という表現をしたのだ。
「これだ!」その言葉を聞いた瞬間、私はピンと来た。米国の球場は広いし、ピッチャーの投げるボールも重い。だから人並み外れてパワーのある選手でなければ、ホームランを打つことは難しい。少しだけパワーの足りない選手の打球はフェンス前で失速し、外野手に捕られてしまう。しかし、もし彼らが日本でプレーしたらどうだろう。
メジャーリーグでは「残念な選手」である、「ウォーニング・トラック・フライ・ボール・ヒッター」なのですが、だからこそ、彼らは「日本野球向き」ではないかと著者は発想を転換したわけです。
「メジャーでもホームランをガンガン打てる選手」を日本に連れてくるのは難しいけれど、こういう中途半端な選手であれば、メジャー側も放出してくれやすいでしょうし、メジャーとマイナーを行ったり来たりの選手が多いので、本人も活躍の場を求めている。
逆に考えると、日本人のホームランバッターというのは、メジャーに行くと、「ウォーニング・トラック・フライ・ボール・ヒッター」になってしまうことも多いのです。
著者が獲得したラミレス選手は、まさにこの「ウォーニング・トラック・フライ・ボール・ヒッター」だったそうです。
また、「ボールを引きつけて打つというバッティングのタイプも、日本野球向きだと思った」のだとか。
プロのスカウトの目というのは凄いものだな、とあらためて思い知らされます。
限られた予算、限られた選択肢のなかで、最良の選択をするというのは、なかなか難しい。
選択肢のなかには、もっと派手な経歴を持っている選手だって、いるのですから。
(カープ)ファンとしては「もっとお金をかけて、メジャーで実績のある選手を連れてこいよ……」と言いたくなるのですが、実際に日本のプロ野球で長年活躍している選手というのは、たしかに、「3A以上、メジャーリーグ未満」が多いんですよね。
なかには、日本の野球を経験することによって、変化球に対応できるようになったり、ピッチングに幅ができたりして、メジャーリーグに戻って活躍するようになった選手もいます。
ちょうどペナントレースの開幕日でもありますし、こんな話も紹介しておきますね。
外国人選手が気持ち良くプレーしているかどうかは、ベンチを見れば一目瞭然だ。外国人選手がベンチの中央、もしくは監督の近くに座っているチームは強い。それは、外国人選手がチームに溶け込んでいる証拠だからだ。外国人選手が気分よくプレーして期待以上の活躍をすれば、当然、チームにも勢いがつく。逆に、外国人選手がベンチの隅っこに固まって、外国人同士だけで話をしているようなチームは弱い。
実は、私が入った頃の巨人がそうだった。外国人選手はヨソ者扱い。たとえ言葉には出さなくても、選手は雰囲気で自分がヨソ者扱いされていることはわかる。当然、「チームのために頑張ろう」という気持ちは生まれてこない。
僕も今シーズン、贔屓のチームのベンチが映し出されたとき、外国人選手がどこに座っているか、注目してみたいと思います。
なんのかんの言っても、外国人選手の活躍というのは、チームの浮沈の鍵を握っていますしね。
エルドレッド、早く帰ってきて……