- 作者:外山 美樹
- 発売日: 2021/04/08
- メディア: 新書
Kindle版もあります。
怠けたい、相手と比べてしまう、無気力だ……。
そうした気持ちを少し変えるためには、
心理学の考え方が役に立つ。
「やる気」のメカニズムから自分をみつめなおそう。【目次】
第1章 やる気は内からくるのか、外からくるのか
第2章 なぜ誘惑に負けてしまうのか
第3章 目標設定で差をつけよう
第4章 やる気を左右する周囲の存在
第5章 ネガティブでも大丈夫 第6章 やる気がなくなったとき
「勉強する気はなぜ起こらないのか?」
誰もが、人生で一度や二度は(どころじゃないと思いますが)抱く疑問だと思います。
勉強がテレビゲームやマンガみたいに面白かったら、こんなに苦労しなくてすむのに、って。
読者のみなさんには、やる気が出るのをぼんやりと待つのではなく、自分でやる気をコントロールできる人になってほしいと願って、この本を書きました。自身の心の持ちようなど、ちょっとしたことでやる気は劇的に変わるのです!
この本では、心理学の知見を踏まえて、やる気のメカニズムを紹介していきます。やる気を自分でコントロールできるようになるためには、その正体をきちんと理解する日露があります。ところどころ、小難しい心理学の理論も出てくるのですが、なるべくわかりやすく説明するように心がけました。また、心理学の実験で明らかになった意外で驚く発見についても多く触れるようにしました。
みなさんは、やる気についてその正体をきちんと理解して、やる気に左右される人生を送るのではなく、やる気を手なずける人生を送ってください。
この新書は、中高生くらいをメインターゲットにしているみたいなのですが、もうすぐ生まれて半世紀になる僕が読んでも、「なるほどなあ」と感じるところがたくさんありました。
著者は、「やる気」とは何か、について、最初に説明しています。
やる気には「内からのやる気」と「外からのやる気」があるのです。
では、内からのやる気と外からのやる気の違いはどこにあるのでしょうか?
それは、内からのやる気では、行動をすることが目的であり(簡単にいうと、「やりたいからやる!」、外からのやる気では、行動をすることが手段である点です(「〇〇したいからやる」、「〇〇したくないからやる」)、言い換えれば、「目的―手段」の観点から、やる気を分類しているのです。
心理学では、「外からのやる気」が見出されたほうが、早かったのだそうです。
実は、人間(やある種の動物)に内からのやる気が存在することが広く認められたのは、1970年代に入ってからになります。中高生の読者のみなさんにとっては昔のことと感じるかもしれませんが、心理学の歴史からいえば割と最近のことといえるでしょう。それまでは、人間が行動を起こすのは、すべて、外からの働きかけによると考えられていたのです。
(中略)
行動主義心理学が主流であった1950年代まで、人間の行動も動物と同じく、学習は適切に報酬や罰を与えることによって、成立すると考えられていました。つまり、人間が行動を起こすためには、先に説明したオペラント条件付けのねずみのように、アメとムチの力が必要であり、外からの働きかけがないと、われわれは行動を起こさないと考えられていたのです。
最近は、子供の「好きなことを伸ばす」「楽しむことを大事にする」というような考えが一般的になっているのですが、長い間、とくに小さな子供に対しては、「外からの条件づけ」が重要だと考えられていたのです。
この「外からのやる気」というのは、「自発的なものではないから『内から』に比べると行動を起こす力が弱いし、持続性に乏しい、と言われていたのですが、現在は、この「外のやる気」も「典型的な外からのやる気(何か買ってもらえる、とか、やらないと怒られるなど)」「プライドによるやる気」「目標によるやる気」「自己実現のためのやる気」の四つに分類され、後ろの二つの「外からのやる気」は、望ましいやる気と考えられているそうです。
実際、「楽しくて、自分からやりたくて仕方がないこと」を仕事にして食べていくのはかなりハードルが高いですしね。
さて、読者のみなさんに、またまた質問です。
人生で成功するために、もっとも必要なものは何だと思いますか?
