琥珀色の戯言

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【読書感想】スポーツとしての相撲論 力士の体重はなぜ30キロ増えたのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

「決まり手」「体格」「怪我」「指導」「学歴」「国際化」「人気低迷」。7つのキーワードから見えてくる、伝統と変化のはざまで揺れ動く相撲の現在。幕内力士全42人の解説付き!

巨漢同士が身体をぶつけ合って闘うという単純明快な競技、相撲。歴史や伝統、文化的な側面はいったん置いておいて、スポーツとしての大相撲の魅力を知りたくないですか? 平成の間、大相撲の世界は激変しました。力士の平均体重は30キロも増え、決まり手は寄り切りではなく押し出しが中心に。身体を鍛えるために近代的なトレーニングも導入されていく一方、キャリアを左右する大怪我も頻発。そして皆さんもご存知の通り外国出身力士が上位を席巻し、さらに相撲自体が国民的スポーツから数あるスポーツの中のひとつへと変わりました。こうした変化には、必然的な背景があります。それを皆さんに知ってもらうとともに、伝統と進化のはざまで揺れ動く相撲の魅力を感じてもらえたらと思います。いつだって相撲は「今」が一番面白い!


 そういえば、相撲、最近はほとんど観ていないなあ。日本出身力士が優勝したり、横綱大関に昇進しそうになったりすると、スポーツニュースでけっこう採り上げられる印象があるのですが。
 僕自身は、千代の富士の全盛期や、若貴ブームの頃は、けっこう相撲中継を観ていました。
 でも、中継されるのが夕方、まだ仕事をしている時間、ということもあって、21世紀に入ってからは、スポーツニュースの流れで結果を知ることがある、という程度です。
 力士たちの取組よりも、社会的なニュースとしての八百長騒動や暴力事件、コロナ禍でのスキャンダルのほうが、記憶に残っているくらいなんですよね。

 著者は「相撲」というスポーツについて、冒頭でこう述べています。

 ただ、これも「相撲あるある」なのですが、かなり多くの方が小学校高学年から中学生くらいで一度相撲を離れるんです。これは他の競技のほうがカッコよく映ることや、自分でその競技をやり始めることも大きいのですが、相撲のわかりやすさが逆に敬遠される原因になるのではないかと思うのです。あとは、風貌やファッションといった相撲独特の文化が今の若者文化とかけ離れていることも一因です。
 言い換えると、大人になって相撲観戦の世界に戻ってくる方は、相撲を自分の意志で選んでいることになります。髷(まげ)も、まわしも、体格も、相撲独特の文化って2021年を生きる者からするとどう見ても変なんですけど、その変なところこそ大相撲ならではの味であって、逆にそれがなくなったとしたら単なる普通の競技になってしまうわけですしね。敬遠される要素であることを受け入れて戻ってくるのですから、それだけ相撲に対する思い入れが強いということだと思うのです。


 デーモン小暮閣下能町みね子さんのように、「子どもでも高齢者でもない好角家(こうかくか:大相撲ファンのことをこう呼ぶのです)」もおられますし、ネットでも、力士の意外な素顔、なんていうのがけっこう話題になることがあります。
 著者も指摘しているのですが、1年中、幕内以降の全取組が、地上波で放送されているというのは、いまのスポーツ中継のなかでは、きわめて異例でもあるのです。
 病院で働いていると、大相撲と甲子園の高校野球を楽しみにしている人の多さに驚かされるのです。
 僕もそろそろ50代に突入するわけですが、昔から相撲を観ていた人たちがずっと観続けているのか、年を重ねると相撲に興味がわいてくるのか謎なんですよ。これからの僕が相撲好きになるとは、ちょっと思えないところもあって。でも、60代、70代になっても、病室でYouTubeを観ているイメージも湧きにくいのだよなあ。

 では本書が何にフォーカスしているのかと言えば、2021年の大相撲。「スポーツとしての大相撲」です。大相撲がスポーツとして現在どのような状況なのか。力士の実態はどのようなものなのか。そして何かと取りざたされている数々の問題や課題について取り上げる構成となっています。
 大相撲というと90年代のイメージを持たれている方が多いのですが、当時から30年近く経過するとイメージとは異なる実態があります。例えば昔は中学を卒業するとすぐに相撲部屋に入門する流れが一般的でしたが、今では高卒や大卒の比率がかなり高くなってきています。そして、入門年齢が上がることによって力士のトレンドも変わってきています。大相撲は世の中のトレンドとは異なる世界のようでいて、実はその影響を強く受けているのです。
 他にも例を挙げると、今の大相撲は外国人力士が中心という認識を持たれているかもしれませんがこれも少し違いますし、組んで寄り切る相撲が大勢という傾向も劇的に変わってきています。スポーツ界全体で起きている体格向上の波についても大相撲独自の背景から進行していますし、怪我への対応についてはむしろ前時代に戻るという決断をしている側面もあります。


 この新書の特徴は、相撲好きが、相撲好きのために、マニアックな話をする、というのではなく、最近、相撲から離れていた人たちに、相撲界の現状をデータを用いて、わかりやすく説明している、というところにあるのです。

 近年の大相撲では、外国人(外国出身)力士ばかりが活躍している、と僕は思っていたのですが、そんなイメージに対して、こんな解説がされています。

 大相撲には2021年1月現在676名の力士が在籍しており、その中で十両以上の力士は70名。上位10.7%に入る力士が優秀で、待遇も一人前とされますが、幕内に所属する外国出身力士(日本国籍を取得した力士もいるためこの呼称とします)は11人、十両は3人です。幕下7名、三段目4名、序ノ口1名なので、割合では53%が優秀な力士と言えます。
 対する日本出身力士は幕内が31名、十両は25名。幕下が113名、三段目は196名、序二段が218名、序ノ口56名、前相撲と番付外を合わせて11名。日本出身力士の十両以上の比率は8%ということで、外国出身力士と比べると大きく水をあげられている状態です。優秀な力士の割合で見ると外国出身力士のほうが圧倒的に多いのが実情ですが、果たしてこの差はいったいどこから来ているのでしょうか。

