琥珀色の戯言

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【読書感想】探偵の現場 ☆☆☆☆

探偵の現場 (角川新書)

探偵の現場 (角川新書)


Kindle版もあります。

探偵の現場 (角川新書)

探偵の現場 (角川新書)

内容紹介
10年前は男性依頼者が1割だったのに対し、現在では4割超が男性依頼者へと変わっている。時代や社会の変化とともに、依頼内容や調査方法にも変化が。獲物は絶対に逃がさない、探偵の調査実録。


 著者は総合探偵社MRグループの創業者で、現在もMRの代表取締役社長を務めておられます。
 「探偵」というと、ホームズやポアロといった「名探偵」や、フィリップ・マーロウのようなハードボイルドに出てくるタフな私立探偵を思い浮かべてしまうのですが、少なくとも、今の日本では、探偵の主な仕事は、難事件の解決ではありません。
 探偵の仕事というのは、2007年に施行された「探偵業法」で定義されるようになったそうです。

 依頼案件の内容を分析しますと、やはり圧倒的に不倫・浮気の調査が全体の70%以上を占めています。なぜなら依頼者たちは、パートナーの不貞の証拠を手に入れ、いざという時(離婚を決意した時)のために備えておきたいという動機から、探偵社を訪ねるケースが多いからです。


(中略)


 私が会社を立ち上げた2003年当時は、不倫・浮気調査の依頼は、圧倒的に妻である女性からの案件がほとんどを占めていました。夫である男性からの依頼は、一割程度に過ぎませんでした。
 しかし、女性の社会進出が進むにつれ、夫である男性からの依頼が増加し、現在ではおよそ四割になっています。こうしたデータは、女性が外で働くようになると新しい出会いも増えて、不倫に走る既婚女性が増えた証しと言えます。


 この本のなかで、著者は、MRグループがこれまで行ってきた浮気調査のさまざまなデータを紹介しています。
 「あやしい」ということで調査を依頼され、引き受けた例では、実際に浮気。不倫の証拠がみつかったケースは約92%!
 依頼者が明らかに妄想にかられているような事例ではお断りしているそうですが、それにしても、高い確率ですよね。逆に、「浮気していなかった、潔白であった」のは2%弱。調査に必要だった期間のなかでもっとも割合が高かったのは2~3日で、プロが調べると、数日で、確実な証拠(メールや一緒に食事をしている、という程度では「有用な証拠」にはならず、実際にホテルに連れだって入ってきたり、出てきたりしている場面の写真じゃないと「確実な証拠」とは言えないそうです)を掴まれてしまうのです。
 そして、調査結果、浮気・不倫が発覚した場合でも、とりあえず、70%くらいは、婚姻関係の継続を選択するのだとか。
 ネットで有名人の不倫が報じられると、「これはもう別れるしかない!」みたいな意見がコメント欄で支持されがちなのですが、自分のこととなると、そう簡単にはいかない、というのも現実のようです。
 ちなみに、MR社では、調査後のアフターケアも重視していて、カウンセラーや離婚に強い弁護士も紹介してくれるそうですよ。
 いやもうなんというか、「探偵の現場」というが、「日本の浮気・不倫の現状」という感じの本で、もっと「探偵の尾行や張り込み、情報収集のテクニック」が紹介されているのかと思っていました(もちろん、そういう話にもページは割かれているのだけれども)。

 それにしても、男女の関係というのは、不思議というか、わからないものではありますよね。
 ビートたけしさんの離婚・再婚や、野村克也さんと野村沙知代さんとかをみていると、どんなに賢い人でも年をとってから新しいパートナーにのめりこんでしまうこともあるし、「なんでこんな性格がきつそうな人と……」と僕が感じる人と居心地よく過ごしていることもある。