頭の良さ(知能、学力)や学歴でしょうか。身体的魅力(かっこよさ、かわいさ)でしょうか。それとも経済力(お金)でしょうか。
実は、これらはすべて不正解です。どれも多少なりとも必要かもしれませんが、「もっとも」必要なものではないのです。
答えは、「我慢強さ」です。心理学の学術用語では「自己統制」や「セルフコントロール」といいます。意外な答えですよね。私も最初はそう思いました。でも、今では、なるほどなぁ納得しています。
ただし、これについてはいろいろな考え方(学説)がありますので、興味のある方は調べてみるとよいですね。
でも、我慢強さが重要であるというのは、まぎれもない事実です。だって、人生において、我慢しなくちゃいけない場面って、数多くありますよね。
イチロー選手が、糸井重里さんとの対談で、こんな話をされています。
「キャッチボール〜ICHIRO meets you」(「キャッチボール〜ICHIRO meets you」製作委員会著・糸井重里監修)より。
イチロー:これね、大事なことなんですよ。
僕がよく小さい子に言うのは、「野球がうまくなりたかったら、できるだけいい道具を持ってほしい。そしてしっかりとグラブを磨いてほしい」ということと、「宿題を一生懸命やってほしい」ということ、なんですね。
宿題をやる意味は、宿題そのものだけではないんですよ、実は。
なんでぼくがそれを大事だと思っているかというと……大人になると、かならず上司という人が現れて、何かをやれ、と言われるときがくると思うんですね。
子どもにとっていちばんイヤなことは、勉強することなんです。
よっぽど勉強が好きな人はおいておいて、キライなことをやれと言われてやれる能力っていうのは、後でかならず生きてきますよ。
ぼくが、宿題を一生懸命やってよかったなと思うのは、そこなんですね。
プロ野球選手という個人が優先される場所であっても、やれと言われることがものすごくあるわけです。だったら、一般の会社員になって、そんなことは毎日のことのはずです。だから、小さい頃に訓練をしておけば、きっと役に立つと思うんです。
やれと言われたことをやる能力を身につけておけば、かならず役に立つ。
「自分は野球が好きだからそれだけやっていればいいや」といって宿題を放棄してしまったら、おそらく、後で大変な思いをすると思うんですよね。
僕がいままで接してきたなかにも、すごい才能はありそうなのに、努力が続かなかったり、気に入らないことがあったらすぐにキレてしまったりして、挫折してしまった人がたくさんいました。
僕自身も、ずっと「キレて投げ出したり、周りに暴言を吐いてしまったりしそうな自分」と闘い続けているのです。
著者は、人生における「我慢強さ」が必要なことを突き止めるために、スタンフォード大学の心理学者が1960年代に行った心理学の実験「マシュマロ実験」を紹介しています。
実験の対象になったのは、スタンフォード大学に併設されている保育園の子どもたち(4歳児)186名です。
実験者は、子どもたちを1人ずつ部屋に通し、椅子に座るように指示します。
そして、子どもにマシュマロ、クッキー、ミント菓子などの中から一番欲しいものを選ばせます。ここでマシュマロを選んだ子どもが多かったことから、後にこの実験は「マシュマロ実験」と呼ばれるようになりました(ここからはどのお菓子を選んでいても、マシュマロに置き換えて話しを進めていきます)。
実験者はマシュマロを1つ、子どもの目の前にあるお皿にのせて、次のようなことを言います。
「私はちょっと用事があるので、出かけてきます。15分で戻ります。お皿の上にあるマシュマロはあなたにあげるから、食べてもいいよ。ただし、私が戻ってくるまでそのマシュマロを食べるのを我慢できたら、もう1つマシュマロをあげるよ。私がいない間にそれを食べたら、2つ目はあげないよ」
そして、実験者は部屋を出ていきます。
目の前には、自分の大好物であるマシュマロがあります。それはとても誘惑的です。子どもたちは、大好きなマシュマロを2つゲットしたいので、何とか目の前にあるマシュマロを食べずに我慢しようとします。しかし、今すぐに大好きなマシュマロを口にしたいという衝動にも駆られます。
ここで、我慢強さが試されるのです。さあ、あなたならどうしますか?
