琥珀色の戯言

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【読書感想】シリコンバレーの金儲け ☆☆☆☆

シリコンバレーの金儲け (講談社+α新書)

シリコンバレーの金儲け (講談社+α新書)


Kindle版もあります。

シリコンバレー型資本主義」の本質は「失敗の肯定」にある!
「日本型組織」では、2020年代の富は生み出せない!
2000年代以降、世界のビジネスモデルは大きく変わった。
20世紀型の資本主義からシリコンバレー型の資本主義へ。
新型コロナで加速するビジネスの新潮流から日本再生の道も見えてくる。

シリコンバレーの盛衰をつぶさに見てきた著者が明らかにする
「お金とハイテクのからくり」

工場が富を生み出す時代からソフトウェアが富を生み出す時代。
そこではお金の動き方も大きく変化している。
2020年代も、その流れは変わらない。
なぜGAFAが隆盛を極めているのか?
なぜ日本は低迷しているのか?

アルゴリズムは現代の金型」「エア風呂敷」
「ソフトウェアが世界を食べる5・5世代」など
わかりやすいキーワードを駆使し、その動きを解き明かす。


 タイトルを見たとき、「これは直球すぎて、なんだか手に取りにくいな……」と思ったのです。「金儲け」ということに関して、なんとなく後ろめたい感じがするのは、いかにも「日本人的」なのかもしれませんが……それでも、最近は僕が子どもだった30年くらい前よりはずっと、「お金の話をすること」への抵抗感は薄れてきてはいるのですけど。

 ちなみに、この本にはシリコンバレーの歴史と、産業構造の変化によって、現在、2020年の「お金を生む仕事や企業」はどのようなものになっているのか、そして、日本はなぜ長期間の経済的な低迷に陥っているのか、が書かれています。

 シリコンバレーがあるカリフォルニアの歴史を辿っていくと、国柄とか土地柄というものには、それなりに理由とか経緯というのがあるのだな、と感心させられます。

 ゴールドラッシュ(1848年)の翌々年、まだようやく人が住み着き始めたばかりのカリフォルニアが、早くも州に昇格します。このとき、カリフォルニアは自由州となることを選択しました。当時、東部では南北戦争前夜で自由州対奴隷州の対立が激化し、両陣営が新しい州を取り合っていましたので、連邦に対して州設立申請をするときにはどちらかを選ばなければなりませんでした。このときカリフォルニアの49er(金を探しにあちこちから集まってきた人)たちは、「奴隷の保有を許せば、一部の金持ちだけが有利になってしまう」として自由州を選んだのでした。
 金儲け主義でありながら、個人の自由や機会平等を大事にする、シリコンバレー文化の主要な柱として、現在まで生き続けている精神です。


 カリフォルニアは、アメリカのなかでも自由や平等を重んじる州なのですが、その伝統は、ゴールドラッシュの時代にさかのぼるのです。
 もともとは「自由な精神を尊ぶ」というよりは「金を探す際に既存の金持ち有利にならないように」という理由だったんですね。

 著者は、時代にともなう「お金を稼げる産業」の変遷を詳説したのちに、現状について、こう述べています。

 製造業的にいえば、「アルゴリズムは現代の金型」であります。これはシリコンバレーで全く無名な私がつくった言葉です。
 私のビジネスモデルの歴史的な分類でいえば、「第4世代(製造業)と第5.5世代(ソフトウェア)が、それぞれの形で「金型効果」を活用した金儲けの方式ということになります。
 さらに、集まるデータ量やユーザー数が多くなればその分、「プロダクト」もよくなり、ユーザーにとっての価値が増える傾向があり、この性質をうまく使えば好循環に入れます。例えば、Googleの検索結果はデータが大量・多量に集まるほど正確になりますし、フェイスブックでつながれる相手の数が増えれば利便性がますます増えます。そうすると、ますますユーザーが増えます。この好循環に入ると、あとから新規参入者が同じことをしようとしても追いつくことは難しくなり、「参入障壁」ができます。ここまで行くと、その企業は盤石な基盤を持つこととなり、安定します。
 この循環に入るために、当初は損を覚悟で安価や無料でサービス料をユーザーから受け取る場合、「無料お試し」部分を大きくしてサービスを体験してもらい、ある程度の使用量や高い機能を必要とするユーザーだけに課金する「フリーミアム」という方式も広く普及しています。
 なお、サービスをどういう形で「マネタイズ(金銭化)するか」については、時期により変遷があります。そもそも、ネットビジネスでお金を受け取るやり方は、おおまかにいって「物販」「広告」「サービス料金(サブスクリプション)」の3つです。このうち、ドットコム時代の「物販」が最初に出現し、その後グーグルやフェイスブックのような「広告」モデルが主流となり、最近ではネットフリックスのように月々の料金を払う「サブスクリプション」モデルが多くなってきています。
 このように、物理的なモノを介さずに、お客さんからお金を受け取る仕組みを使い、「アルゴリズムという金型」を使って富を生み出すというやり方が、「第5.5世代」という最新の金儲け方式です。


