寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」
- 作者:キングジム公式ツイッター担当者
- 発売日: 2020/03/02
- メディア: 単行本
Kindle版もあります(2020年10月10日現在、Kindle Unlimitedでも読めます)。
寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」
- 作者:キングジム公式ツイッター担当者
- 発売日: 2020/03/02
- メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
担当者1人、ノウハウなし、予算ゼロ。逆境のなかで探り出した、みなに愛されるための答えは「安心感と親近感」。誰も教えてくれなかった「広報としてのSNS」がわかる本。
『キングジム』の公式ツイッターをご存じでしょうか。
正直、僕は『キングジム』の製品(「テプラ」や「キングファイル」)は、ずっと使ってきたのに、それをつくっている会社の名前すら知りませんでした。
『キングジム』って、格闘技のジムとか組織の名前?って思いますよね、知らないと。
ツイッターを通じて、僕は『キングジム』という会社のことを意識し、応援するようになったのです。
ツイッターの宣伝とか広報への効果は、とても大きなものだと思います。
その一方で、ひとつの失言で、すべてが台無しになってしまう世界でもあります。
この本は、「キングジム公式ツイッター担当者」(キングジム姉さん)によって書かれたものなのですが、「姉さん」は、まず、「ツイッター運営を大成功させる『方程式』はない」ということを強調しています。
なぜ「ズブの素人」だった私に、白羽の矢が立ったのか。
身も蓋もない言い方になりますが、ほかに適当な人物がいなかったからでしょう。
当時、広報部の構成人員はわずか5人。広報部長、40代前半の男性社員、20代後半の女性社員、事務担当スタッフ、そして私。新しいツールに順応しやすい若手社員は、入社数年目の私しかいなかった、というわけです。
「ポメラ」ユーザーのボリュームゾーンが30〜40代男性だから、性別や年代の違う発信者のほうが新鮮だ、と言われたような記憶もあります。
「姉さん」は、2010年2月にツイッター担当を命じられた際には、「ツイッターという言葉は……知っています」という状態だったそうです。
まさに「イチから企業SNSを開拓していかなければならなかった」のです。
企業の公式ツイッターアカウント担当者──。
この仕事、えてして華やかな印象をもたれがちですが……実を言うと、ものすごく地味です。
内容を吟味したり、文面を推敲したり、事実関係に間違いがないか調べたり、どちらかといえば細かい、ハッキリ言えばチマチマした作業がほとんどです。
そのうえ、「ひとりぼっち」でもあります。ツイートもリプライも、すべて私の手足だけで完結するからです。「上司に見せて、OKをとってから、という段取りは要らないの?」と思われるでしょうか。少なくとも当社の場合、そのプロセスはありません。
「内容は原則、君ひとりの裁量で」。これは、開始時に社長が掲げた方針です。スピーディでライブ感あふれるやり取りこそ、ツイッターの生命線だから、と。
もちろん、最低限のルールはあります。宗教や政治など、人によって大きく価値観の違うトピックに関しては話題にしないこと。プロ野球やサッカーなども同様に、特定の団体を応援しないこと。これをやってしまうと、こちらが肩入れした団体以外を愛する人に、不快感を与えてしまうからです。
加えて、ツイート数に関しては、初めは1日につき10ツイート程度はほしい、と言われました。「何でも、自由にツイートしていいからね!」
そう、あの軽いテンションで、社長はまたしても難しいことを言うのです。
「お昼ご飯の話とか、今日のおやつはコレですとか、君自身のこともどんどん発信していいよ。真面目に考えすぎないで、気楽にね」
真面目にやりなさい、と言ってもらえたほうがそれだけラクだったことか……。
私に与えられたのはある意味、「自由」という名の「不自由」でした。
正解・不正解がわからないので、うっかり前に進めません。初期のツイートに見られた無難さは、そんな私の戸惑いを反映したものと言えます。
ツイッター以外の声も、よく参考にしました。その中で、初期の「こわごわ期」を抜け出すきっかけとなったのは、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で見かけた、ある書き込みです。
当時の私は、「今日の千代田区東神田は晴れ、28度です」といったBOTのようなツイートを、毎日のように発信していました。
生活者の視点で考えれば、天気のツイートは有益ではありません。天気が知りたければ、天気予報を見ればいい話だからです。
感情を伴わないのもマイナスポイントです。淡々と無機質に、しかも求めてもいない情報を述べられても面白いはずがありません。つぶやいたほうがいいこと、つぶやいてもいいこと、つぶやく必要のないこと、つぶやかないほうがいいこと。
色分けを、より意識するようになりました。後者二つには発信する意味はありません。
では、つぶやいたほうがいいことと、つぶやいてもいいこととは、何でしょうか?
