琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】ノースライト ☆☆☆☆

ノースライト

ノースライト

内容紹介
横山ミステリー史上最も美しい謎。
熱く込み上げる感動。

一家はどこへ消えたのか?
空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか?
『64』から六年。待望の長編ミステリー。

一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに……。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた古ぼけた「タウトの椅子」を除けば……。このY邸でいったい何が起きたのか?


 そうか、もう『64』から、6年も経ったのか……あれだけの傑作を書いたら、次作へのプレッシャーもあったのだろうな……と思っていたのですが、この『ノースライト』は、2004年から2006年にかけて連載されていた作品を改稿したものなのだそうです。
 バブル期が終わったあとに「凋落」してしまった中年の一級建築士・青瀬が主人公なのですが、序盤は、この男のモノローグが続きます。
 ……って、もう100ページくらい読んだんだけど……青瀬の回想と建築に関する蘊蓄ばかりで、何も起こらない……ミステリじゃないのかこれ……

 さすが横山秀夫さん、中年男の人生と魂の彷徨を、ものすごく丁寧に描いているんですよ。「建築」という仕事の魅力と難しさが延々と書かれていて、よくここまで専門家の仕事に踏み込んでいったなあ、と感心せずにはいられませんでした。

 ただ、「いくら自分の仕事であっても、建築士というのは、ここまでアフターフォローをするものなのか?」とは思ったんですよね。これはもう、探偵とか警察の領域のような気がするし、そういうプロが絡んだら、あっさり決着がつく話のようにも思われます。
 とはいえ、主人公とあまり年齢が変わらないであろう僕としては、青瀬の仕事へのプライドと諦めとか、同業者への複雑な感情とか、難しい家族関係とか、ものすごく身につまされるというか、他人事とは思えない小説でもあるのです。

 横山秀夫さんの作品というのは、謎解きメインのミステリというよりは、「うまくいかない人生のなかで、人はどう生きていけばいいのか」を追い求めているように感じるのです。本当のミステリは「事件」ではなくて、「生きることの明暗」みたいなものなのかもしれません。
 
 僕は最近、「建築」というものの面白さが、ようやく少しわかってきたような気がしていて、この物語のひとつの鍵である、ブルーノ・タウトに関するエピソードも興味深く読むことができました。


fujipon.hatenablog.com


 昔の権力者たちにも、「建築」が趣味だった人がたくさんいたんですよね。
 自分がイメージしたものが、現実にできあがってくるというのは、やはり、ロマンなのだろうと思います。
 

 渡り歩いた飯場は、どこも不思議と北側の壁に大きな窓があった。その窓からもたらされる光の中で、本を読んだり絵を描いたりするのが好きだった。差し込むでもなく、降り注ぐでもなく、どこか遠慮がちに部屋を包み込む柔らかな北からの光。東の窓の聡明さとも南の窓の陽気さとも趣の異なる、悟りを開いたかのように物静かなノースライト——。


 絶望と再生の物語であるのと同時に、もし、青瀬があの仕事をしなかったら、あの人はこんなことにはならなかったのではないか、とか、つい考えてしまうところもあるのです。
 人は、ノースライトのような「物静かな優しさ」を知らず知らずのうちに他者から受けているけれど、その一方で、自覚もないまま、結果的に他者を傷つけている。

 良くも悪くも、作者の「ひとりよがり」な小説だと思います。
 でも、僕のような中年男には、「刺さる」んですよ、本当に。
 興味を持たれた方は、最初のほうだけでも、ページをめくってみてください。
 少し読んでみれば、合う、合わないがわかりやすい作品だと思うので。


fujipon.hatenadiary.com

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

半落ち (講談社文庫)

半落ち (講談社文庫)

アクセスカウンター