琥珀色の戯言

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【映画感想】名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 ☆☆☆

あらすじ
オリエント急行殺人事件』、『ナイル殺人事件』に続く、アガサ・クリスティ原作、ケネス・ブラナー監督・主演で贈る《名探偵ポアロ》シリーズ最新作。ベネチアで隠遁生活を過ごしていたポアロは、霊媒師のトリックを見破るために、子供の亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。しかし、その招待客が、人間には不可能と思われる方法で殺害され、ポアロ自身も命を狙われることに…。はたしてこの殺人事件の真犯人は…

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2023年映画館での鑑賞17作目。 平日の朝からの回で、観客は僕も含めて5人でした。
僕は古典的なミステリ小説の映像化作品がけっこう好きで、とくにこのケネス・ブラナーさんのエルキュール・ポアロは、観客ウケを狙ってアクション要素が採り入れられていることもない、地味だけど誠実な作品でけっこう好きなのです。
とはいえ、こんな地味な映画だと、お客さん入らないよなあ、とも思っていたのですが(実際、僕がこれまでの作品を映画館で観たときにも、賑わっているとは言い難いし)、こうして3作目が公開されているというのは、案外同好の士は多いのかもしれませんね。
NHKの夜とかに放送されている海外ドラマを有名俳優、ベネチアロケにお金を使って豪華版にした、という印象ではあるのですが、ケネス・ブラナーさんは、ポアロを演じることを楽しんでいるように見えて、僕もちょっと嬉しくなってしまいます。
それと同時に、「見えすぎる人間の孤独」とか「ポアロ自身のトラウマ」とかについても垣間見せていて、「古典の枠を守った上で、少し人間的なポアロ」になってもいるんですよね。

この作品を映画館で2000円払って観る価値があるのか、と言われると、もっと「コスパの高い」映画はたくさんあると思います。
でも、こういう「地味だけど味わい深い映画」が、僕は大好きだし、そういう人たちが、このシリーズを支えているのでしょう。
「呪われた幽霊屋敷」で起こる殺人に関しては、「そんなにうまく狙ったところに落ちるのかよ!」と、『逆転裁判』に対してのようなツッコミを入れたくなりますし、2023年の日本人はそんなの知らないよ……と言いたくなるところもあるのですが、人と人との関係性、みたいなものは、結局、1947年も2023年もそんなに変わらないし、バランスの取れた愛情というのはなかなか成立しないものだな、と考えてしまいます。

あと、「タイトルを言っただけで犯人を思い出してしまうあの超有名ミステリ」を彷彿とさせる演出が散りばめられています。
ネタバレは避けますが、本物の古典ミステリファンなら、この『ベネチアの亡霊』の原作『ハロウィーン・パーティ』もたぶん既読なのでしょう。
僕も原作が気になって検索してみたのですが、かなり改変されているみたいです。


杉江松恋さんの解説です。ネタバレ要素を含むのでご注意ください。
newmedia-prod.cinra.net


ハロウィーン・パーティ』の舞台はベネチアではないそうです。
この映画の「映画らしい豪華さ」は、ベネチアの風景と洋館、ハロウィン人々の様子、そしてキャストですし、観終えて、「まあ、ベネチアの雰囲気を味わえたから料金の元は取れたかな」と僕は思いました。
原作を忠実に映画化していたら、103分ではおさまらないでしょうし、「地味すぎる」ということだったのかもしれませんね。
しかし、ここまで改変してしまうと、クリスティ作品、ポアロ作品と言ってもいいのかどうか。
それでも、「古典ミステリの香り」とともに、「2度の戦争とさまざまな事件をみてきて、神を信じられなくなった」というポアロの述懐は、僕の心にじんわり染み入ってきたのです。

わざわざ他人に薦めはしないけれど、自分はお金を払って観たい、そんな映画でした。
このシリーズ、まだまだ続けてほしいなあ。


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