2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義 (星海社新書)
- 作者:瀧本 哲史
- 発売日: 2020/04/27
- メディア: 新書
「君たちは、自分の力で、世の中を変えていけ!
僕は日本の未来に期待している。支援は惜しまない」2019年8月に、病のため夭逝した瀧本哲史さん。ずっと若者世代である「君たち」に向けてメッセージを送り続けてきた彼の思想を凝縮した"伝説の東大講義"を、ここに一冊の本として完全収録する。スタジオ収録盤にはないライブ盤のように、生前の瀧本さんの生の声と熱量の大きさ、そしてその普遍的なメッセージを、リアルに感じてもらえると思う。さあ、チャイムは鳴った。さっそく講義を始めよう。瀧本さんが未来に向けて飛ばす「檄」を受け取った君たちは、これから何を学び、どう生きるべきか。この講義は、君たちへの一つの問いかけでもある。
目 次
第一檄 人のふりした猿にはなるな
第二檄 最重要の学問は「言葉」である
第三檄 世界を変える「学派」をつくれ
第四檄 交渉は「情報戦」
第五檄 人生は「3勝97敗」のゲームだ
第六檄 よき航海をゆけあとがきにかえて(星海社新書初代編集長 柿内芳文)
瀧本哲史全著作紹介
2019年8月に、47歳の若さで亡くなられた瀧本哲史さん。
この本は、その瀧本さんが、2012年に東京大学で行った講義を書籍化したものです。
僕はこれまで瀧本さんの著書を何冊か読んできました。
この本を読むと、瀧本さんの「若者を応援したい」「世界を少しでも良くしたい」という熱意が伝わってくるのです。
講義の様子をそのまま収録しているので、ライブ感がありますし。
僕がもし20歳くらいで、この講義の場にいたら、いや、この本を読んでいたら、人生、ちょっと今とは変わっていたんじゃないかなあ、と思うのと同時に、このときの瀧本さんは40歳で、今の僕よりもずっと若かったのに、「次の世代」のことをこんなに考えていたのか、と驚かされます。
みなさん、パラダイムシフトって言葉、聞いたことありますよね?
パラダイムチェンジとも言うかもしれませんが、要は、それまでの常識が大きく覆って、まったく新しい常識に切り替わることです。
最近では、スマホが登場してガラケーに取って代わったことなんかは、典型的なパラダイムシフトでしょう。
一般的な用語として広まっていますが、でもこれ、もともとは科学ジャンルの言葉で、トーマス・クーンという科学史の学者が『科学革命の構造』という著書の中で使い始めたものなんですね。
たとえば、超有名な天動説から地動説への大転換があるじゃないですか。ガリレオ・ガリレイとかの。
あれって、どうやって起きたと思います?
どういうふうに、みんなの考え方がガラリと変わったんだと思います?
じゃあ、そこの方。はい。
生徒1「学会とかで議論して、認められた?」
なるほどなるほど、非常に良い答えですね。ありがとうございます。
他にいますか? はい、あなた。
生徒2「古い学者がみんな死んじゃって……」
そう、そう。そうなんですよ。
クーンはですね、地動説の他に、ニュートン力学やダーウィンの進化論など、科学の歴史上で起きたいろんな科学革命を調査・研究した結果、たいへん身も蓋もない結論に達してしまったんですね。
ふつうに考えれば、天動説を超えるような人に対して、地動説の人が「こうこう、こういう理由で天動説は観察データから見るとおかしいから、地動説ですね」って言ったら、天動説の人が「なるほどー、言われてみるとたしかにそうだ。俺が間違ってた。ごめんなさい!」っていうふうに考えを改めて地動説になったかと思うじゃないですか。
でも、クーンが調べてみたら、ぜんぜん違ったんですよ。
天動説から地動説に変わった理由というのは、説得でも論破でもなくて、じつは「世代交代」でしかなかったんです。
つまり、パラダイムシフトは世代交代だということなんです。
つまり、「天動説の権威たちが亡くなったり、引退したりしてはじめて、地動説が優位に立った」ということなんですね。
こういう話を聞くと、僕などは、「それじゃあ、既成の権力の前では、どんなに正しいことを言ってもやっても無駄なんじゃない?」って思うんですよ。
でも、瀧本さんは、若者たちに、この身も蓋もない話をしたあと、こんなふうに述べているのです。
でもこれ、逆に考えると、めちゃくちゃ希望だと思いませんか?