 実は、大相撲には野球などで言うところの「外国人枠」が存在します。
 大相撲では力士が必ず「部屋」に所属し、コーチ役である親方と衣食住を共にしているのですが、外国出身力士は部屋に1名しか所属することができません。なお、仮に日本国籍を取得しても枠は増えません。例外として、所属部屋の閉鎖などで移籍するケースがあり、この場合は外国出身力士が所属する部屋に移籍することも可能です。そのため、外国出身力士は入門の枠自体が非常に少ないのです。
 なお、この「外国人枠」については元々無制限で、一つの例としては1975年当時、朝日山部屋には6人のトンガ人力士が所属していました。しかし親方の逝去に伴い先代親方の夫人と後継親方との間で確執が起き、全員廃業するといういわゆる「トンガ騒動」がありました。
 その後1992年には1部屋2名以内、大相撲全体で40名に変更され、2002年からは1部屋1名までに、さらに2010年には外国人枠から外国出身力士枠へと変更されることになりました。


 僕が、「外国人力士ばかりが活躍している」とずっと思っていたのですが、大相撲では「外国人枠」がつくられ、人数も制限されてきているのです。
 プロ野球と同じように、「外国人枠」があるので、日本人力士と比べれば、入ってくる段階で選抜され、より優秀なアスリートばかりになるので、活躍する割合が高いのは当然なのです。プロ野球で、外国人選手の活躍が目立つのと同じですよね。

 著者は、外国出身力士が上位を席巻していたのは実は過去の話だと指摘しています。

 外国出身力士として上位に残っているのはベテランの白鵬鶴竜(引用者注:2021年3月に引退)、そして中堅の照ノ富士という構成です。つまり、20歳前後の外国出身力士の若手が今のところ、かつてほど上位で活躍していないのは重要なポイントだと思います。


 白鵬が長年相撲界の大黒柱として活躍しているがゆえに、「外国出身力士がずっと強い」イメージがあるのですが、あらためて考えてみると、白鵬が強すぎるのだとしても、白鵬にとってかわるような外国出身力士もまた、長い間出てきていないのです。
 諸外国でも、運動能力にすぐれた若者は、あえて日本で相撲に挑戦しようとは思わなくなっているようです。もう、日本の経済力もそんなに強くはないですし。


 力士の大型化、体重増加についても、データに基づいて検証されています。

 大相撲でも上位力士の体重は増加傾向にあります。大相撲のトップである幕内力士の平均体重は2018年時点で164㎏です。数字だけを見るとあまり想像が付かないでしょうけれど、50年前と比較すると平均体重が30㎏も増えています。
 昔の大相撲を観ていると、今とは力士の体格が大きく違うことを感じさせられます。輪島と貴ノ花の引き付けあいや北の富士のかばい手といった取組はちょうど50年ほど前ですが、細身の力士がスピーディーに動き回る展開は今の大相撲と質が異なることに気づかされます。


 ただし、大きければ大きいほど良いのか、というと、あまりに大きく、重くなりすぎるとスピードが失われてしまって相手についていけなくなったり、病気やケガのリスクが高くなる、というデメリットもあるのです。

 現在の幕内は基本的にはある程度体重がなければスピードとパワーを両立できないので、生き残っていくには難しいということです。逆に、140㎏程度あればそこまで不利ではないというデータも存在しています。
 体重比別の勝率を算出したところ、1.5倍までは重い側の勝率が約52%でした。しかし、これが1.5倍~1.7倍になると重い側の勝率が55%にまで上昇するのです。およそ140㎏ある力士なら210㎏までは1.5倍の範囲に収まるので、数字上はそこまで不利になりません。
 逆に言えば、220㎏ある力士からすると140㎏程度の力士には相性が良いのですが、相手が150㎏まで上がってしまうと勝率的にはそこまで優位に立てないことになります。最低限の体重があることは、規格外の力士と闘うための条件を満たすことになると言い換えられるのではないでしょうか。


 ちなみに、白鵬鶴竜(2021年3月に引退)の両横綱は平均体重を下回っているそうです。
 あまりに軽いと不利ではありますが、52%とか55%という数字をみると、大きいから、というだけで、圧倒的に有利にはならない、ということみたいです。
 当事者にとっては、少しでも有利に越したことはないのでしょうけど、そんなものなのか……というのが僕の実感でした。

 こういう、データに基づいた話がたくさん紹介されているのです。
 相撲って、「相撲道」みたいな精神論か、個性的な力士のエピソードで語られることが多くて、「スポーツ、競技としての相撲の解析」は、あまり積極的に行われていないイメージがあるのですが、こういう切り口があるのか、とすごく新鮮でした。
 あらためて考えてみれば、「スポーツ」であるのなら、こういうスタンスはあってしかるべきなんですよね。

 巻末には、著者による、この本の執筆時の全幕内力士の解説もあって、個性的な力士たちのエピソードを読み、久しぶりに相撲中継を観たくなりました。

 ずっと相撲が大好き、という人よりも、「子どもの頃は夕方の相撲中継を毎日観ていたけれど、もう何十年も観ていないな……」という人に読んでみていただきたい。
 昔相撲好きだった人が読むと、また相撲に興味がわいてくる、そんな本だと思います。


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