琥珀色の戯言

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【読書感想】ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
1968年、7歳の少年はテレビで放映されていた「ウルトラセブン」最終回に衝撃を受ける。主人公のダン隊員がアンヌ隊員に自分の正体を告げる瞬間、オーケストラとピアノ・ソロの感動的な音楽がかかるのだ。この曲はなになのか?誰がいつどこで弾いたのか?それを突き止めるまでの7年の彷徨を振り返りながら、そのプロセスを経て、クラシック音楽鑑賞の醍醐味を知るまでを感動的に描く。


 僕は著者より10年くらい年下なのですが、この本を読んでいると、自分がまだ小さかったころ、テレビの音をラジカセでテープに録音し、聴いていたことを思い出しました。
 あの頃に比べたら、聴きたい曲をいつでもダウンロードできたり、少額での聴き放題サービスがあったりする今の時代というのは、夢みたいですよね。
 

 そして(モロボシ・)ダンは、ついにアンヌに自分の正体を明かす。ここからがクライマックス、ラストの8分強だ。


ダン:「僕は……僕はね、人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」


 その瞬間、映像が反転、「二人がシルエットになり、背景に銀の光が煌めく。同時に、それまで流れていた弦、ホルン、トランペットなどによるゆったりとした調べの「ウルトラセブン」のオリジナル音楽、M34「ダンの思い出」(オリジナル音源に付されたMナンバーとタイトルの出所については第2章冒頭で詳述する)が突如止み、シューマン作曲のピアノ協奏曲第1楽章の冒頭部分が衝撃的に鳴り響く。


(中略)


 そしてここからラストまで、ウルトラセブンの最後の戦いと、アンヌや隊員たちとの別れのバックには、このシューマンの第1楽章と「ウルトラセブン」のオリジナル音楽とが織り成すように流れていくのだ。場面と音楽について詳述していこう。


 僕は『ウルトラセブン』を再放送で観たのですが、ウルトラマンシリーズのなかでも、哲学的というか、かなり大人向けだと感じられるテーマの回が多い作品だったと記憶しています。
 そのころの僕は、やたらと背伸びしていて、セブンの「重さ」が大好きだったのです。

 「最終回」というのは大概の作品で感動的で記憶に残るものなのですが(子どもの頃に見たなかで、忘れられないのは『ハクション大魔王』です)、『ウルトラセブン』は、この「ダンの告白」から、ボロボロになりながらの最後の戦いまで、身じろぎひとつできないような緊張感がありました。
 このダンのセリフひとつを読んだだけで、そのシーンが頭に浮かんできます。

 著者は、この最終回と、そこで流れていた音楽に魅了され、その後、7年間にわたって、「あの場面で流れていたクラシック音楽」を探し続けました。
 そして、これがきっかけで、音楽を生業にしていくことになったのです。


 もし、今の時代だったら、Twitterなどで、「『ウルトラセブン』のラストに流れてくるクラシックの曲名教えて!」と尋ねれば、誰かがすぐに「答え」を教えてくれるはずです。
 ところが、1968年は、50年後にそんな時代が来るなんて想像もつかず、好きな音楽を聴くには、レコードを買うか、ラジオやテレビの音楽番組にリクエストし、それをカセットテープに録音するしかありませんでした。
 「あの音楽」をずっと探していた著者は、お母さんが観ていたテレビ番組で「最終回の曲」が流れているのを聴いて、「シューマンのピアノ協奏曲」であることを知ります。ところが、それだけでは終わらない。著者はレコード店で見つけたその曲のレコードを買って聞くのですが、どうもしっくりこない。

 ようやく手に入れたシューマンのピアノ協奏曲。あの感動の音楽。家に帰り、リビングのステレオに盤を乗せ、針を下す時間ももどかしく、レコードをかけ、音を待った。……だが、ふくらみきった期待は、またたく間に失望へと変わった。
 違う……同じ曲なのに違う。あれじゃない。似ても似つかない。
 シューマンのピアノ協奏曲冒頭のピアノ・パートは、こうなっている(譜例7)。
 もちろん同じ楽譜を使って同じ音を弾いているのだが、「ウルトラセブン」の最終回のシューマンの冒頭は文字にすると、
「ジャン! ダダーンダダンダダンダダンダダンダダンダダンダダンダダン、ダン、ダン!」
 という嵐のような勢いなのに、このレコードでは、
「シュワン……ポロン……ポロン、ポロン、ポロン、ポロン……」
 と、なんだか枯山水を見ているような感じだ。そんなことがあるのか。たしかにあの曲なのに、別の音楽だ。


 その後、しかたなくこのレコードを何度も聴いた。これがあの最終回の音楽だ。実際あれなんだ、と思い込もうとした。しかし、まったくこの演奏に慣れることはなかった。それほど最終回の音楽のインパクトが強烈だったのだ。再放送で何度か聴いていたことに加え、カセットテープでも繰り返し聴いたことで、やはり演奏ごと自分のなかに定着していたのだ。
 絶望的な気分になった。せっかく親に高いお金を出してもらって最終回の音楽を手に入れたのに、それは、同じ曲なのに違う音楽だったのだ。せっかく、ここまでたどり着いたのに……。
 しかし後々から考えると、このとき自分はクラシック音楽の本質を知ったのだ。


クラシック音楽は、同じ曲でも演奏によってまったく違う表情となる」


 結果的に、この回り道があったからこそ、著者はクラシック音楽の奥深さに惹かれていった、とも言えます。
 もし、簡単に目当てのものが見つかっていたら、すぐに興味をなくしていたかもしれません。
 「目的のシューマン」にたどり着くまで、さまざまな指揮者、ピアニストによる演奏を聴くことによって、「違い」を実感していったのです。
 「あの『ウルトラセブンの最終回』のシューマン」という「お手本」があったからこそ、比較がしやすかった、という面もあるのでしょう。
 ある程度、自分のなかに「基準」がないと、何かを評価するのは難しい。

ウルトラセブン」の最終回で初めてあの音楽を聴いてから、それがシューマンのピアノ協奏曲であり、演奏がカラヤン指揮、リパッティのピアノによる1948年録音のものであることがわかるまでに、じつに7年が経過していた。
 そしてこの7年で、僕はすっかり感覚で理解していた。


クラシック音楽は、同じ曲でも演奏によってまったく違う表情になる。そして、同じ演奏者でも同じ演奏は二度とない」


 僕はクラシック音楽には全然詳しくないし、この本に出てくる譜面はチラッと眺めてすぐ次に進んでしまっていたのですが(見てもわからないので)、それでも、著者の「クラシックにハマるまで」の話には引き込まれてしまいました。
 正直、『ウルトラセブン』が題材になっていて、印象的な回のあらすじが紹介されているだけで、満足してしまいました。

 『ウルトラセブン』とクラシック音楽に興味がある人、とくに、『ウルトラセブン』好きにとっては、たまらない本だと思います。音楽に関する本なのですが、読んでいると、『ウルトラセブン』のDVDを借りに行きたくなって、居ても立っても居られませんでした。

 

DVDウルトラセブン 全12巻セット

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  • 発売日: 2006/08/25
  • メディア: DVD

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