琥珀色の戯言

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【読書感想】戦略がすべて ☆☆☆☆


戦略がすべて (新潮新書)

戦略がすべて (新潮新書)


内容(「BOOK」データベースより)
ビジネス市場、芸能界、労働市場、教育現場、国家事業、ネット社会…どの世界にも各々の「ルール」と成功の「方程式」が存在する。ムダな努力を重ねる前に、「戦略」を手に入れて世界を支配する側に立て。『僕は君たちに武器を配りたい』がベストセラーとなった稀代の戦略家が、AKB48からオリンピック、就職活動、地方創生まで社会の諸問題を緻密に分析。我々が取るべき選択を示唆した現代社会の「勝者の書」。


 もしあなたが、自分にある程度自信を持っていて、これから競争のなかで生きていこうとしている若者であれば、この新書に目を通しておいたほうが良いのではないかと思います。
 もう、ある程度居場所が定まってしまった大人にとっても、「目から鱗が落ちる」ような言葉が詰まっているのですけどね。
 これを読んでいると、著者のあまりの頭の良さに、圧倒されてしまいます。
 「賢い人による、賢い人のためのアドバイス」という感じです。


 この新書を読むことによって、僕がいままで、「なんだか不公平だよなあ」「どうしてそんなふうになっているのだろう?」と疑問だったことに対して、かなり明確な解答を得られました。

 まず、大企業と中小企業では構造的に「給与格差」が存在していることが広く知られている。しかしなぜ会社の規模で給料に格差が生じるのだろうか。
 大手不動産会社に勤めるAさんと中小不動産会社に勤めるBさんを比較してみよう。
 不動産業では、会社の規模によってそれほど必要とされるスキルが違うわけではない。いや、むしろ中小企業のほうが競争が激しいため、Bさんのほうが、よりスキルが高いかもしれない。しかしながら、大手社員のほうが往々にして給与は高い。
 この理由は極めて簡単である。マクロで見れば、従業員一人当りの「付加価値額(生み出した利益の額)」が、大手不動産会社のほうがはるかに高いからだ。
 大企業では一人の社員がより多くの資金と不動産を扱っているので、大手不動産会社と中小不動産会社とでは一人の社員に割り当てられている「資源量」が大きく違う。社員の資源に対する利益率があまり変わらないのであれば、大企業のほうがより容易に利益を上げることができる。逆に小さな資金と不動産しか扱っていない中小企業は利益が上げにくい構造である。
 これは不動産業だけではなく、多くの産業で同じ構造が存在する。

 そうか、そうだったのか……
 同じような仕事をしているのに、なぜ大企業のほうが給料が高いことが多いのか。
 大企業のほうが社員一人あたりの「資源量」が多いため、生み出す利益も大きくなりがちだから、ということなんですね。
 より多くの資源を配分してもらえる、ということを考えれば、大企業に就職するメリットというのは大きいのです。
 独立したり、人数が少ないベンチャー企業に就職すれば、自分の取り分が多くなりそうな気がするけれど、それは「資源量」を減らしてしまうリスクが高い行為です。
 著者は「結局のところ、スキルの高低というよりも、もともと社員に与えられている資源量で給与差がついているというほうが説明をしやすい」と述べています。
  
 
 また、「オリンピックでメダルを増やすにはどうすればいいか」という問いに対しては、このような解答を提示しています。
(この「オリンピックでメダルを増やす方法」というのは、コンサルティング会社の採用面接でよく出題される問題だそうです)

 それでは、オリンピックにおける正しい戦略とは何か。端的に言えば、「メダルがとりやすい競技を見極め、そこに資源を集中して投入する」ということになる。
 実はオリンピックではメダルをとりやすい競技ととりにくい競技がある。
 たとえば、水泳や陸上はメダルがとりやすい。というのも、一人の優秀な選手がいれば、距離や種目の違いで複数のメダルをとることが可能であり、効率が良いのだ。逆に柔道のように体重別の競技だと、優秀な選手でも一種目しかエントリーできず、階級ごとに別の選手を育成しなくてはいけない。チャンスが増えるようでいて、限りあるリソース(資源)が分散してしまうのだ。
 また、マイナー競技も狙い目である。サッカーやバスケットボールのように、世界的に人気があり、プロ選手が多数参加するような競技は、競技レベルが非常に高く、多少の力をつけたところでメダル獲得は難しい。一方でマイナー競技であれば、選手の人数も少なく、競技水準も相対的に低い。こちらを集中して育成すれば、比較的メダルレベルまで持っていきやすいと考えられるのだ。
 実のところ、ロンドンオリンピックでも、日本の38のメダルはわずか13競技でとったものだ。これは実施された競技の半数でしかない。これには、フェンシング、アーチェリー、バドミントンなど、比較的マイナーな競技も含まれていた。
 しかしこれこそが、日本が最多のメダル数をとれたキーポイントでもある。一つの競技で集中してとること。勝てる土俵で徹底的に勝負した結果だ。

