琥珀色の戯言

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【読書感想】ジェリーフィッシュは凍らない ☆☆☆

ジェリーフィッシュは凍らない

ジェリーフィッシュは凍らない


Kindle版もあります。

ジェリーフィッシュは凍らない

ジェリーフィッシュは凍らない

特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイファー教授を中心とした技術開発メンバー六人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中に、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに、自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が……。 選考委員絶賛、精緻に描かれた本格ミステリ

電子書籍版には第二十六回鮎川哲也賞選考経過および選評が所収されておりませんことをご了承ください。


 この本、昨年の秋に上梓され、さまざまなミステリランキングにも入っていたので、ずっと気になってはいたんですよね。

 オビには、

21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!
選考委員絶賛、第26回鮎川哲也賞受賞作

と書かれていて、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』が大好きな僕としては、ずっと読んでみたいと思っていたんですよね。
 書店で何度か手にとってはみたのですが、「でも、2000円オーバーっていうのは、ちょっと高いな……」とか、登場人物が外国人って設定は、なんか読みづらいな……とか、架空の技術が存在する世界、という設定は、ちょっと感情移入しにくいというか、いくらでも「ズル」ができそうだしな……と思い、「次に機会があったら読むリスト」の上のほうで、ずっと動かず、という状況だったのです。
 今回、Kindle版がセールで安くなっていたので購入して読んでみたのですが、「横文字の名前」や「架空の技術が存在するという設定」に関していえば、読む前に不安視していたほどは、気になりませんでした。
 明らかにアメリカがモデルの国が「U国」になっていたり、日本が「J国」になっていたりするのは、いちおう架空の世界だから、ということなのでしょうけど、正直、そこまでしなくても、とは思ったんですけどね。


 いま、この時代に「ミステリ」を世に問うのは難しいところがあります。
 携帯電話やインターネットのおかげで、そう簡単に「密室」はつくれなくなったし、監視カメラやNシステムで、すぐ「足がついてしまう」時代です。
 この作品は、1980年代のアメリカにものすごく似た「U国」が舞台ということで、「コンピュータも、まだごく初期の融通がまったくきかないものがある程度」なんですよね。
 

 亡くなった女性と、この事件の犯人と思われる、ある人物との交流がところどころに挿入されているのですが、こういうのを読むと「出たな叙述トリック!」と身構えてしまうのが、中途半端にミステリ慣れしてしまった人間の難点です。
 
 
 「21世紀の『そして誰もいなくなった』」と書かれているため、「そのつもり」で、船内の人々やその亡くなり方を読んでいったのですが、うーむ、わからん、誰があの犯人の役割なんだ……
 『そして誰もいなくなった』にとらわれすぎると、この作品を読み解くことは、かえって難しくなるような気がします。
 

 僕のなかでは、叙述トリックとの合わせ技で、乗員のひとりが犯人だろうと推測していましたが、見事に外れてしまいました。
 船内には、6名の遺体があって、鑑識は「全員、他殺で間違いない」とのこと。
 外部からの犯行にしても、現場は閉ざされた雪山。
 

 正直、「よくこんな複雑なトリックを思いついたなあ」というのと「都合のいい偶然起こりすぎ!」というのが、入り乱れる作品ではありました。
 架空の世界・技術が舞台では、リアリティがない、というのを危惧していたのですが、フィクションだからこそ、刺激される好奇心や遊び心、みたいなものもありますよね。
 『そして誰もいなくなった』の状況を他のシチュエーションでつくるとしたら、こういう方法があるんじゃないか、という別解として、僕はけっこう楽しめました。
 

fujipon.hatenadiary.com

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インシテミル (文春文庫)

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(これ、映画は残念なデキですが、小説は面白いです)
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