「世の中を変えたい」と考える人はいつの時代も多いですけど、なかなか世の中って思うようには変わらないですよね。選挙に行って一票を投じても変わった実感はぜんぜん得られないし、努力して上の世代の考え方を変えようとしても、徒労に終わるばかりです。
で、そこで「やっぱり世の中は変わらない」って諦めちゃう若い人も多いんですが、みなさんが新しくて正しい考え方と選べば、最初は少数派ですが、何十年も経って世代が交代さえすれば、必ずパラダイムシフトは起こせるってことなんですね。
つまり、世の中が変わるかどうかっていうのは、若者であるみなさんとみなさんに続く世代が、これからどういう選択をするか、どういう「学派」をつくっていくか、で決まるんですよ。
たしかに時間はかかりますけど、下の世代が正しい選択をしていけば、いつか必ず世の中は変わるんです。
だから僕は、おじさん、おばさんたちではなく、わざわざ次世代に向けて、メッセージを送っているわけです。
ただ、瀧本さんは、この講義のなかで、「これが正しいことだ」という話をされているわけではないのです。
むしろ、他者が「正しいこと」として押し付けてくることに対して、疑問を持ち、流されない姿勢を持ち続けてほしい、そして、自分の意見を聞いてもらうための交渉術を身に着けろ、と繰り返しているのです。
本にも書きましたが、仏教には「自燈明(じとうみょう)」という言葉があります。開祖のブッダが亡くなるとき、弟子たちに「これから私たちは何を頼って生きていけばいいのでしょうか」と聞かれて、ブッダは「わしが死んだら、自分で考えて自分で決めろ。大事なことはすべて教えた」と答えました。
自ら明かりを燈せ。つまり、他の誰かがつけてくれた明かりに従って進むのではなく、自らが明かりになれ、と突き放したわけです。
これがきわめて大事だと僕は思いますね。
瀧本さんの講義を僕なりにものすごくシンプルにまとめてしまうと、「自分で考える力を身につけよう」「自分の人生は、自分で責任を持って生きよう」ということなのだと思います。
こういう話って、そこらへんのオッサンにされても、「ふーん」って感じですよね。
ところが、この本を読み、瀧本さんの熱に触れると、瀧本さんと同世代の僕でさえ、「自分も何かやってみよう」「次世代のためにできることがあるのではないか」という気がしてくるのです。
瀧本さんは、「熱意」だけではなく、「他者に話を聞いてもらう技術」も併せ持っていたのだなあ。
生徒18「大変ためになるお話、ありがとうございました。私、都の西北ではないものの、大学で5回ほど浪人やら留年しておりまして、もうダメなんじゃないかと思っていたんですが。さきほど、かなりキツめなご回答がありましたが、私は『盗まれたら困るようなものを武器にしていてはどうしようもない』ということなのかと解釈したんですが、逆に『盗まれないもの』というのは、どういうものがあるんでしょうか?」
それはね、その人の人生ですよ。
「オーディオブック事業を始めます。それは、僕のおじいさんが緑内障だったからです」って、誰にも盗めないじゃないですか。自分のおじいさん、ピンピンしてるかもしれないですし(笑)。
だから、その人が過去に生きてきた人生とか、挫折とか、成功とか、そういうものは盗めないんですよね。
たとえば僕も、アカデミック・バックグラウンドの経歴があって、それなりに法学とかに詳しくて、一方でリスクが高そうなベンチャービジネスにも投資しているという、わけのわからないキャリアを経ているから、京都大学の今のセクションからお声がかかったんです。
今、日本中の大学でポスドクがとてつもなく余っていて、みんな就職先がないのに、任期つきとはいえフルタイムで准教授で入れた、しかも学士しか持っていないって、ふつうはあり得ないですよね? 何か陰謀でも働いたのかって思いますよね?(笑)
でもじつはそうじゃなくて、僕みたいな経歴の人間が他に誰もいなかったってことなんですよ。
なので、「その人にしかないユニークさ」というのが、いちばん盗めないと思います。
どんな人生でも、自分自身にとっては不本意なものであっても、考え方、使い方によっては、自分だけの武器になりうる、ということなのです。
僕も20歳のときにこの講義を受けてみたかった、と心底思います。
だからこそ、いま20歳の人に、この本を読んでもらいたい。
2020年、瀧本さんが生きていたら、6月30日にどんな顔をして、みんなを迎えてくれたのだろうか。
この本に書かれていることは、瀧本さんがいなくなっても、ずっと生き続けていくはずです。
むしろ、瀧本さんは、自分がいなくなったあとのために、この講義を遺したような気がするのです。