 あらためて考えてみると、ユーザー側の意識もだいぶ変わってきているんですよね。
 僕にとってのテレビゲームはパッケージソフトの時代が長くて、「形に残らないソーシャルゲームのガチャに何千円も課金する」なんてもったいない、と思ってしまうのですが、今は、「形として手にとることはできない」デジタルデータにお金を払うことに抵抗を感じる若い人は少ないのでしょう。もちろん、「スマホのゲームには絶対に課金しない」って主義の人はいるとしても。
 そして、ハードが性能的にどれも横並びになっているなかで、ソフトウェア(コンテンツ)の重要性がさらに増してきているのです。
 サブスクリプションモデルによって、「自分ではお金を払って買わないようなもの」でも、「無料なら」と、聴いたり着たり読んだりする、という可能性も広がってきています。
 とはいえ、「使わないけれど、解約するのが面倒でなんとなくお金を払い続けてしまう」というのも、サブスクリプションモデルではよくある話なのです。

 現代の「シリコンバレーの金儲け」は、ベンチャーキャピタルの影響が強まったり、投資先を探すエンジェル投資家が増えてきたり、「お金はあるところには余っている」状況なので、新興企業への投資が積極的になされ、その時期がどんどん早くなり、金額も大きくなっているのです。
 まだ海のものとも山のものともわからないような「アイデアだけ」みたいな起業家たちにも、競って投資されることもあります。

 次にどんな企業が注目され、成長していくのか、を予想するのはかなり難しいのです。
 みんなが「これは成功するだろう」と思うようなことは、すでに誰かがやってしまっていることがほとんどですし。
「そんなの本当にうまくいくの?」というようなところから「お宝」を見つけるのが目利きの仕事なのです。
 「専門的な知識は、かえって視野を狭くしてしまう」と考えている人も少なくありません。

 それでは専門家の意見がまるで無用かというとそれも違います。例えば、詐欺スキャンダルで有名になったセラノス(Theranos)というベンチャーがありました。同社は「指先を針でつついてとった一滴の血液だけで、あらゆる検査ができる技術」を作ったと称して、莫大なベンチャー資金を集めました。専門家から見ると荒唐無稽な話であったにもかかわらず、「破壊的な技術は専門家から見るとダメに見えるもんだ」という風潮もあり、多くの人が創業者エリザベス・ホームズの「人たらし」にやられ、このベンチャーのポテンシャルを信じて投資しました。ある意味での「専門家」ともいえる、大手薬局チェーンのウォルグリーンズもパートナーとなり、店頭で同社の機器を使った検査サービスを始めました。ウォルグリーンズでも、技術担当者は大いに疑問を持っていたにもかかわらず、幹部は「いま自分たちが提携をやめたら、ライバルに取られてしまうかも」という恐怖で、やめられなかったといいます。
 この種の恐怖を、シリコンバレーでは「FOMO(Fear Of Missing Out:バスに乗り遅れる恐怖)と呼びます。結局は、ジャーナリストが事実を暴いて、同社は2018年にシャットダウン、創業者は詐欺で訴えられました。やはり、専門家の意見は聞いておくものです。この件の経緯は、”Bad Blood”という本に詳しく書かれています。


 今の世の中では、「儲かる仕組み」が自分では理解できないものに投資することが珍しくありません。前述したように、投資する側の競争も激しく、お金を出すかどうか判断するタイミングもどんどん早くなってきています。
 セラノスの事業を日本で紹介して、同じような健康ビジネスをやろうとしていた人もいたよなあ……
 僕もセラノスが詐欺だったというのはこの本ではじめて知ったので、偉そうなことは言えないんですが。

 タイトルは「シリコンバレーの金儲け」ですが、要するに「現在のお金を稼ぐシステムの最前線」について書かれた本です。
「お金を増やす」とか「資産運用」とかに興味がある人は、こういう背景を知っておいたほうが良いと思います。次に証券会社の担当者に薦められるのは、セラノスの株かもしれないから。


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