 この本のなかでは、著者が、いままで調査してきた事例のなかで印象に残ったものを(もちろん、ぼかしながら)紹介しています。

 夫と不倫相手との接触は、すぐに現場を押さえることができた。相手も妻のセツコさんと同じ40代で、見た目は髪が長くミニスカートでお色気ムンムンという感じだった。不倫相手の女は、夫と一緒にいる時は、やけに甲斐甲斐しく接していた。
 その時の映像を撮影することができたが、女の様子からこれは危険な人物ではないかと探偵たちもすぐに感じたという。
 不倫相手の女は、一体どんな人物なのか。まずはそこから明らかにしようと、探偵たちが聞き込み調査を行ったところ、なんと結婚・離婚を七回も繰り返していることが判明。しかも、いずれの結婚相手でもない、別の男性との子供がいることも分かった。その経歴からしても尋常な女ではない。調査を進めていく中で、この女と過去に結婚していた元夫の一人を探し出し、話を聞くことができた。すると、彼もまた散々な目に遭っていたというのだ。
 知り合ったきっかけはお見合いサイト、最初のドライブデートの時、いきなり車の中で女性から迫られて体の関係を持ち、天にも昇る気持ちになって言われるがままに結婚したという。それほど夜のテクニックはすさまじく、毎日こんないい気持ちになれるのならと結婚したらしいのだ。
 しかし、結婚した途端、女は豹変した。一緒に暮らす元夫の母に納屋で暮らすよう命じ、一家のお金はすべて女が牛耳るようになった。日に日に憔悴していく母に、元夫が耐えられなくなり離婚して欲しいと切り出すと、女はヒステリックに暴れまくったという。毎日凶暴で自分勝手な女に振り回され、元夫は精神的に限界まで追い詰められてしまった。再び恐る恐る離婚を切り出すと、女は待ってましたとばかりに、離婚する条件として5000万円を要求。元夫は先祖代々の土地を売り払い、要求されるまま現金5000万円を女に渡し離婚できたという。
「常識なんか通用しないとんでもない女です。あの女は金だけが目的なんですよ。関わりを持っただけで、私は人生をめちゃくちゃにされました」
 私の直感通り、不倫相手の女は、問題だらけの要注意人物だったのだ。
 数日の調査で女の悪行を裏付ける証拠を、かなり多数入手することができた。しかも、一般的な不倫ではなく、相手はかなりのいわくつきである。
 私は、結果報告の際には、依頼者のセツコさんだけでなく夫も呼んで真実をつきつけた方がいいのではないかと提案。


 この夫がこの不倫相手の女と直接話し合いをすることになり、そこに探偵たちも待機して様子をうかがっていたのですが、そこからがまた凄かった。

 ともあれ女は、しばらく挨拶代わりの卑猥な言葉を夫に投げかけていたが、彼は少しも動じず、いきなりこう切り出した。
「七回も結婚・離婚しているというのはホントなのか?」
 突然の思いがけない問いかけである。女は一瞬驚いたようだったが、夫のただならぬ様子を感じ取ったのか、手を引っ張って店を飛び出していった。二人の様子を注視していた探偵たちも後に続き追いかけた。二人の姿を発見したのは、なんと、なぜか無人の交番だった。
 それほど明るくはない蛍光灯の下で、やおら女は洋服を脱ぎ捨てて全裸になり、夫にSEXを求めていたのである。何を意図して、こんな行動に出たのか誰も理解できなかった。
 もしこの瞬間に警察がやってきたとしたら、いろいろ事情を聞かれるだけならまだしも、何らかの罪に問われる可能性すらある。さすがにこの行動に夫もドン引きし、絡みつく裸の女の腕をむしりとって、無言で交番を後にするのだった。追いすがる女は絶叫し夫を引き留めようとするのだが、夫は振り向きもせず急ぎ足で夜陰に紛れていった。


 僕はこれを読みながら、「なんで交番?わけわかんない。そういう趣味なのか?」と思ったのですが、この夫はその理由を感づいていたそうです。これは、行為を警官に目撃させて、レイプされたと訴えようとしているのだ、と。
 ちなみに、夫にはこの女によって、多額の生命保険がかけられていたのだとか。

 どんなリアルキングボンビーなんだよ……

 こんなのわかるだろ、と思うのだけれど、わからなくなってしまうのが恋とか愛とか性っていうものなんでしょうね。
 「人を見る目」なんて、自分で思い込んでいるほど、たいしたものじゃない。

 総合探偵社MRグループでは、探偵学校も運営しているのですが、著者は、「探偵に向いている人」について、こう述べています。

 実は探偵に向いているタイプは、無個性で目立たない平凡な人なのです。よく個性的な人をキャラが立っている……と言いますが、そんな人は探偵に向いていません。なぜなら目立ちやすいからです。
 探偵の仕事は、常に隠密行動です。人込みに紛れれば、どこにいるのか分からなくなる無個性な人ほど、優秀な探偵になる可能性を秘めています。


 ミステリ史に名前が残っているような「名探偵」たちは、今の世の中での探偵業にはあまり向いていないようです。個性派ぞろいですからね……
 「探偵」という仕事に興味がある人は、読んでみて損はしないと思います。仕事はかなり大変そうだけど。


探偵物語 DVD Collection

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2017/11/08
  • メディア: DVD
それまでの明日 (早川書房)

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