大人の頭で考えると、「たった15分なら、我慢してもう1個もらおう」と思いますよね、多くの人が。
でも、4歳児では、15分間待てたのは、子どもたちのうちの3分の1だったそうです。
まあ、子どもだしね。むしろ、我慢できなくなって食べてしまうほうが「子どもらしくてかわいい」なんて思ってしまうのですが、この実験のすごいところは、参加した子供たちの「その後」が追跡調査されたことなのです。
そして、10年前に実験者が部屋に戻ってくるまでマシュマロを食べずに我慢した子どもたちと、マシュマロを食べるのを我慢できなかった子どもたちを、さまざまな側面から比較したのです。
その結果、10年前にマシュマロを食べなかった我慢強い子どもたちのほうが、欲求不満を覚えるような状況では我慢強いと、まわり(親や教師)から評価されていました。彼ら彼女らは、誘惑に負けにくく、集中力が必要な課題では気が散りにくく、ストレスにさらされても、混乱して慌てたりすることもなく、上手に対処するスキルが高いと評価されました。また、彼ら彼女らは、先のことを考えて計画し、目標を追求するのが上手だったそうです。
詳細が気になる方は、ぜひ、この本を読んでみていただきたいのですが(中高生向けだけあって、だけあって、読みやすいし分厚くもないです)、4歳児のときに「マシュマロを我慢できた子どもたち」は、その後40年もの追跡調査で、「人生がうまくいっている(あるいは、大きなしくじりをしなかった)割合が高い」ことがわかったのです。
40年って、すごい気の長い調査だなあ、と思わずにはいられませんが、今さかんに言われている「幼児教育の重要性」を思い知らされます。
ただ、この実験については、のちに反論も出てきて、「その子どもが置かれた環境によって、マシュマロを我慢できるかどうかは大きく違ってくる」というデータもあるのです。
スタンフォードの実験に参加したのは、スタンフォードに併設された保育園の子どもたちだったそうで、「親は富裕層、高学歴層だった」そうです。
のちに行われた、人種、民族性、親の学歴などの点で、アメリカ国民全体の状態を反映してサンプリングした4歳児たちの実験では、「貧しい家庭の子どもは、裕福な家庭の子どもに比べて将来の見通しが立たないため、2個目のマシュマロを得るために我慢することはない」という結果が出ているのです。
身も蓋もない話ではありますが、幼少時の環境というのは、のちの人生に大きな影響を与えるのです。
「内側からのやる気」が出るような対象を見つけるためにも、いろんな習い事をしたり、アートに触れたり、旅行をさせられる経済力がある家庭のほうが有利ですよね。
「東大生の親は平均所得が高い」というのも、こういう背景があるからなのでしょう。
この本のなかには、「やる気」を出すためのちょっとしたコツや考え方も紹介されており、ある程度年齢を重ねてからでも、自分を変えることは不可能ではなさそうですが、現実問題として、僕がいまからプロ野球選手になるのは無理です(もともと向いてもいないでしょうけど)。
ネガティブ思考はよくない、と言われがちなのですが、それも人それぞれというか、「ネガティブであることを駆動力にしている人」の話などは、「これは僕のことではないか」と、思ったんですよね。
こういう人が良いとか悪いとかではなくて、その人のキャラクターに合った「戦略」がある、ということなのです。
中高生向けじゃなあ、なんて思いながら読み始めたのですが、子どもに接する親として、あるいは、自分自身のこととしても興味深い内容でした。
- 作者:ハイディ・グラント・ハルバーソン
- 発売日: 2017/07/01
- メディア: Kindle版