「必要なこと」と「楽しめること」です。
二つに絞り込んで発信する、という方向性が定まったのです。
その人の「個性」が伝わってこない、自慢、あるいは他人をバカにしているように感じる、検索すればすぐわかるようなことばかり呟いている、ような人は、なかなかフォローしようと思わないですよね。
ツイッター黎明期で、誰でもいいから、フォロー数/フォロワー数を増やしたい、とみんなが思っている時期ならともかく、今は、「めんどくさい人とは、関わりたくない」というユーザーも多いのです。「フォロー外から失礼します」という言い回しがあるということに、「ネットでみんなに公開されている言葉は、どこから反応されても当然のこと」だと思っていた昔からのネットユーザーの僕には衝撃的だったのです。
ブログにしても、「結局、読まれるのは『面白いか、役に立つ』ものだけ」だと、ずっと前から言われていますし。
でも、「誰も傷つけないようにしよう」と思えば思うほど、「誰の心にも引っかからない」内容になりがちなのも事実なのです。
「姉さん」は、「美術大学出身で、大学時代は油絵を専攻していた」というのを読んで、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』という本に書かれていたことを思い出しました。
「企業アカウント」という未知の世界への好奇心や、キングジムの名物ともいえるアスキーアートなど、デザインやアートのセンスや経験があるというのは、結果的に「キングジム姉さん」の他者との差別化というか、「強み」につながっているのではないか、と思うんですよ。
そうか、「ビジネスの世界にも『アート』が必要」っていうのは、こういうことなんだな、と。
企業アカウントであるかぎり、「ビジネス」の要素は避けては通れないのだけれども、「ビジネス臭」がうまく消されていることも「アートの力」なんですよね。
ネットやSNSに詳しすぎると、あるいは、その世界が自分にとっての中心になってしまうと、つい、「ギリギリセーフ」のところを突こうとして、ラインを踏み越えてしまいがちですし。
いろいろとありましたが、他社に比べると、キングジムは優しい人が多かったのだ、と今にしてわかります。
「ツイッター担当者は、社内からの風当たりが強い」という話を、周りでもたびたび耳にします。ネットに明るくない世代に嫉妬される、というケースが一番多いようです。
「チヤホヤされて、いい気になって」
「なんで、君に講演依頼が来るんだ」
「ほかの人に、しわ寄せがいっているはずだ」
と直接間接に悪口を浴びせられている人もいるようです。
悪口よりも困るのが、「したいことを阻まれる」「したくないことを強要される」というケースです。これはツイッター担当でなくとも、誰もが突き当たる壁でしょう。
企業アカウントの担当者というのは、ツイートが「その企業の見解」だと見なされやすく、非常に重い責任を負わされているんですよね。ツイッターには、担当者個人の判断で投稿することが可能ですし、この本にも書かれているように、ツイートの内容をいちいち会議にかけるというのは非現実的です。
企業の「広報担当者」が、マスメディア向けにプレスリリースを出す際には、「担当者個人の責任」になることは無いはず。
責任の割には、「楽しんで仕事をしていて、みんなにチヤホヤされている」なんて妬まれやすく、報酬に反映されることも少ないのが、「企業公式ツイッター担当」なのです。
まあでも、「大変だろうけど、面白そうな仕事」ではありますよね、やっぱり。
「仕事で、あるいは自分をアピールするためにツイッターを使おうと思っている人」は、読んでおいて損はしない本だと思います。
人気アカウントに王道なし、いうことと、「絶対やってはいけないこと」がわかるというのは、大怪我しないために、とても大事なことなのです。
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