 同じ「メダル」でも、人気競技で獲るのと、マイナー競技で獲るのとでは、話題性に差があります。
 数だけたくさんあれば良い、というものでもなさそうな気がします。
 でも、オリンピックでは「国別メダル獲得数」などで、「個々の競技の人気や影響力は関係なく、メダルの総数で比較されること」が多いのも事実なんですよね(日本人は、あの「国別メダル数」の比較が大好きだ、という話も聞いたことがあります)。
 個人的に興味を持っている競技や人気がある競技への思い入れを捨てて、「大局的な判断」をするべき状況も出てくるのです。


 あと、「ネットで、なぜわざわざ『炎上』するようなことを書く人がいるのだろうか?」という問いに対しては、こんなふうに答えておられます。
 一時的に来る人の数を増やして、広告収入を期待する、というのはアリかもしれませんが、「焼畑農業的」であり、そんなに長続きはしないでしょう。
 しかし、メールマガジンなどで、契約者への課金によって収入を得ている人にとってのは「炎上」は、自分へのイメージを悪化させるリスクが高すぎるような気がします

 ところが、実は有料課金型でも、「炎上」型コンテンツは有効である。
 たとえば個人が用意する有料コンテンツ、たとえば会員制ブログは、その質・量に比べて料金が割高であることが少なくない。実際、ネット上でもっと質の高いコンテンツを無料で見つけることは可能だし、既存メディア系の有料コンテンツなら質・量はずっと上だ。
 そんな個人の有料コンテンツを買う人間というのは、極めて少数の「信者」に近い読者だ。彼らは「炎上」するような過激なコンテンツをむしろ好ましいと考える。このような「特殊」な読者のコミットメントによって有料コンテンツは支えられている。
 電話での振り込め詐欺やネットの詐欺メールなどでは、話があまりにも不自然だったり、文章が少しおかしかったりすることが多い。しかし、こうした犯罪に詳しい人によると、実は普通の人が騙されないような文章を送ることは、「騙されやすい普通じゃない人」を抽出するための手段だという。もし、詐欺の途中でこれはおかしいと気付かれ、警察に届けられたりすると、詐欺師としては不都合だ。むしろ、最後まで騙し続けられる「カモ」を探すには、最初の段階で明らかにおかしいものを提示し、それでもおかしいと思わない人を選び出す必要がある。
 これと同じように、競合優位性がないコンテンツにお金を払う人を見つけるためには、最初の段階で明らかに「炎上」するようなコンテンツを提供し、それを批判するのではなくむしろ呼応するような読者だけを、効率的に探し出す必要がある。
 そして、そのような読者にとっては、多くの人の批判されても自分の意見を曲げない筆者はある種「殉教者」であるから、逆に信仰の対象となるのだ。かくして、「炎上」を好む読者は、有料課金型のコンテンツビジネスにとって、良い潜在顧客になるのである。


 詐欺メールって、なんであんなにワンパターンなんだろう、あんなので騙される人なんているのだろうか?
 もっと多くの人が騙されてしまうようなやり方もあるんじゃないか、と思っていたのです。
 これを読むと、むしろ「あえて、客観的にみればおかしい内容にして、あれで騙されるような人を選別している」のだなあ。
 限られた数の「信者」に有料コンテンツを買ってもらうためには、万人向けの当たり障りのないコンテンツよりも、少人数にでも「熱狂的に支持される」ほうが良いんですね。
 たとえ、「信者」以外からは、大バッシングをされることになっても。


 僕は「戦略的」な人生を送ってこなかったのですが、この新書に書かれているような「考え方」は、これから生きていく若者にとっては、すごく役に立つと思うのです。
 即効性はないかもしれないけれど、これからの人生のどこかで、「あの新書を読んでおいてよかった」と感じることがあるんじゃないかな。

 

僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい

 

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